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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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魔絶

109


 トンタンにはキンさんとクマモが当たる。魔物使士の上級職、教鞭師との戦いは正直相性が悪い。

 が人の操っている魔物を奪う、いわゆる泥棒行為はできないため、クマモを操られる心配はない。しかして先もあったように調教技能による特効があり相性は悪い事実は覆せない。

 それでもトンタンにはキンさんとクマモが当たらねばならなかった。

 絶対的に有利な戦闘はない。

 けれど【恰・最後の口づけ】は避ければいいだけだ、というのはやはり無理がある。

 とはいえ、相手の技能は鞭に依存し、その効果を使用しきるまで、次の技能は使えない。

 もちろんこれは他の技能にも言えることだが、だとしたらやりようもある。

 鉞〈担いだキンヤロー〉を担いでキンさんはクマモに跨り、馬の稽古と言わんばかりによちよちと前進。がすぐに加速。

 そうなったクマモの走りはランク3以下の冒険者よりも速い。その速度のクマモに手綱もなしに跨れるキンさんはもはや稽古など不要の熟練の騎手だった。

 巨漢の突進にわずかにたじろんだトンタンはやや遅れて【恰・最後の口づけ】を繰り出す。

 それよりも早くキンさんは鉞を振るう。鞭を両断するつもりはなかった。

 キンさんにそんな技術はなかった。ただ鞭の軌道上に鉞がありさえすれば、鉞にぶつかった鞭はぐるぐると巻きついてくれる。

 こうなればあとはちからずくだ。

 巻きついた鞭を引っ張り、引き寄せる。トンタンは技能を使えなくなることを恐れたのか、意地でも離さない。

 やがて力負けして、あとわずかに根負けして、宙に浮いて、叩き落される。

「ぐえっ」

 蛙が鳴いたような声で嗚咽。肺がつぶされそうな衝撃。

 立ち上がるも、離してしまったがために鞭はキンさんが略奪。

「ぴゅぃい」と口笛を吹いて、アナコブラが出現。オオアナコブラよりもだいぶ小さいが数が多い。

 そのなかの一匹を掴み、キンさんへと撓るようにぶつける。

 そのアナコブラを覆うのは闘気。

 アナコブラが技能を使っているとそう判断したキンさんとは裏腹にクマモが減速。

 その減速が危機回避だと直感で感じたキンさんは足でクマモの進路変更。

 ぎりぎりで避けると、トンタンの掴んだアナコブラがちょうど穴から強襲しようとしていたアナコブラへとぶつかる。

 出てきたばかりのアナコブラはまるで怯えるように穴へと引き返す。

 トンタンの掴むアナコブラを覆っていた闘気は【恰・堕落の口づけ】使用時に鞭にまとわれるそれだった。

 つまり、

「ヘビを鞭に見立てたでごわすか」

 小さくぼやいたキンさんはクマモの頭をなでる。クマモが減速しなければ、そのまま鉞で受け、下手をしたら恐怖や混乱に陥ったところを下からアナコブラに噛みつかれていたかもしれない。

 サクガクに向かっていたGO! EMONがアナコブラに衝突し次々と爆発を起こしていく。

 トンタンもわずかにだがその被害を受けた。アナコブラの近くにいすぎたのだ。

「ごわすぅ!」

 十分に近づいてからクマモから跳躍。鉞を振り上げて、まずは握っていたアナコブラを切断。

 胸倉をつかみ上げ、巴投げの要領で後ろに投げる。

 向かう先には立ち上がったクマモ。咆哮をあげて大きく熊の手を振り下ろす。

 そのまま元いた場所近くまでトンタンは叩きつけられた。

 そうして準備が整う。

「【憤怒炎帝(アードラメルク)】!」

「【光閃冠(ライトニングサークル)】!」

「【乱氷暴雪(ジェアダ・ヌヴァスカ)】!」

 三者三様。リアンがどちらかの得意属性に合わせることで二重となり、威力増加を狙うことができたが、そこはリアンの優しさなのかもしれなかった。

 できうるだけ殺したくないというモモッカの意志をどこか尊重して、話し合うまでもなく、属性はずらす。

 攻撃魔法階級はいずれも7。上位と言えば上位だが、階級10の魔法がぞれぞれ使えるシャアナ、アズミはそこで留まったとも言える。

 それはやはり、モモッカの意志を尊重した配慮なのだろう。

 はっきりと敵対しているのなら、なんであれ倒してしまえばいいだけだ。

 けれど、なんだか分からぬうちに敵対して、しかもなぜか改造までされて別人格になっている。

 そんな状況で殺してしまうかもしれない攻撃はできなかった。

 せめて致命傷、戦闘不能程度にして事情を知りたいという気持ちがどこかにあった。

「こっちだケン」

 エンモはアルとのつばぜり合いを強引にやめて、クマモに叩きつられたトンタンが反撃に出ることなく、サクガクの声に呼応して集まる。トンタンの周囲にGO! EMONの姿はもうない。

 犬、猿、雉の三人が集まると、サクガクが手を振り上げる。犬、猿たるエンモとトンタンはサクガクの背中に手を当てた。

「【雉鳴不射】」

 サクガクが一言。

 振り上げた手から三人を包み込むように障壁が展開。

 三人めがけて発射されていた炎、光、氷の魔法が、障壁へと衝突。左右に分かれて周囲の景色を焼き、焦がし、はたまた凍らせていく。

 障壁内には衝撃もなく、犬猿雉は無事だった。

「聞いてないでごわすか」

「なんなんでありまするか、あれは」

 キンさんとジョンが戸惑う一方、遠方でも防がれたシャアナがこう推測する。

「【魔絶壁(シアクリフ)】?」

「その割には詠唱がありませんでした」

 リアンの言う通り、癒術援護階級7【魔絶壁】にはそれなりの詠唱を要する。

 シャアナも間違いなく改造によるものだろうと見当はついていた。

 けれど三属性の攻撃階級7の魔法が通用しない。それが信じられなかった。

 ある種の悲観にくれるよりも早く、アルだけが動き出していた。

 先ほどの【雉鳴不射】はサクガクが使用していた。

 だとすれば、サクガクを倒せば、ほかのふたりには魔法による攻撃が通用する。

 ――行くぞ、アーネックっっっ!!

 友の名を呼んで繰り出すは、アルの固有技能【新月流“追撃の太刀”・壊軌日蝕】。

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