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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
47/873

作戦

 10


 前方の様子を確認した後方でも動きがあった。

「魔砲準備だじょ~!」

 テッソが合図すると従っている三人が自分たちの魔導筒へと魔砲を込める。テッソ他三名は前方の仲間を援護するために遠距離魔砲台としてアジ・ダハーカの気を逸らすのが役目だ。

 もちろん、魔導筒から放たれた魔砲は一直線に進むわけではない。確かに一直線に撃ったほうが魔砲の威力が高いが、それだと魔物(モンスター)に居場所を悟られる場合がある。狙撃手としては同じ位置に留まるのは愚策だが、魔導筒の砲口をアジ・ダハーカに向けず、違う方角からアジ・ダハーカへと撃つことで位置を悟られないようにしていた。

 テッソが魔導筒〔炎の踊り子ペペトーニャ〕から放つ、【炎連弾(バラ・バル・リアマ)】は孤を描き大きく左へと逸れてアジ・ダハーカの胴体へと激突する。

 同様にカルボナーラの放つ【氷鋭弾(アイスベルクバレット)】は急降下したと思いきや一定の位置から直角に曲がり地面を水平に、アジ・ダハーカの足を抉り、ミートの放つ【土轟鎚(テレモトマルテロ)】は空高く打ち上げられて大きく右へ曲がり、アジ・ダハーカの真上で展開。土塊の鎚を雨のように叩きつける。

 オコノミの放つ【雷々剣トニトゥルスグラディウス】は上下左右に散開したと思いきや、徐々にその4つの剣が近づき、最終的に一箇所を貫く雷と化してアジ・ダハーカを襲った。

 変則的な動きは何度も言うが居場所を悟られないためだ。

 その魔砲士たちの中央、テテポーラ隊で唯一拠点から移動していないアイダホが魔法を詠唱。トヨナカが得意とする【山脈遊戯(ベルク・シェプフング)】は、射程が短いがために近寄らざるをえないがその分、威力は絶大。アイダホがこれから使おうとしている魔法は、射程が長いが威力は【山脈遊戯(ベルク・シェプフング)】に比べて劣る。しかしそれは基本威力が、だった。魔法の威力は様々な要因で増大する。祝詞の長さに比例して威力は高まるというのはその要因のなかでも一般的に知られた手法。。アイダホは詠唱可能となっても祝詞を続ける。そもそも個人ごとに違う発動キーでさえ、アイダホは尋常な長さがあった。

 ゆえに、威力は絶大を凌駕するほどの絶大さ。反面、祝詞が長い分、場所を悟られればそこに攻撃が集中するだろう。だからこそアイダホひとりに四人もの魔砲士がつき、居場所を悟られぬように霍乱していた。

 アイダホたちがいる拠点から少し離れた場所にバタとイモコの姿があった。魔物使士のふたりが使役するのはランタンの灯りによく似た光の集まり。沼地や湿地などに出没し、旅人を迷わせ、動揺する顔を見ながら嘲笑させたり、奇怪な音で恐怖させたりする。一度出会えば確実に迷うと言われるほど厄介な魔物(モンスター)ウィル(迷子)()()ウィスプ()だった。

 そのウィル・オ・ザ・ウィスプ数十匹をバタとイモコはふたりで使役する。ウィル・オ・ザ・ウィスプ、二、三匹を部隊とし、それを数部隊作ったバタとイモコはその部隊をそれぞれ散開。

 バラバラに配置したウィル・オ・ザ・ウィスプは、各々の身体に酷似する炎をアジ・ダハーカに飛ばす。対象者を焼き尽くす炎属性魔法とは違い、その炎は対象者の肌を乾かし、繊維を劣化。鱗や皮を脆くする性質をもつ。端的に言えば、防御力が低下する。

 脆くなった場所めがけて、ハイム隊が攻撃を加え、溢れ出る魔物(モンスター)たちをノノノ隊が屠る。

 一方、テテポーラはバタとイモコよりも下、拠点よりさらに離れた場所に自らの武器を設置していた。長距離砲弓〔死に物狂いのドカスカジャン〕は組み立て式の設置型弓砲台だった。形状は巨大な弩だと思えばいい。台に設置された弓に巨大な矢が組み込まれている。弓を引くのも一苦労なこの長距離砲弓にはきちんとそれを補う縄がついており、それを引っ張ることで弓を引くことができた。

