鼠男
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「レシュリーさん、少し試したいことがあります」
「試金石って言ったでしょ。やりたいことをやればいいのよ」
アルルカの言葉を僕の代わりに拾って、アリーが言う。
「わかりました。やらせていただきます」
魔充剣タンタタンを前に構えてアルルカは目を瞑る。
「行くわよ」
やりたいことがなんなのか、わからないけれど、アリーに促されて僕はネズミの男に向かっていく。
コジロウとアリーが並走。倍増した速さに追いつくように【転移球】で少し後ろを僕は駆け抜けていく。
激突。
「チュチュチュ―のチュー!」
ネズミの男の長剣〔逃げ腰のセリクコ〕から蝙蝠男のような影が放たれていた。
「吸剣技だ」
「魔吸剣技じゃないだけマシね」
それは確かにそうだ。アルルカもアリーも魔法剣士系複合……上級職だからだ。
「お願いね!」
「わかってるよ!」
阿吽の呼吸で【転移球】を放ち、その影を回避。
「ッ! 回避しても追尾してくるでござる!」
「上位の技!? 鬱陶しい!」
「ってことは吸闘師だね」
使ってきたのは【吸剣・吸孤児鬼】だろう。
基本的には複合職、基本職で使える技能が下位、上級職で新しく覚える技能が上位に分類されている。
吸剣技で言えばフィスレが使用してきた【吸剣・黒魔狼】などが下位に分類される。
ただ、一部の技能、例えば投球や剣技だと、投球士系複合職や剣士系複合職だけではなく他の複合職も使用できるため、他の複合職が扱えるものを下位と分類しているものもある。このあたりはルーンの樹の裁量によるのだろう。
「だったら剣技と魔法剣にも注意が必要でござる!」
コジロウの忠告が飛ぶ。吸闘師は新しく剣技と魔法剣を覚えている。
多彩な攻撃をしながら吸剣技で傷の回復をするのが吸闘師だった。
「あの影は僕を追ってきてるみたいだ」
囮を買って出る。
ぎりぎりまでひきつけて回避。少し掠る。
「クッ……」
掠っただけなのに、体全体が痺れ出した。麻痺だ。
【吸剣・吸孤児鬼】の追加効果だ。
「麻痺には要注意! ってもうおみゃーに言っても遅いでチュか」
同時に一瞬でネズミの男が目の間に現れる。何が起こったのか分からなかったぐらい速い。
ネズミの男の剣には闘気と業火。
【火刃封月】だった。
「させないわよっ!」
コジロウの【転移球】でアリーが僕の目前に現れ、レヴェンティで受け止める。
刀身に宿るのは援護階級5の魔法【減熱壁】。
【火刃封月】に宿る炎をすり減らしていく。
「消し飛べ、レヴェンティ」
膂力で無理やり、長剣〔逃げ腰のセリクコ〕を弾き飛ばし、【減熱壁】を解放。
「すかさず崩れろ、レヴェンティ」
そのまま、アリーは地面に魔充剣を突き刺す。
地面にひびが入り、ネズミ男の足場をなくすように土が隆起していく。
攻撃階級8【獣満憶土】が解放された姿だった。
超剣師となったアリーは魔法攻撃ランク8、魔法援護ランク6までの魔法が放剣できるようになっていた。頼もしい。
足場を失ったネズミの男へとコジロウが強襲。
コジロウの影から黒い巨大手裏剣が飛んだ。影師の影法のひとつ【影裏剣】だ。
ネズミの男は体をひねって追尾。しかし、影師の体の一部というべき影からできた【影裏剣】はコジロウの意志によって方向を変えてネズミの男に再来。しかも今度は二個。
だが、ネズミの男はそれすらも避けて、崩れてない地面に着地。
そこでようやく僕の体の痺れが取れてくる。
「ごめん」
「気にしなくていいわよ」
「チュチュ。うちとやりあうなんておみゃーらは殺しがいがありそうだチュ」
「すばっしっこいのは改造でござろうな」
「ええ。それをどうにかしないと勝ち目はないかも」
「それじゃあ十二支悪星がひとり、コントンの恐怖を身に刻んで早く死んでくれチュ!」
僕たちが相談するなか、ネズミの男、コントンはそう宣言して再び向かってきた。
「行きます!」
そんなときだった、アルルカが小さくつぶやいた。
ルルルカが死んだときと同じ、青色の髪になって。
そうしてアルルカの身体が消える。




