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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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御供

104


 その三人は、なぜだか三人で行動していた。

 理由は分からない、それでもなぜだか三人で行動しなければならないような気がしていた。

 その三人は、三人一緒になぜだか空中庭園を目指していた。

 理由は分からない。

 それでも空中庭園へと足を運んだ。

「やっぱりウラさんの探知は正確だね」

「それは当然でありまするな」

 モモッカの感嘆にウラさんことジョン・ウラシーマは鼻高々に告げる。

 モモッカを攻撃し消えたドッカー、バードル、モンキッキを探すべくモモッカたちが取った行動は――待機。

 果報は寝て待てと空中庭園の言い伝えを地で行く待機だった。

 とはいえ何もしないわけではない。

 ジョンの手によって網が張られていた。滞空型偵察機・小(自作)によって。

 操縦技能【器用操縦】をジョンは使用できないが、ブラギオが偵察用円形飛翔機ドローンを操作していたように、小型であればそういったものを道具として操作できる。

 何よりジョンは物操士で他の複合職に比べ、物を操ることに長けていた。

 滞空型偵察機・小(自作)――通称、UMIGAMEを至る所に放ったジョンは三人をすぐさま見つけていた。

 とはいえすぐには急行せず、UMIGAME包囲網によって向かう先を推測。空中庭園のほうへと向かっていると結論づけたのだ。

 その結論通り、ドッカー、バードル、モンキッキの三人は空中庭園へとやってきていた。

「裏路地とかそういう人通りのないところで話を聞こう」

 パッと見た感じ、三人のようで三人でない雰囲気があった。具体的にこうだと、モモッカには巧く説明できそうもなかったが外見がそのままで中身だけが他の誰かになったような気がして、モモッカは妙に怖かった。

「裏路地だとなんだか追いはぎみたいではありまするが了解でありまする」

「キンさんにも連絡して、逃げられないようにクマモで前を塞ごう」

 オニグマのクマモはキンさんことゴールドタイム・サカタが使役する魔物だ。

 サカタに所縁のある雅京47区画のひとつ、隅望都(くまもと)からそう命名された。

「そして拙僧たちは後ろからでありまするか」

「そう」 

「合点承知の助。キンには拙僧から伝えておきまする」

 サカタとモモッカたちは別行動していた。使役している魔物から離れられないというのは魔物使士の運命ではあるが、クマモは強面の顔に似合わない愛らしい動作からなぜか子どもたちに人気がある。

 隠密行動しようにも子どもたちが寄ってきてしまったら元も子もない。

 ただドッカーたちの三人が到着した以上、話をするためにもクマモの図体は必要だった。

 UMIGAMEのひとつが動き出し、サカタへと連絡に向かう。

 あとは待ち伏せするだけだった。


「待っていたよ」

 クマモで前方を塞ぎ、残りの三方をモモッカ、サカタ、ジョンで囲う。これで四方を囲ったかたちとなる。

 が囲まれた三人に動揺はない。

「覚えている? 私のこと?」

 しばし黙考した三人は大きく頷く。

 モモッカの表情が感嘆に変わる。

 これで杞憂に終わると思いきや、飛び出た言葉は違った。

「あ、こいつ覚えてるキッキー」

「使命を帯びる前に倒したやつだケン」

「そうだワン、そうだワン。もしかして報復だワン?」

「いや、違くて……」

 もうそれだけでかつての彼らとは違うのだと痛感したモモッカは思わず泣きそうになった。

 それでも涙をこらえて、今の言葉が嘘だと信じたくて

「本当に私と冒険したことを覚えてないの?」

「冒険? オイラたちと?」

「笑わせるなだケン。ワタクシたちはいつも三人一緒。四人目はいないケン」

「そうだワン。ぼくとトンタン、サクガクはいつも一緒で、ほかには誰もいなかったワン」

 言葉が棘となりモモッカを襲った。いやもはや棘ではない。棘程度では済まされない。

 胸がずきずきと痛んだ。一緒にヤマタノオロチを倒したことも忘れてしまったのだ。

 あのときの苦労も歓喜も、まるで嘘幻だったかのように三人の中から消えていた。

 まるでモモッカだけがそういう夢を見させられていたかのように。

「なら、お主らの密命は覚えているでごわすか?」

 打ちひしがれるモモッカの代わりにサカタが問う。

 モッコスが入れば同志と呼びそうなほど筋肉質の屈強な身体に特徴のあるおかっぱ頭。「時いず金」と書かれた腹掛けにふんどし。そんな体躯を前面に押し出し、けれども極めて温和な表情だった。

「密命? それって使命のことッキー?」

「そうとも言うでごわす」

「それなら知っているだケン」

「そうだワン」

「それはどんなものでごわす?」

 その密命が言えるのであれば、彼らは何らかの事情で別人を演じていることになる。それならばどうにか事情を聞きだし、助けることだってできた。

「じゃあその前にチミたちにひとつ聞くッキー?」

「そなたはレシュリー・ライヴを知っているケン?」

 今まで打ちひしがれていたモモッカがその言葉にピクっと反応する。

「知っている。知っているよ。キミたちだってやっぱり覚えているんじゃないか?」

 ちょっと嬉しそうに即答する、と三人はにやりと笑った。

「だとしたらちょうどいいワン。ぼくたちの使命はレシュリー・ライヴを知っているやつを殺すことだワン」

 一気に殺気を帯びた。

 三人が与えられた使命と、サカタが言う密命は決定的に食い違っていた。

 食い違っていたせいで話し合いの道は閉ざされてしまった。いやもはやそんなものなど初めからなかったのだろう。

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