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その手前、クマモの死を覚悟を無下にするように尻尾が燃える。
【強炎】にしてはというと表現が変かもしれないが、【強炎】にしては強い炎だった。
「争技場からあまり出たくはなかったんだけど。あいつがいるわけでもないし。でもそんな理由で渋っていたら、ボクが生きている意味がない」
クマモを守ったシャアナはそうひとりごちる。
ラインバルトを喪った悲しさが今にして後悔となり、翳りとなった。常に明るいシャアナだったが、今は空元気で頑張る理由を探しているようでもあった。ラインバルトを愛していたわけではない。好きという感情すら気づいてやれなかった。今は違う。喪ってからもしかしたらそうだったのかもしれない、と思い始めた。思い始めたからこそ後悔していた。
もっと違う接し方もあったんじゃないのか、とかそういうことが頭から浮かんでは消え、消えては浮かぶ。
ディエゴにトドメを刺さなかった判断を下したレシュリーにシャアナは従ったが、そのことも後悔していた。
レシュリーに対する怒りがわいたわけではなかった。あの時はそれが正しいと思った自分に嘆いているわけでもなかった。
ただどこにも整理がつかない気持ちが時間が経つにつれ膨れ上がっているようだった。
生き延びた自分が頑張らないと、と気負い過ぎている。
アルもリアンもそんなシャアナをこの場に連れていくのには躊躇いがあった。
けれど本人が大丈夫と言うものだから致し方ない。
シャアナは間違いなく戦力になる。アルとリアンは危なげないが頼りになるシャアナを見守りながら戦うことに決めていた。
シャアナの【強炎】と共演するように、あるいは競演するように光の刃が飛んでいた。
魔法攻撃階級2【光刃】の鋭く光輝な刃が素早く好機を逃さずオオアナコブラを両断。
アルとリアンが安心してエンモとサクガクを相手取り、トンタンを自由にしていたのは、シャアナと、そしてもうひとり――
アズミの姿が到着するのが見えていたからだ。
「大丈夫なようですね」
ニコリとクマモとキンさんに向けてアズミは笑顔を見せる。
マガツカミ教のアズミが美人であることなら空中庭園の誰もがも知っている周知。大の男がその笑顔に充てられて羞恥も隠さずに照れてしまう。
「ク、クマモを助けてくれてありがとうでごわす」
気づいたように照れた顔を隠して、心底強面を装って、キンさんはお礼を述べる。
ふたりが来なければクマモが死んでいたのは事実だ。
「状況がよくわかりませんが、彼らは敵でよろしいのですか」
「とりあえずは。けど、彼らはモモッカさんの仲間だったんです。何か救う手立てがあれば優先したい」
一度退いて全員が合流する。
モモッカにジョン、キンさんにクマモ。アルにリアンにシャアナとアズミ。
対するはエンモとサクガクにトンタン。人数はモモッカたちのほうが有利だが、ランク7とランク6以下の冒険者では圧倒的にランク7が強い。純粋に考えると人数による優位性がランク差を覆せなければ負ける戦いだった。
ちなみに空中庭園には闘球専士もいるうえに冒険者をやめたグラウスとマリアン、そして〈闇質〉のゲシュタルト。その三人に付き添うルクスとマイカがいる。
グラウス、マリアン、ゲシュタルトは物見遊山気分で観光を楽しんでおり、ルクスとマイカはその護衛。闘球専士たちは優勝を争う究極極限期間前のため手助けを頼みにくい状況にある。
ゆえにこれ以上の増援はほぼあり得ず、人数は三人対七人と一匹となる。
もちろん調教師トンタンがどれほどの魔物を使役しているか不明のため、この人数による優位性もどれほどあるのか分からない状態だった。
それも念頭に置いたうえで、ひとまずアルは三人を倒すための作戦を立案する。元に戻す手立ては後回し。手負いにして捕縛するなりしてから考えるべきだ。




