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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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偶発

102


 それは全くの偶然だった。

 けれども結果的に魔充剣に突き刺さったドックンホウシはまるで潰れるように左右から胞子を吹き出してしおれて消えた。

「何が起こったでござるか?」

 アルルカとコジロウがともに驚愕。

 蹴っても突いても払ってもびくともしなかったドックンホウシがいきなり倒せた。

「突き、ではないですよね?」

 コジロウが突いてもびくともしなかったことはアルルカも覚えている。

 確認の意味でコジロウに問うていた。

「意味がなかったでござる」

「だとしたら、突き下ろしでしょうか」

「確かに倒せるでござるな」

 アルルカの推測に同意したコジロウは忍者刀で早速突き下ろしていた。

 ようはドックンホウシの真上からの突き刺しだ。

 コジロウの感嘆通り、ドックンホウシは潰れるように胞子を吹き出して消える。

 一方でアルルカはコロボックルに魔充剣を突き下ろして、ドックンホウシと同じようにできるか試していた。

 結果は同様。ドックンホウシと違い、胞子はまき散らさないが、コロボックルも潰れるようだった。

 ただコロボックルは蕗を持っている分、そこを避けて栗の本体に刺さないといけないのが少し難点だろうか。

「しばらく倒してみるでござる」

 本当に手探りだった。一定数倒せば終了なのか、それともボスにあたる魔物が出るのか、まったく分からないまま、コジロウとアルルカはひたすらに突き下ろしてコロボックルとドックンホウシの数を減らす。

 胞子も吸えば何かが起こりそうだが、花粉症状対策として持ってきていた防塵具があったため、脅威には成りえなかった。


 ***


 しばらくぶりにコジロウは手を休める。汗を多量にかくほどに、嫌になるほどに同じ動作で魔物を倒して、ふとあとどれくらいかを確認した。

 アルルカも同じような瞬間で顔を上げていた。魔物の数が気になったのだろう。

 そうしてふたりはある意味で絶望する。

 数が減っていなかった。もちろん総数は分からない。

 けれどそれなりに倒したのなら、ひしめくほどいたコロボックルとドックンホウシの数が減り、部屋の魔物のいない面積が増えているはずだった。

 けれど見た目ではそれが感じられなかった。

「倒し方は間違ってないはずでござろう?」

「だと思いますが……個々の倒し方は合っているとして、倒す順などが影響するのでしょうか」

「か、もっと多く倒したらボスが出てくるのかもしれないでござるな」

「それは考えたくはないですね」

 とはいえそれも可能性のひとつだ。

「ただこうなった以上、倒し方も半分は正解で半分は不正解ぐらいに考える必要があるのかもしれないでござる」

「確かにそれもあるかもしれません。例えば武器を突き下ろすのではなく、拳を突き下ろさなければならないとか…」

 言いながらコロボックルに拳を突き下ろすとコロボックルは潰れるようにしぼんでいく。魔充剣と同じ挙動。

 ただアルルカは魔充剣で突き下ろしたときにも感じた弾力がより強く感じられていた。

「それだったら踏みつけたほうが手っ取り早いでござる」

 コジロウは何気なくドックンホウシを踏みつける。

 それは話の流れで偶然、偶々、拳を当てるよりは楽で、早い、そんな感じでお試しにやってみただけだった。

 ドックンホウシは潰れるようにしぼむ。それは拳と突き下ろしたときも剣を突き下ろしたときにも見られた同じ挙動。

 しかし、踏みつけたそのときだけ、ぴょいいん、とその場に不適合な音が響き、コジロウが宙に跳ねた。

 慌てて着地。

「何があったでござるか?」

「いったい、何があったんですか?」

 いきなり跳ねたコジロウとそれを見たアルルカがお互いに問う。

「「踏むのが正解」」でしょうか?」でござるか?」

 お互い言葉尻に疑問符は未だ拭えないが、それでも突き下ろしで倒した時には起こらなかった現象が起きている。

 不自然極まりない音の出現だ。いったいどこから聞こえてきたのか。

 ドックンホウシ自体が音源なのか、それも不明だが、ともかくそれが何もないとは思えない。

 明らかにこの部屋の手がかりだった。

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