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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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炎攻

115


「純粋に植物系魔物と見ていいのかしら」

 アリーがハエトリグサの体躯を見上げる。

 ハエトリグサという魔物は背の高い草本で、茎は縦に長い。複数茎を延ばすのではなく、あくまで一本の長い茎で、先ほどバエル・ゼブブを巧みに追いかけたように、伸縮性があり、自在。 噂では蝶々結びをしても折れないほどらしい。

 先端がやや上向きの葉はロゼット状――つまり地面に平らになるように並んで生えている。

 先端はつぼみのような捕虫口。二枚貝のような形状の口になっており、先端には棘。口の中は紫で妙な禍々しさがあった。

「行こう」

 植物系魔物は炎に弱い、というのは冒険者のみならず冒険者ではない者のなかでは有名な話だった。

 何せ植物もよく燃える、その理屈が、植物自体の特徴を取り入れた魔物にも通用する。

 もちろん燃えない植物があるのなら、その特徴は生かされる。

 植物の特徴を取り入れた魔物の一番の特徴は光合成によって生存できることだ。

 ハエトリグサが瀕死ながらも生きていたのはそのおかげなのだろう。

 僕の両手には【火炎球】が握られ、アリーのレヴェンティには【炎轟車】が宿る。

 アルルカもタンタタンに【熱風】と【弱炎】。

 コジロウは忍者刀を握るが攻撃時には【伝火】によって炎を宿らせるのだろう。

 無慈悲なまでの火攻めだけれど、そんなにはきっと甘くはない。

 うっすらとそんな予感がした。

 まずは僕の【火炎球】がハエトリグサの屈強な蔦へと直撃。衝突した個所から炎は燃え広がらない。

 巨体に対して僕の【火炎球】の火力が小さすぎる。

 がそこにコジロウの【伝火】が炸裂。

 僕の灯した小さな炎を大きくしていくような作業。

 同時に【着火補助球】を投擲。ぶつかる瞬間にアルルカが【弱炎】のタンタタンで一撃。

 炎が広がりを見せる。

 アルルカが回転して二撃。今度は【熱風】。風を纏ったタンタタンがハエトリグサの茎へと深く入り込む。

 が一歩前に出るのではなく後退。

「はああああああああああああああ!!」

 いや交代。入れ替わるようにアリーが前へ。

「ぶち込め、レヴェンティ」

 アルルカの切り込んだ切り口へ寸分違わずアリーがレヴェンティを斬りつける。

 さらに傷口を広げ、解放した炎がまるで滝昇る鯉のようにハエトリグサの上へ上へと伝っていく。

 そんな猛攻を許さず、

「ソダァ」とハエトリグサが茎を曲げ、捕虫口をアリーへと向ける。

 一度下がって軽々と回避。合間を縫ってアルルカが今度は迫る。

 人数的には僕たちが有利。

「コジロウ」

「わかっているでござる」

 コジロウが【火炎球】を投球。僕が【着火補助球】と【火炎球】を投げ、燃料を投下。

 まとわりついたハエトリグサの炎を増やしていく。

 回避して距離を離したアリーの代わりにアルルカが連撃。

「そっち行くわよ」

 アリーの忠告が飛ぶ。

 瞬時にアルルカが向きを入れ替えてハエトリグサの捕虫口を抑え込む。

 それをわかっていたのだろう、アリーはアルルカの横を通り抜け、ハエトリグサへと向かう。

 ひとりでなんとかできると判断していた。アルルカにとっては信頼の証。

 右手にはレヴェンティ。左手には狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕。

 そして回り込むように応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕。

 繰り出される技能は分かりきっていた。

 【三剣刎慄】。

 その瞬間、ハエトリグサの頭上、水晶から大量の水が降り注いできた。

 それは癒しの雨だった。

 ハエトリグサの上へと伝っていた炎が消え、せっかくの傷口も塞がれ始めていた。

 元気になったハエトリグサは口を加速。押さえつけていたアルルカごとアリーを巻き込んでふたりを吹き飛ばす。

「これが次の仕掛け……」

 アリーとアルルカ、ふたりが壁に衝突を防いで僕は呟いた。

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