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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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薬品


118


「【合成】しなくていいの?」

「何かあるかもしれない」

 アリーの問いかけに僕はそう推測していた。

 何も起こらずに消失、もしくは問答無用で失敗するなんて事態は笑えない。

 むしろそういうことが起こってもおかしくない、そう感じさせるのがこの試練だった。

 世界改変によって様々な変化が起きている。

 欲を言えば【合成】して新しい球を作るのも手なのかもしれない。

 けれど、ここは素直に使うことを選択する。

 投球で培った投力を活かして、薬品を投擲。

 細長い試験管のような瓶に入った薬品は弧を描いてハエトリグサに向かう。

 ハエトリグサもそれを忌避するかのように葉で払いのける。

 葉と薬品が衝突。

 バリンとガラスの瓶が割れる。

 払い除けられたようにも見えた。

 けれどベチャリ、と塗布されるかのようにハエトリグサの葉に薬品がついていた。


 途端、溶解。


 酸で皮膚が爛れたときのようにジワジワ、ジワジワと溶解。

 白煙があがり、その溶解は広がっていく。虫に寄って蝕む、それこそ虫食む葉の姿がそこにはあった。

 溶解の仕業で、ハエトリグサは確実に弱っていった。

「さっきの薬の正体は細菌だったのかもしれない」

「細菌って種類多すぎじゃない?」

「うん。さすがに僕でもどんな種類かはわからない。けど確実に植物に効果があって、そして光に弱いのは間違いない」

「光? ……だからインフタフライの撮影で消滅したんですね」

「熱消毒でござるな」

「インスタフライ一匹一匹だと雑魚だし、撮影時の光も大したことないけど、数が多すぎて殺菌できるほどの熱量を持ったってこと? やっかいすぎるじゃない」

「なんにせよ、一個死守したから活路が見いだせた」

 下手をすればインスタフライの物に執着しすぎるという熱量が、薬品をも消失させるところだった。

 前提で木箱だって破壊されている。破壊されたのち再び修復される、もしくは出現するという保証はなかった。

 この部屋も当然やり直しが効くけれど、その労力を考えればやり直さないほうがいい。

 虫食いのように溶解していくハエトリグサに僕たちは総攻撃を仕掛ける。

 もてるすべての力を出して、ハエトリグサへと挑んでいく。

 炎属性が弱点とわかっているのだから、もう苦戦はしない。

 やがて、

 再び天井から癒しの雨が降ってくる。

 この雨でハエトリグサは再生し、猛威を振るったけれど

 それはもう起きなかった。

 細菌が蝕んだことでハエトリグサへの回復を阻害しているのだろう。

「倒せる!」

 それはもはや確信だった」

 薄暗い、植物の迷宮。それを踏破するのも時間の問題だった。

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