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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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怒気

99


「くしゅん」

 アリーがくしゃみ。花粉抑制剤の効果が切れ、【風膨】で吹き飛ばされたものの、風の流れでアリーの近くに漂っていた花粉がアリーに花粉症状を引き起こす。

 同時にくしゃみによって、アリーは【風膨】を解放してしまう。そのせいで僕やアリーのほうへ解放された【風膨】に乗って花粉がやってきた。

「冗談じゃないわよ」

 アリーが自分の失敗に悔恨する。いや、もしかしたら花粉症状のくしゃみには意図せぬ魔法の発動を誘発する効果があるかもしれなかった。

 ドスッギーにとって風属性の魔法は花粉症状の媒体、スギ花粉を送るには天敵。

 それを魔法剣に宿らされてしまえばドスッギーの強みがなくなってしまう。

 だから花粉抑制剤の効果が切れ、花粉症状が再発するのをドスッギーは待っていたのだ。

 それを証明するかのようにドスッギーは思いっきり、体を揺らし、大きく息を吸い込んで花粉を飲み込み、僕たちへと向けて放ってきた。

「吹き飛ば――くしゅ」

 アリーがくしゃみによって解放を失敗。どこ吹く風と言わんばかりに【強風】が見当違いの方向に解放。ドスッギーの【花粉吐息】はそのまま僕やアリーを包み込む。

 防塵具や防寒眼鏡の上から目や口を抑え込む。

 寸前、僕が風を切り裂くように【剛速球】を投げてみたものの目がシュパシュパするせいで狙いが定まらない。

 【花粉吐息】が僕たちを通過するが外傷はない。

 けれど鼻はむずむずするし、今すぐ防寒眼鏡を取ってかきたいほどに目が痒い。妙な倦怠感が付き纏って、関節もなぜか痛み出した。

 花粉症状によって僕たちはやる気を奪われていた。

 それでもドスッギーは目の前にいる。この花粉だらけの空間のなかに。まるで霧のように花粉が視界を奪っていた。

 換気はできず、ドスッギーの花粉は尽きない。

 炎による短期決戦を回避すれば、今度は花粉症状に苛まれる最悪な展開だった。

「もう炎で蹴散らすわよ」

 なんとかくしゃみせずそう宣言したアリーの声は怒気が含まれていた。

 主に止まらないくしゃみ、そのほか諸々。花粉症状による限界がアリーにそれを選択させた。

 僕も同意。

 炎を使えば部屋から押し出される可能性があるとはいえ、炎を使うことが最善手のように思える。

 もちろん、色々と試してからそう結論付けるべきだけれど、もう限界だった。

 花粉症状に陥った者にしか、たぶんこの辛さは分からない。

 それでも投げ遣りというわけではなかった。

 ボウと魔充剣レヴェンティに炎が宿る。

 茫々と燃え盛るその炎は攻撃魔法階級5。放剣士が宿すことが可能な最高階級。

「消し飛ばせ、レヴェンティ」

 くしゃみをこらえ、アリーは叫ぶ。

 同時に魔充剣からそれは放たれた。

【超火炎弾】。

 放たれた直前、周囲の花粉に引火。

 そのまま射線上にある花粉に火をつけ、火事で隣の家屋に火が燃え移るかのように次々と花粉へと火が燃え広がっていく。

 もちろん、花粉の面積は小さく、すぐに塵化。それでもそれより燃え移る速度のほうが早い。

 花粉を塵に変えながら、炎は真っすぐとドスッギーに向かっていた。

 ドスッギーは逃げれない。

 左右の逃げ道はまるで【超火炎弾】から生えた翼のように、燃え移った花粉が火の海を形成していた。

 一瞬で消し炭になるかのようにドスッギーが燃えていく。

「ギャアアアオオオンン」

 竜の咆哮にも似たドスッギーの断末魔が聞こえた。

 足掻くようにアリーのほうへと向かってきた。

 着火補助球を投げていた僕は投げるのを一時停止。

 アリーに【転移球】を投げ、続けざまに自分にも【転移球】を投げる。

 まるで逢引の待ち合わせのように同じ場所へと転移。ドスッギーの後方。

 アリーを見失ったドスッギーは周囲を見渡すも見つけるよりも前にドスンと横向きに倒れた。

 幹の足が燃え、全身を支えきれずに倒れたのだ。

 立ち上がろうとするドスッギーだが無理だった。

 そのまま全身を燃やし尽くして炭化。動かなくなる。

「もしかして倒した?」

「そうなんじゃない?」

 ごり押しと言えばそうかもしれない。長期戦を諦め、一気に弱点を突いたのが功を奏したのかもしれない。 

 けれど何か違和感。

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