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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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体術


120


「とはいえ、私たちが相手で相手は不運だな」

「知るかよォ。どんな相手でも厄介なやつらは消しとくに限る」

 ディエゴはそうは言うが、不敵に笑う。

 トワイライトの言う通りダイエンケンがこの二人に遭遇してしまったのは不運だった。

「随分と余裕だなブヒ?」

「まあな。たかがランク7の改造者が俺たちに勝てるわけねえだろォ?」

「たかが……? たかがブヒ? オデはランク7でレベル上限よブヒ」

「イキるな。その言葉はもう飽きた」

「ブヒヒ……腹立つブヒ! けどオデにオマエは絶対勝てない理由があるブヒ」

「それはなんだ?」

「これブヒィイイイ!!」

 意気揚々とダイエンケンが叫んで、技能を発動。

 ディエゴの黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕、そしてトワイライトの聖剣〔隕鉄のルバルトハウアー〕がダイエンケンの手元へと移動する。盗まれたのだ。

「これでオマエらは何もできんブヒ」

 それは【武具強奪(アイテムスティール)】と呼ばれる強盗師の技能だった。

 本来ならダイエンケンの熟練度、そして強さの差が成功率になるのだが、改造によって、何者からでさえも一方的に武器や盾を盗むことができた。

 しかも武器が強奪されている間、【収納】にある武器を取り出せないという効力も持っていた。

「で?」

 ディエゴは文字通り一蹴していた。

 強烈な蹴りが顎へと直撃。見事なまでの上段蹴りだった。

「ブヒィ」

 豚の鳴き声のような悲鳴が聞こえてきた。

「ブヒ、ブヒ、ヒィ」

 さらに悲鳴は続く。ディエゴの蹴りに続き、トワイライトの拳、ディエゴの頭突き、蹴り、拳……ふたりによる連携攻撃だった。

 そこに闘気はない。純粋な力による体術だった。トワイライトは丁寧で的確、ディエゴは雑で豪快。

 ミスマッチのような組み合わせのベストマッチ。

 この世界の職業の技能に体術の技能はない。拳に闘気はなく、蹴りにも闘気はない。当然、頭突きにも。

 純粋で圧倒的な力を持つふたりが、今までの経験で培った体術で、ダイエンケンを圧倒していた。

「ブヒ、一体、何、なんな、んだブビ」

 強さの波にダイエンケンは溺れるように途切れに途切れに、呼吸を吐くように驚愕の言葉を吐き出していく。

「武器を盗られて動揺するのは二流だ。何せ、※◆ΧΓ§には武器なしで戦う場所もあるんだからよォ」

 ダイエンケンにはエンドコンテンツという言葉は認識できなかったが、それでも彼らが武器を盗られても動揺しないことは理解できていた。

 ディエゴもトワイライトも三流の強盗師が、初手か二手目で【武具強奪(アイテムスティール)】を使用し、対峙している冒険者の武器を盗むことは把握済みだった。

 武器を盗めば何もできない、と思われがちだが、一流をとっくに超越した冒険者にはあらゆる状況に対応できる技術があった。

 体術もその技術のうちのひとつ。

 ふたりの連打が、まるで豚肉を柔らかくするかのごとく、ダイエンケンの猪の肉体を殴り、蹴り、圧倒的に蹂躙していく。

 ダイエンケンはまな板の鯉もといまな板の豚だった。ダイエンケンという材料が一方的に調理されていった。

「二分だ」

 無限にも思えた時間が終わる。

 息ぴったりに足を揃えて蹴り飛ばすとダイエンケンはせっかく奪えた武器を落としていた。

「ブヒヒ」

 地獄のような二分が終わり、盛大に深呼吸をしたダイエンケンはふたりをにらみつける。

「降参はしねェよな? させねェけど」

「ただ少し翻弄しただけで、調子に乗るなブヒィ!! まだオデが圧倒的に有利なのは変わりないブヒ」

「お前、もしかして【権利剥奪(スキルスティール)】があるから有利とか思ってねぇか?」

 ディエゴは冷笑する。

 【権利剥奪(スキルスティール)】は技能の使用権利を剥奪する。すなわち使用不可にする技能で、【直襲撃々】が使用直後に闘気を失ったのはこの技能の影響だった。

 技能が使えなければ純粋な武器での勝負になる。

 そしてさらにダイエンケンは武器すらも奪える。

 だからダイエンケンはまだ自分が有利だと思っている。

「体術で圧倒されている時点でお前の負けは決まってんだよォ!」

 冷酷な宣言をされてもなお、ダイエンケンは理解していなかった。

 これから身を以って知ることになるのだ。

 ディエゴが武器を【収納】して、勢い良くダイエンケンの顔面に拳を叩きつけた。

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