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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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異動

96


「とりあえずコジロウは向こうに」

 アルルカが落ち着きを取り戻したのを見計らって、僕は提案した。

「わかっているでござる」

 三の部屋を突破した僕たちはこのまま四の部屋へ、一方でアルルカは五の部屋に向かうことになるが、人数はもう四人。五の部屋に向かう人数に至ってはアルルカひとりとなる。

 五の部屋はレジーグたちからの情報も全くないこともあり、分が悪い。

 総とっかえで僕とアリーが五の部屋側に渡り、アルルカがレジーグたちの情報がある四の部屋側に渡るのもいいかと思ったが、半端な知識があったせいでレジーグたちを殺さざるを得なかったアルルカには未知の敵のほうが戦いやすいと判断した。

 そこで話し合った末、コジロウが向こうに行くことにした。

 ということで五の部屋にはコジロウとアルルカが、四の部屋には僕とアリーが向かう。

 ちなみに五の部屋の情報をレジーグたちが持っていないのは、レジーグたちが総じて五の部屋へと行かなかったからで、五の部屋に向かった冒険者が全滅したからだった。

 ひとりでも生き残っていれば五の部屋を攻略後もしくは撤退後に情報共有はできていたが、それすらもできぬまま全滅したらしい。

 そうなると撤退して情報を得た四の部屋のほうが難易度は簡単なように見える。

 もちろん、確実に聞いた話と違う箇所が出てくるから、過信はできない。

 コジロウが水晶壁に触れ向こう側へと渡っていく。

「じゃあ六の部屋で」

 アルルカとコジロウの無事を祈った。

「そちらこそでござる。くれぐれも情報の過信は……」

「分かってるわよ」

 コジロウの気遣った言葉はアルルカにとっては傷口に塩を塗るようなものだ。

 アリーがいち早く感づいて早口で言葉を遮る。

 コジロウらしくない失敗だった。どこか不安を抱えているのかもしれない。

「そっちこそ気楽にやんなさいよ。何回失敗しても待っててあげるから」

「それはこちらの台詞でござる」

 アリーの軽口にコジロウはかすかに笑って言い返す。

 緊張は適度でいい。不安も僅かでいい。

 そこで道を違えて僕たちは進んでいく。

 アルルカの元気のなさだけが心配だった。

 杞憂であることを願う。

 しばらくほの暗い道を歩いて進んでいく。

 道中に魔物の姿はほとんどない。

 相変わらずインスタフライが光る水晶に群がっている。

 ほの暗さの一因はそれだった。

 歩くのに支障はない。

 撮影に夢中で襲い掛かってくる様子はないのは相変わらずだった。

「鬱陶しいわね」

 アリーの呟きには全面的に同意。

 適度な暗さに、光る水晶の神秘性。

 そしてアリーとふたりっきり。

 雰囲気的には最高なのに、醜悪なインスタフライと五月蠅い羽音。連続で漏れる閃光。あらゆるものが雰囲気を台無しにしていた。

 まあ、デートしているわけじゃないからいいんだけど。

 インフタフライが空気も読まず、羽音と閃光で雰囲気を穢すなか、ようやく四の部屋が見えてくる。

 入る前に中央に君臨する魔物を見上げる。

 一言で言えば植物型の竜だった。

 常緑針葉樹の胴体、もっと詳しく言えば杉の胴体。後ろにいくほど葉が細くなっていた。杉をそのまま横にしたような姿。そこから同じく杉の首が生える。横にした杉に縦の杉が生えたかのような胴体。首は上にいくほど細くなり、先端にはまた杉を横にしたような頭があった。

 四肢はすべて幹で、葉には覆われておらず褐色の樹皮が見えた。

 それがドスッギー(杉竜)の全貌だった。

 ドスッギーが足踏みするたびに全身が揺れ、全身から黄色い粉が舞う。

 それは花粉だった。

 ドスッギーは舞った花粉を待ったなしに入り口のほうへと鼻息で吹きかけてくる。

 通路と部屋をつなげる入り口に扉はないけれど、見えない結界があるのか通路に花粉が入ってくることはなかった。

 それが境界線。境界線を越えれば戦闘は始まり、仮に何かが起きて部屋から境界線を越えて廊下に出れば再び戦闘をやり直す必要が出てくる。それがこの封印の肉林の決まりでもあった。

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