転職
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白い部屋の中で声が聞こえる。
「あなたは上級職へと転職します。以下、複合職、ほかの上級職への転職は不可能となります。なお、ランク7になったことでエンドコンテンツへの突入、またはそれに関連した知識が解放されます」
何かを言っているのは理解できた。けれどそれは聞いたことがないような言葉。僕たちが普段使っているような言葉ではなかった。
「ようこそ――新世界へ」
消える直前に聞こえた声はなんて言っているかわからなかったけれど、歓迎されているような気がした。
***
「これで全員が終わったわね」
アリーの愛おしい声が聞こえて、僕は戻ってきたのだと実感する。
「あんまり上級職になった感じがしないね」
「ホントそれ」
ハエトリグサを倒して、進んだ先には宝石があった。これで七つ目。『一時の栄光』という名前の宝石はランク7になった証だった。
その近くにあった七つの窪みに嵌めたことで僕たちは上級職へと転職していた。
案外すんなりで拍子抜けだった。
「でも実際に上級職の知識と、エンドコンテンツ?っていう聞き覚えのない言葉が理解できてる」
けどアリーの言う通り、確かにその知識がある。
僕も薬剤士の上級職である錬金術師になっていた。述べた通り感覚はないけれど、その知識がなったという実感を湧かせた。
「それがなんなんのか、はともかく…今まで聞いたこともなかったディエゴもそこから来た感じがするわね」
「でござろうな。手に入れた知識によれば、そこに入れば、世界から情報が消える――つまり行方不明になるってことでござるな」
「そんな人がこちらに出てくるなんてよっぽどの事情があるってことなんでしょうか」
「それでも、シャアナたちを狙ってくるなら倒さなきゃならない」
「まあそうね。じゃあとっとと脱出して準備しましょう」
「とその前に、試しに【分析】を使ってみてみるでござるか」
「はあ? あんたそんなキャラだっけ?」
「でも私は見てみたくありますよ。皆さんのステータス」
「最近はそれ流行ってるの? ステータス見たところで、結局熟練度とかその他諸々影響してくるのよ」
「その理屈めいた言い草はレシュ殿みたいでござるよ、アリー」
「げ! それは嫌ね。まあいいわ。ここなら【分析】を不用意に使っても大丈夫でしょ」
「なら使うでござるよ」
言ってコジロウは【分析】を使っていく。
僕たちは保護封を持っているけれどコジロウに信頼を置いておけば、コジロウはきっちりと【分析】可能だった。
アルルカも当然のようにコジロウが効力を発揮できるようになっていた。
それはある意味で信頼の証ではあった。今更ではあるけれど。
それぞれの数値化したステータスが表示される。
レシュリー・ライヴ
LV902 錬金術師〈双腕〉 ランク7
ATK:36982 INT:58630 DEF:15334 RGS:44649 SPD:30217 DEX:75317 EVA:36531
アリテイシア・マーティン
LV923 超剣師〈操作無効〉 ランク7
ATK:52611 INT:52611 DEF:29997 RGS:15229 SPD:59533 DEX:59995 EVA:29997
コジロウ・イサキ
LV909 影師〈中性〉 ランク7
ATK:15907 INT:14998 DEF:14998 RGS:14998 SPD:111352 DEX:73174 EVA:52267
アルルカ・アウレカ
LV702 魔癒双剣師〈天才〉ランク7
ATK:57915 INT:73359 DEF:12285 RGS:29484 SPD:22815 DEX:17550 EVA:18252
「なんていうか……アルルカって才覚持ってたんだね」
【分析】を使わない、または自覚しないせいで才覚があることを知らない冒険者は多数いるが、何気にアルルカもそうだったんだろう。
レベルが低いアルルカのステータスがすでに僕やアリーを超えているものがある。
「すいません、なんていうか……今、知りました。すごいおこがましい名前でごめんなさい」
「まあ、そういうこともあるでござる。むしろ、自覚していたほうがやりやすいと思わないでござるか?」
提案したコジロウも唐突な才覚の判明に戸惑っていた。
なんにせよ、僕たちはランク7上級職に到達したのは確かだ。
にんまりとアリーを見つめる。
「何よ?」
「いや、アリーはすごいなあって思って」
「あっそ」
そっけないけれどアリーはどこか嬉しそうだった。才覚がないアリーがここまで到達しているのは僕にとってもうれしい。少し上から目線なのかもしれないけれど。
「ほら、とっとと外出るわよ。空中庭園で待たせてる連中に悪いわよ」
***
「レシュリー・ライヴを知っているでチュか?」
封印の肉林を出た途端だった。
まるで待ち構えていたかのように、フードで顔を隠した男が問いかける。
「知ってるも何も……ここにいるけど?」
アリーが僕を指し示す。
「チュチュチュ、それはこちらの不チュー意でしたでチュ。けれど好チュ合でチュね!!」
フードを取り見えたのは鼠の顔。長い爪を伸ばして僕へと向かってくる。
「何が目的よ?」
アリーが弾き飛ばし臨戦態勢。
「レシュリーを殺す、レシュリー・ライヴを知っているものを殺す、ただそれだけでチュ!!」
「油断するなでござる。獣化士には見えないでござる。おそらく――」
「改造者だろうね。ディエンナ関係か何かかな?」
「ちょうどいいわ。こいつを試金石にしましょ」