 テテポーラは強大な的たるアジ・ダハーカに狙いを定めると、その縄を後方に引く。完全に引ききるまでおそらく五分くらいかかるだろうと目算。引ききったあとは待機し、アイダホの魔法と合わせて射出する。

 その二段構えでアジ・ダハーカを倒すつもりだった。


 そして全ては整った。


 テッソが合図である【狼煙炎(ファイアスモーク)】を高らかにあげると、アジ・ダハーカを攻撃していた近距離部隊が後退。

 弓士の狙撃技能【超遠視(テラスコープ)】によってテテポーラは前衛が後退したのを確認。【命中精度向上アキュラシー・アッパー】と、【飛距離向上(レンジ・アッパー)】の技能を限界まで駆使し、縄を放す。長距離砲弓から矢が放たれ、アジ・ダハーカの巨大な体躯へを貫通。鏃が大地に突き刺さった。

 アジ・ダハーカは大地に固定され、その場から動くことができなくなる。

 そのアジ・ダハーカへ向かって放たれたのは光速で奔る稲妻の群れ。その群れは羊に牛、ゴブリンにコボルト、男の姿などさまざまな姿の稲妻で形成されていた。攻撃魔法階級8【千却万雷メギストス・ケラヴノス】、ほぼ最強と言っても過言ではない上位の雷属性魔法だった。

 様々な形の稲妻が列をなしてアジ・ダハーカに来訪し、その全てがアジ・ダハーカを焼き焦がしていく。近くを飛んでいた偵察用円形飛翔機ドローンも巻き添えを食らうがもう必要ないだろう。

 アジ・ダハーカを食らう魔法の惨さに愛好家たち全員が勝利を疑わなかった。

 アジ・ダハーカを倒したのだ、歓喜をあげる。

 ――はずだった。

 雷の怒号が収まり、視界が晴れると、そこには矢に突き刺さっただけのアジ・ダハーカが今なお健在していた。

「どうなっているニャ」

 ジシリが呟く。少し近づきなぜ生きているかを理解すると、表情を暗くする。

 テテポーラも【超遠視(テラスコープ)】によって同じ光景を見て、理解した。さらにジシリと同様に表情は暗く、顔が引きつっている。

 血代わりに溢れ出た虫系魔物(モンスター)が押し出すようにアジ・ダハーカの体から矢を引き抜く。引き抜かれた個所は瞬時に治っていく。

 アジ・ダハーカはテテポーラの突き刺した矢が作り出した傷から溢れた虫たちを使って、その万にも値する雷を全て防いでいた。

 それだけなら良かった。

 血の代わりに溢れ出る虫系魔物(モンスター)。その数が増えていた。カローチの数倍の大きさをもつビッグローチ(大蠢蟲)、蛇のような顔をもつ巨大な蠅フライスネーク(蠅蛇)に人の手ぐらいの大きさがあるハンドアント(掌蟻)、四つのはさみにふたつの尻尾をもつデュアルスコーピオン(双蠍)、ペインビーよりも強力なペインフルビー(死痛蜂)に加え、人間の平均的な背丈と同等の背丈をもつヒューマノイド(人型)マンティス(蟷螂)もアジ・ダハーカの体内から這い出てきた。

 その光景に、愛好家たちは愕然とする。

 しかしそれでも、その光景を見てもなお、アジ・ダハーカに突撃する冒険者たちは存在した。それが――


 ***


 それが僕たちだった。

 アルがデュアルスコーピオンを両断し、ネイレスがペインフルビーを打ち落とす。さっき自己紹介してくれたメレイナが悲鳴をあげながらビッグローチの突撃を避け、フライスネークを捕獲する。

 コジロウがハンドアントを串刺しにして、アリーが吼えながらビッグローチを稲妻で焼き殺し、追撃するデュアルスコーピオンを狩猟剣で払いのける。

 僕のふたつの【回転戻球(ヨーヨー)】がヒューマノイドマンティスを潰した。

 そんな僕たちを尻目に、ソレイルは後退したっきり、なぜか動かない。

 そんななか、アジ・ダハーカが急激に動き始めた。【業炎吐息(ヴォルカンブレス)】を吐き出したときよりも大きく息を吸い込む。

 愕然とする愛好家たちや僕たちに向かって放たれたのは、攻撃魔法階級6【炎熱波(ドラウド)】に匹敵する【灼熱息吹(ブレイズブレス)】。左頭がふたつの口を用いて吐き出す業火の、豪華たる二重奏が大地ごと冒険者を焼き払う。

「退避ー!」

 愛好家たちが怒号を飛ばし、退却する。

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