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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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援軍


62


 それまでは頑張らないと、ウイエアはそうぼやいていたが、

 イロスエーサが呼んだ援軍は意外と早くやってきた。

 トンショウからなんとか身を隠したところで、連絡が入りすぐさま合流する。

「ようやくの到着じゃんよー」

「ジネーゼ、ちょっと急ぎすぎ」

「べ、別にレシュリーに早く会いたいから急いだわけじゃないじゃんよ」

 ジネーゼは早口で急いでやってきた理由がそうではないと否定するが顔は赤い。

「別にそんなこと言ってないけど」

 とはいえ、ここにレシュリーはいない。

「すまないであるな。レシュリーはいないである」

 合流して早々イロスエーサは謝罪する。あまり心は籠ってないが。

「どどどどどどどどういうことーじゃんよ」

「嘘である」

 どどーんと、まるで自慢げに堂々とイロスエーサは告げた。

「ななななななな!」

 対して援軍としてやってきたジネーゼは言葉を失う。

 こう見えてジネーゼは色々と、主に毒の研究とレシュリーの捜索で忙しいのだ。

 ヤマタノオロチ討伐後、空中庭園に留まったが、それ以降のDLCの騒動やディエゴとの対立など、あらゆることにレシュリーが関わったのに対してジネーゼはそれらに関われずにいた。

 アリーへの告白の場面を目撃し告白もせぬままに振られたジネーゼであったが、それからも色々レシュリーを手伝っているのは純真なる乙女の恋心からであった。

 それを逆手に取られた。

 レシュリーが危機だからと言われればジネーゼは嘘でも行くに決まっていた。

 そうして実際にそれが嘘でここにレシュリーはいないのだが、ジネーゼは来てしまっていた。

「恥ずかし」

 リーネの言葉に顔がより赤くなるのが分かった。

 さすが集配員というべきかジネーゼがレシュリーを好いているという情報をイロスエーサはがっちりと掴んでいた。

「悪かったであるが、実際にこちらも危機なのである」

「それにもし救援の連絡があったのに、断ってわいらが死んでしまったら、レシュリーはすごく悲しむっぺ。そしてそれを断ったあんたらをどう思うか、考えてみるっぺ」

 ジネーゼなんて嫌いだ、レシュリーが本当にそう言うのか分からないがジネーゼはそう想像してしまっていた。

 会えてない分、変に妄想が働いているようだった。

「別に助けないって言ってないじゃん。当然、助けるじゃんよ」

 嫌われたくない一心でジネーゼは答えていた。

「面白」

 くすりとリーネは笑う。

「で敵はどこじゃんよ」

 リーネをぎろりと睨んだあと、ジネーゼは真っ赤な顔をごまかすようにイロスエーサに問いかける。

「すぐ前方。もうすぐここも地獄に変わるである」

「何言ってるんじゃん?」

「待って。地獄って本当に地獄? 比喩じゃなく?」

「だっぺ。だっぺ」

 リーネの顔が凍りつく。

「どうしたじゃんよ」

「とんでもないところに助けに来たわけね。レシュリーのせいで」

「さっきから何を言ってるじゃんよ。それに今レシュリーは関係ないじゃん」

 リーネは八つ当たりというよりもからかうようにレシュリーの名前を出した。

「今某らを襲っている敵は地獄師である」

「地獄師? 地獄師!? 地獄師って上級職じゃん!?」

 地獄師を三段活用するみたいに疑問から驚き、そして戸惑いへとジネーゼは表情をころころ変えた。

「なんでそんな奴らが? というかランク7って存在したのね」

「奴らは改造者で間違いなくある物を使っているである」

 ランク7になったのはおそらくDLCが関与しているのだろうが、イロスエーサはその存在はジネーゼたちには告げないでおいた。

「奴らの本当の目的は分からんぺが発的にレシュリーはんを知っている輩を殺そうとしているみたいっぺな」

「へぇ」

 ウイエアの言葉にウサギのようにぴんと耳を立てたジネーゼを見て、リーネはため息交じりに返事をした。

 もちろん、その前に半分ぐらいは諦めていたが、地獄師と聞いてジネーゼももしかしたら倒すのではなく、なんとかイロスエーサたちを逃げ切らせる方針に変わると思っていた。

 けれどもう駄目だ。

 本当の目的ではないにしろ、レシュリーを知っている者を殺そうとしている、つまりレシュリーの関係者を殺そうとしている時点で、ジネーゼは逃走ではなく闘争を選択してしまう。

「なら、ここで倒してしまわないとやばいじゃん」

 リーネの思った通り、ジネーゼはそう言った。

「やっぱり」

「なんで呆れるじゃん。結局、上級職なら逃げ切るのも一筋縄ではいかないじゃん」

「確かにそうだけど」

 リーネとしてはちょっとだけ不服だ。自分の毒舌も含め、毒に関することに夢中だったジネーゼがリーネは大好きだったのだが、レシュリーと会えなかった日々がそうさせているのか、レシュリーのほうに比重がちょっとだけ傾いている。

 リーネとしても最近は丸くなったのかあまり毒舌というほど毒舌でもない。

 日が経つにつれ、冒険者は変わるものだけれど、ジネーゼがジネーゼでは、自分が自分では、なくなっていくような気がしてなんだか嫌だった。

「じゃあやるじゃんよ。ジブンの毒の見せ場がようやく来たって感じじゃん」

 意気揚々に語るジネーゼだが、未だに対峙していない事実は忘れてはいけない。

「整理するんだよなあ」

 全員が身を潜めつつ、コーエンハイムが一言。

 トンショウは視認できているため、そこからは【電波】による会話だ。

「逃げたんでしょうヒンかねえ? ウマくはいかないものですヒン」

 そのトンショウはゆっくりと歩き、コーエンハイムたちのもとへと近づいてきていた。

 隠れているだけならトンショウは焦る必要はない。

 ゆっくりと地獄を広げていくだけで、隠れているであろう茂みや木陰は一瞬にしてなくなってしまう。

 そして見つけた頃には地獄の業火というより効果で、異常な状態に陥って発見される。

 万が一逃げていたトンショウは悔やむだろうが、おそらく隠れている。巧くは、いやウマくは言えないがトンショウはそう感じていた。

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