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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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別人

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「やっぱり三人は、すでに別人と見るべきでありまするな」

 三人をUMIGAMEと目視で観察していたジョンは言う。

 顔は同じでも、その言動があらゆるかたちで違っている。

「いったい、どうして? なんで?」

 事実を認めたくなくてモモッカは叫ぶ。

「いったん、退くでありまするか、キン氏」

「そうでごわすな。と言いたいところでごわすがもう遅いでごわす」

 敵は三方に別れ、それぞれに向かってきていた。

 道を塞いでいたクマモをサカタは呼び戻す。

 ドッカーだったエンモ(戌星)はモモッカへ。

 バードルだったサクガク(酉星)はジョンへ。

 モンキッキだったトンタン(申星)はキンさんへ。

 モモッカもジョンもサカタも三人が獣化士だと分かっていた。

 しかもそれぞれ、ドッカーは犬系、バードルは鳥系、モンキッキは猿系の魔物に獣化すると知っていた。

 だから対処できるだろう、そう思っていた。

 実際、キンさんとジョンはドッカー、バードル、モンキッキよりもランクもレベルも上。

 その数値だけ見れば格下の相手に負ける道理はなかった。

 とはいえ、油断は当然しない。ランクやレベルの差で勝負は決まらないとサカタもジョンもモモッカでさえも理解していた。

 が、一瞬だった。

 まるで赤子の手を捻るように圧倒的だった。

 キンさんもジョンもモモッカも深手を負っていた。キンさんとトンタンの間に割って入ったクマモですら致命傷。

「これは改造でごわす」

 獣化しない三人。にも拘わらず三者三様の強力な技能。

 思わず地面に膝をついたサカタは告げた。

 決定づけるのは早計かもしれないが、もはやそうとしか思えない。

「誰かに改造者にされ、副作用で記憶を失った可能があるでごわす」

「なるほどでありまするな。それなら鬼門が不安定な意味も理解できまする。生きていまするのに死んでいまする。人格自体がなくなってはいまするが肉体や魂が或りまするからこそ、封印がまだ解けてないと解釈できまする」

「じゃあ、どうするの?」

「ゆっくり考えている暇はなさそうでありまする」

「でごわすな」

 三人はとどめを刺さんと動き出していた。

 エンモ、サクガク、トンタン、三者三様の攻撃を見ていたキンさんはそれぞれがどんな上級職なのか理解し、そして改造のおぞましさに恐怖する。

 ドッカーだったエンモは聖義師、モンキッキだったトンタンは教鞭師、バードルだったサクガクは剛弓師。

 上級職である以上、ランクは7。ジョンやキンさんのランク6、モモッカのランク4を上回っていた。

 モモッカへと向かうエンモの手には魔充剣ガロウが握られていた。

 聖法剣士は癒術と魔法剣に加え、魔法剣に癒術を宿すことが可能だった。その上級職である聖義師は使用可能な癒術、魔法剣の階級が引き上げられる。上級職専用の技能というものはないが、階級が引き上がったことで戦術の幅が増えている。

 エンモの魔充剣ガロウに宿ったのは援護魔法階級5【麻痺(インパルスショック)】。

 これを宿したことでガロウで切り裂いた相手に即時に麻痺させ、追撃をも可能だった。

 その刃を受けモモッカは体を硬直させる。追撃の刃が振り上げられた。宿っているのは再び【麻痺】。

 トドメを刺せなくてもまた殺せる機会が生まれる無慈悲な魔法剣だった。

 

 サクガクはある程度の距離を開けて矢じりをジョンに向けていた。

 弓士の上級職たる剛弓師は魔弓技を使用することができる。

 かつて〈早熟〉の才覚を持つグジリーコも就いていた上級職で、その特徴は属性を二つ持つ魔法の矢を放てることだ。

 複数の弱点を突ける意味でも討伐に際して効果は絶大な魔弓技がジョンにも牙を向けた。

 矢がサクガクの持つ長弓〔風来坊ジレンヤ〕から放たれた瞬間、ジョンはその矢を見失っていた。

 目を離したつもりはなかったが、まったく見えなかった。

 サクガクが放ったのは【KOUFUU(こうふう)】。光属性と風属性を併せ持つ魔弓技だ。

 その軌道は光を纏い、風に包まれてはいるが、その速度がおかしい。ほぼ光速だった。

 瞬きすら許されなかった。瞳を閉じたときに訪れる、視界を遮る闇の時間、その一瞬ですでにジョンの足に突き刺さっていた。

 見失ったわずか一瞬で。

 そして再びサクガクは弦を引いて弓を構える。矢は怒り狂うように轟々と燃え盛り、火花を散らすようにバチバチと弾けている。雷/炎属性を持つ【RAIKA(らいか)】だった。

 足をやられ行動不能に追いやられたジョンの目の前で矢は放たれた。


 魔物使士の上級職である教鞭師は当然、魔物使士のように魔物を使役することも可能だが、同時に魔物に対しての有効打を持つ。

 その名も調教技能。この技能で弱めた魔物は操作技能が効きやすくなる。【使役】しやすくなる。【封獣結晶】による捕獲がしやすくなるなどの特典がつく。もちろん、他人が使役、もしくは捕獲した魔物を捕るのはドロボウになってしまうためできないが、それでも他人の魔物に対しても有効打になる。

 クマモが一気に追いつめられたのはそのためだ。

 トンタンが使用したのは【恰・最後の口づけ(ラスト・キッス)】。異形系の魔物に特効を持つが、オニグマのクマモのように動物の熊に一部分が違うというような魔物にも効果がある汎用性があった。

 鞭でなければ使えないという制限があるが、威力は絶大。

 荊鞭〔棘あるバラード〕によって繰り出されたその調教技能はクマモを致命傷に追いやり、さらに追撃で繰り出した【恰・神風(カミカゼ)】の一撃はキンさんの胸を抉り、ざっくりとまるで大剣で斬撃を繰り出したかのような傷を作っていた。

 同時にトンタンにも傷を負う。

 必ず自傷するが、人間や亜人系魔物に特効を持つのが【恰・神風】という技能だった。

 さらに荊鞭の表面にある棘が皮膚に食い込み切り裂いたのも追い打ちとしては十分だった。

 なのに、トンタンはさらに追い打ちをかけようとしていた。

 【恰・堕落の口づけキッス・イン・ザ・ダーク】。特効こそ持たないが、打たれたものを恐怖に陥れ、混乱に招き入れる効果がある。


 魔法剣【麻痺】による追撃の痺れる刃がモモッカに、

 魔弓技【RAIKA】による紫電迸り燃える矢がジョンに

 調教技能【恰・堕落の口づけ】による恐怖と混乱の鞭がキンさんに

 その存分の効果を最大限に引き出して直撃する。

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