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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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跳躍

103


 コジロウはもう一度近場のドックンホウシを踏みつけた。今度はアルルカも真似して踏みつけてみる。

 ぴょいいん。ぴょいいん。

 踏みつけた瞬間――音、がなる。やかましく、喚くように音が鳴る。けれども決して不快ではない。

「がこれからどうすればいいのでござるか」

「またしばらく踏み続けてみますか?」

「それしかないでござるか」

 熟考しなくても導き出せる試行錯誤はその程度だ。

 コジロウとアルルカはそれぞれ近場にいるドックンホウシにコロボックルを踏み続ける。

 ぴょいいん。ぴょいいん。ぴょいいん。

 踏んでは跳ねて着地。踏んでは跳ねて着地。を繰り返していくと、だんだんとこう理解した。

 面倒臭い。

 それでもこつこつと続ける冒険者はいるだろう。言われ続けたことを言われ続けたようにずっとやり続ける冒険者。忍耐力は確かにあるかもしれないが、それは効率を求めない悪癖にも見える。

 コジロウもアルルカも違った。

 大量に殲滅できないということもあり、面倒臭さから効率を求め、そうしてたどり着く。

 わざわざ着地する必要はない、と。

 ドックンホウシを踏んで跳ねる。そのまま地面に着地するのではなく、続けざまにドックンホウシを踏みつけ、再び跳ねる。

 ぴょいいん、という最初の音がぴょろりんに変化。再びドックンホウシを踏みつけて跳ね、次はコロボックルへ。

 ぴょろりんがぴょろろいんに、そしてぴょりょろりんに変化。まるで正解だと言わんばかりに音が鳴る。

 アルルカが一度、着地。

 忍士のコジロウのように踏んだら跳ねる、という感覚に慣れてないのが一番の原因だった。

 一息入れて踏むと、ぴょいいんと音が鳴る。

 コジロウが踏むとぴょりょろりん、と鳴っている。

 この違いは明らかに一度、着地したからだろう。

 異音の響きでコジロウもそれを認識する。もとよりコジロウの踏む速度とアルルカの踏む速度は違っていて、まるで輪唱のように聞こえていたが、アルルカが一度着地したことで、コジロウとの間に更なるずれが発生して不協和音のように聞こえた。

 とはいえ不快ではない。

 コジロウのぴょりょろりん音が、ぴょろろろろろりんに変化。

 アルルカの踏みつける音もぴょろりんに変化。それからも踏み続ける。

 病みつきになるような飛び跳ねだった。

 やがてアルルカの踏みつけ音がぴょりょろりんに変化した頃、

 コジロウの踏みつけ音がぴろりろりろという音に変化する。

 今までの音は明らかに違う音。異質な音。けれどもこれも不思議と心地がいい。

 夢中になって踏み続ける。コジロウの音はぴろりろりろから変化はないがアルルカもようやく、ぴろりろりろの域へとたどり着く。

 たどり着いて、気づく。

 いやたどり着く前からほんのりとは気づいていた。

 ドックンホウシとコロボックルの数が減っていた。

 敷き詰められていたというのは大仰だが、床一面にいたドックンホウシたちの数は減り、今は地面の露出のほうがいい。

 これがおそらく正解なのだろう。ひたすらに踏み続けて討伐。

 時間はかかるが、音に不快はなく作業感はない。

 ただコロボックルが時折、ドックンホウシを殴るのが厄介だった。

 数が多いときは気にもならなかったが減ってくるとそれが顕著。

 アルルカが踏みつけようとしていたドックンホウシをコロボックルが殴打。ドックンホウシが飛ばされてアルルカは思わず地面に着地。

 その瞬間、まるで地面が意識を持ったかのように流動し、コロボックルとドックンホウシが真上に飛び跳ねる。

 コジロウはかろうじてドックンホウシを踏めたが、何かが起こるかもしれないと判断してそのまま壁に着地。

 天井が開く。

「何が起こるでござるか」

 途端に降ってきた。

 ようやく数を減らせたコロボックルとドックンホウシが。

 豪雨のように大量に降らせたあと天井は閉まる。

 結果的に最初ぐらいの数までドックンホウシたちは増えていた。

「もしかして一度も地面に着地せずに踏み続けて倒すのがクリア方法なんでしょうか」

「壁に着地もダメだとしたら、意外と計算する必要があるでござるな」

 とはいえ、攻略法は見えた。

「一斉のせ」の一声で、飛び乗ったコジロウとアルルカはリズムよく踏んでいく。

 ぴょいいん、ぴょろりん、ぴょろろいん、ぴょりょろりん、ぴょろろろろろりん、ぴろりろりろ。

 音が奏でられる。踏めば踏むほどまるで点数が上がるかのように、音とともに気分が高揚していく。

 右手を上にあげて、左足を前へと蹴りだすような恰好で跳びたくなるような感覚になぜだか陥る。

 もちろん、コジロウもアルルカの普通に跳んでは跳ねを繰り返していたが。

 ぴろりろりろ、ぴろりろりろ、ぴろりろりろ、跳んで跳んで跳んで。

 回って回って落ちることもなく跳び続けた。

 ぴろりろりろという音が鳴り終わることもなく踏むこともあって、ぴろりろぴろりろぴろぴろりろりろ、みたいな音になったこともある。

 それが単調な跳び続けるという作業を、和らいでくれた。

 どんな音を鳴らせようか、それを考えるだけで気が紛れた。

 とはいえ数が減ってくると今度はコロボックルとドックンホウシの位置を把握する必要も出てくる。

 余裕はあるようでない。コロボックルがドックンホウシを攻撃して、位置を変えることも考えなければならない。

 それでもコジロウとアルルカはやり遂げる。

 最後のドックンホウシを二人一緒に踏む。

 ぴろりろりろ、と音が鳴り響き、着地。

「さて、どうなるでござるか」

 ふたりはこれでようやくボスが現れる、そう予想していた。

 地響きが鳴る。

 いよいよ、と固唾を飲んだところで開く。

 次の部屋へと、六の部屋へと続く道が。

「終わったということでしょうか」

 アルルカは呆気に取られていた。

「みたいでござるな」

 コジロウも呆気に取られていた。

 一度も壁、地面に着地せずにコロボックルとドックンホウシを全滅させる、実はそれが五の部屋の攻略方法だった。

 コジロウもアルルカも気づいてはいないが、この部屋においては少数精鋭が正解だった。

 人数が多ければ多いほど、敵が少数になったときに踏めずに着地して失敗する場合が多くなるからだ。

 ちなみに飛行できる魔物に【獣化】したり、使役して上に乗ったり、【転移球】などで着地する前に空中に転移させるなどの手段は有効ではあるため実は攻略方法さえ見つければ難易度は高くなかった。

 とはいえ、この部屋が攻略できても、ドスッギーがいる四の部屋を五の部屋踏破者以外で攻略しなければ六の部屋は開かない。この部屋を楽して突破しても四の部屋を突破できなければ意味がなかった。

「さてレシュとアリーが待っているでござる」

「ええ、先を急ぎましょう」

 もちろん、ふたりはアリーとレシュリーが四の部屋を突破していると当たり前に思っている。

 何の迷いもなく、ふたりが待つであろう六の部屋へと続く道を進んでいく。

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