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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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撮王

112


 それはバアル・ゼブルでもベルゼブブでもなかった。

 六の部屋の前でコジロウとアルルカと合流した僕とアリーは部屋の前でそいつを見据える。

「ハエトリグサがボスじゃなかったのかしら?」

 アリーの疑問はもっともだ。僕だって戸惑っている。

「一応下に見えるのがそうではござらんか?」

 確かにハエトリグサの姿も見える。でも――

「もうとっくにやられているじゃない!」

 そいつを指してアリーは言う。

 そうなのだ、ハエトリグサはすでに息絶えていた。空中に佇むそいつがやったのだろう。

「【照明球・青】が通用したら楽勝だけど、たぶんそうそう巧くはいかないだろうね」

「そんな気がしますね」

 そいつの存在は以前から確認はされていたけれど、見たことはない都市伝説のようなものだと思っていた。

 けれど、その都市伝説のような魔物は今、六の部屋の前にいた。

「インスタフライがいた時点でこの可能性も考えておくべきだった」

「いや普通でもそこまで考えは至らないでござろう。ググルマワリとの戦いでは確かに邪魔になったが、普段は鬱陶しいだけの魔物でござるからな」

「けど、ハエに対しては絶大な強さを誇るはずのハエトリグサがこうして負けているんだよ」

「そこはさすが王と言うべきなんですか?」

「とにかく、ここを突破しなきゃ試練は合格できない。レシュ、あんたは多少は知識があるんでしょ? だったら対策を考えて」

「【照明球・青】も念のため試しておいたほうが良いでござるな」

「分かっているよ。なんとか考えてみる」

「攻撃方法も読めないし、ハエトリグサもあれでいて死んでないかもしれない」

 アリーの警戒が飛ぶなか、僕たちは六の部屋に突入する。

 突入と同時にそいつの羽音の勢いが増し、両目から閃光がバチバチと点滅するように放たれた。

 そいつは名前が似ているがバアル・ゼブルでもベルゼブブでもなかった。

 ベルゼブブのように蠅の王ではあるが似て異なるもの。

 名をバエル・ゼブブ(映撮王蠅)

 映えるものの撮影に命を懸け、邪魔するものには容赦しない、インスタフライの頂点。王の名だった。

 見た目はまんまインフタフライ。ただただ大きかった。僕の身長をゆうに超えている。

 気高く、というよりも忌々しく部屋の中央に、あたかも集るように君臨していた。

 天井にあるのは神々しく光る水晶、そこから醸し出されるのは神秘的な景色。

 そんな風景を独占したい、それだけの理由でこの場にいた、ある意味で試練の守護者であるハエトリグサを問答無用に倒したのだろう。

 僕らを見つけたバエル・ゼブブは同じ理由で羽音を鳴らし威嚇してこちらへと向かってくる。

「焼き尽くせ、レヴェンティ」

 先制はアリー。

 瞬時に魔充剣に宿した【超火炎弾】を解放。

 バエル・ゼブブ以上の大きさを持つ、巨大な火の玉が王に直撃。

 爆炎が晴れ、見えたのはバエル・ゼブブの無傷の姿。

「効いてない!?」

「何か仕掛けがあるのでござるか?」

 壁を走りながら、コジロウが思案。

「また踏みつけるんでしょうか」

 バエル・ゼブブの上空へ僕の【転移球】で転移していたアルルカが一言。

 魔充剣タンタタンで背後を斬りつける手前、バエル・ゼブブが圧倒的な速度で方向転換。

 お尻から何かを吐き出す。

 その何かごと、バエル・ゼブブを両断――できない。吐き出された何かの正体は――卵。切り裂いた感触は妙に柔らかい。

 そのままバエル・ゼブブに当たった魔充剣は弾かれる。

「背中を警戒したでござるか?」

 急速転換によって背後をかばったと察したコジロウが壁からバエル・ゼブブに飛び乗っていた。

 そのまま忍者刀を突き刺す。

 が刺さらない。背後をかばったように見せかけただけの囮。

 羽ばたきが増し、コジロウを吹き飛ばす。

「無敵……ってわけじゃないわよね?」

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