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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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胞師

101


 レシュリーたちが四の部屋へ到達してから少ししてコジロウたちも五の部屋に到達していた。

「すごい多いでござるな」

「そうですね」

 若干、先ほどまでのことを引きずっているアルルカはわずかに元気がないが、それでもすでに五の部屋を観察していた。

「ボスとなる魔物はどれでござろうか?」

「まだ出ていないとみるべきかもしれませんね」

 ふたりが迷うのも当然だ。この部屋の情報はほぼない。レジーグたちが的確に知っていたのは四の部屋までで五の部屋の情報は「らしい」「っぽい」「かもしれない」という確証に至らないものばかりで信憑性にかけていて当てにはならない。

 それはレジーグたちが体験したものではなくあくまで聞いたものだからだ。最初のお題を言葉だけで伝えていく伝達遊戯で最後の人までうまく伝わることがないように、どこかで歪曲したり、悪意を持ってわざと違うことを言ったりとして、それが正しいとは限らない。

 もっとも世界改変のせいで、レジーグたちが体験した攻略方法も通じなくなってはいたのだが。

 なんであれ、コジロウとアルルカは前情報なしに、部屋の中に大量にいる二種類の魔物を見据える。

 どちらかがボスなのか、それとどちらもボスなのか、あるいはどちらもボスではないのか。それは見ただけでは分からなかった。

 なんというかドスッギーやカレキング、ググルマワリのような、吾輩がボスである、という威圧感をその2種類の魔物からは感じられないのだ。

 二種類いる魔物のうちの一種類目は簡単にいえば紫色の禍々しい傘を持つ茸。大きさは茸ひとつひとつ違うが、最大でもコジロウの膝ぐらいまで。それに長い麺麭のような足がふたつついている。色は傘と同じ。目も口もなく、歩く茸といったてい。

 カニのように横向きに進むが、仲間同士、または壁にぶつかると反対側へと進路を変えていた。

 もう一種類は蕗の葉を頭上で傘にしている栗だった。大きさは一種類目の魔物同様ひとつひとつ違うがやはりこちらも最大でもコジロウの膝ぐらいまでの大きさだった。栗の下部、お椀型の殻斗には針がまるで千本生えたかのようなイガが生え、それを足代わりにして直立。左側から生える茎は頭上の蕗へとつながり、右腕は下部にあるようなイガで拳を覆っていた。

 しばらく様子を窺っていると、栗の魔物が茸の魔物へと攻撃していた。

 すると茸の魔物は吹き飛んで胞子をまき散らした。

「敵対しているのでござるか?」

 しばらく部屋の様子を外から窺うコジロウだったが、栗の魔物が茸の魔物に攻撃することはあっても茸の魔物が栗の魔物に攻撃することはなく、また胞子による影響も栗の魔物にはなかった。

「一方的に攻撃している感じですね」

「となればあれは拙者たちに胞子を浴びせようと共闘しているのでござるか?」

「かもしれません。あんまりそうは見えませんけど」

「でござるよなあ」

 栗の魔物は、傍から見ても茸の魔物を目の敵にするように、あるは親の仇だと言わんばかりに全力で殴っていた。

「でもあの栗っぽい魔物の攻撃は茸の魔物に効いてないように見えますね。だとしたら共闘してる線も濃いような……」

「そこらへんがこの部屋を解くからくりになるのかもしれないでござるな。まあ、物は試し。入ってみるでござる」

 部屋から出るとボスが全回復してしまうのは不利益だが、いざ、となれば部屋から出てやり直せるのは冒険者側の利益だろう。状態異常も傷も回復などはできないが、追撃は避けられる。

 そういう意味では入口付近で栗と茸の魔物を突っついてどうなるか観察し、一度仕切りなおすのも作戦のうちだった。

 コジロウの問いかけに頷いたアルルカは警戒しながら部屋へと入っていく。

 余談だが、茸と栗の魔物にはすでに前の到達者であるウィッカ名義で登録がなされていた。

 茸の魔物はドックンホウシ(毒々胞師)。栗の魔物はコロボックル(殺撲木精)。 

 ただ合格者が少ない現在、認知されるのには時間がかかっていた。

 そんな余談はともかく、コジロウとアルルカ、ふたりの侵入者に気づいたドックンホウシは一斉にふたりのもとへとやってくる。

 加速するわけでもなく、観察していたときから変わらぬ速度で、だ。

 数が多いが、さほど大きいわけでもなく、そんなに速いわけでもないので威圧感はない。

 けれどそれがむしろ不気味さを助長させていた。

 急加速するのか、胞子をいきなり飛ばしてくるのか、ふたりは十全の警戒。

 がしかし、ドックンホウシは何もせずコジロウの足すれすれまでやってくる。

 思わず蹴り飛ばすとドックンホウシは跳ねて、胞子をまき散らし着地。蹴られた直後に奉仕をまき散らすのではないため、コジロウは胞子の影響を受けてはいない。

「なんなんでござるか」

 近づいてくるたびにコジロウはドックンホウシを蹴り飛ばすが、ドックンホウシはただただ近づいてくるだけだ。

 最初はあしらう程度、徐々に全力で蹴り飛ばすコジロウ。

 何かしらの警戒があった当初と違って今は自身に湧き上がるドックンホウシへと不気味さを払拭したくて蹴っていた。

 蹴っても蹴っても、ドックンホウシには傷ひとつついていなかった。

「もう一方に試してみましょう」

 距離はあるがコロボックルにはまだ攻撃を加えていない。

 コロボックルに危害を加えることでドックンホウシに何か影響が出るのかもしれない。

 そんな推測を立てる。未知の敵との戦いは推測を繰り返し、撃退方法を考えていく。

 コジロウとアルルカは言葉通りにドックンホウシを真横から蹴り飛ばしてコロボックルに近づく。

 コロボックルも接近を察したのか、近くのドックンホウシを弾き飛ばしてくる。

 飛んできたドックンホウシが胞子をまき散らすが、コジロウもアルルカもたやすく避ける。

 何しろ、単純にコロボックルが弾き飛ばした方向に、つまりはコジロウたちがいる方向にドックンホウシが弾け飛ぶのだから、落下地点を推測して避ければ胞子の被害を受けない。

 コロボックルに肉薄してコジロウが忍者刀で一突き。コジロウ自身、コロボックルの皮膚が持つ弾力を感じなかった。

 けれどコロボックルはドックンホウシのように弾け飛び、コロコロ。

 身体が止まったところで立ち止まり、何事もなかったかのように再び近くのドックンホウシを殴っていた。

「なんなんでござるか、本当に」

 手応えのなさがむしろ不気味。

 アルルカも同じようにコロボックルめがけて薙ぎ払い。周囲のドックンホウシ諸共吹き飛ばすが、ドックンホウシもコロボックルもボインと弾け飛んで落下。傷を負っている様子はない。

「さっぱりです」

 アルルカは諦念したように首を振り、疲れたと言わんばかりに地面に魔充剣を突き刺す。

 そのすんでで地面と剣の間にドックンホウシが割り込む。

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