地獄
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救済スカボンズ。
集配社ウィッカが廃業前、No.2とNo.3だった救済同盟とスカル&ボーンズが合併し、ウィッカが廃業後No.1の座を得た集配社だ。
No.4、No.5だった集配社ヴリル協会と三百人委員会も合併により救済スカボンズに対抗しようとしたが、両社折り合いがつかず失敗に終わっており、現在はヴリル協会と三百人委員会は救済スカボンズに人数、情報量ともに差をつけられている。
挙句、ウィッカが独占していた[十本指]の制度を引き継ぎ、その指のなかにスカル&ボーンズのコーエンハイムを置くことができた。
暫定的な決定ではあったが、有名な制度のなかに、名前があるということは一定の信頼を得ることができ、そのコーエンハイムが所属する集配社救済スカボンズも一定の信頼をできることができる。
ほかの集配社から見れば幸先の良い出だし。
けれど現状は違っていた。
地獄。
地獄が広がっていた。
会社の黒い体質が露見したわけではなかった。
救済スカボンズは労働の強制はせず、情報に対して見合った報酬を出す健全な会社だった。
それでも今は地獄。
地獄のようだった。
地獄も天国もない、と一般市民はのたまうが、天魔士や悪魔士の存在がそれを否定する。
彼らの呼ぶ、魔物に近い、はたまた人間に近い、動物ではない何かは確実に存在する。
そもそも現存する宗教、悪魔崇拝などは冒険者たちが呼び出した悪魔や天使たちを崇めたものに過ぎない。
彼らは召喚者の魔力や体力、他の何かを持ってこの世に顕現する。
悪魔も天使も初めて召喚したものがつけた呼称に過ぎない。
そして悪魔や天使が住まう地を地獄と天国と定義づけ、いちいち本当の名前を理解されるのも面倒くさい天使や悪魔はこの世界で自分たちのことを天使と悪魔と呼び始め、住居を天国と地獄、そう呼び始めた。
ゆえに便宜上の住処、地獄と天国は存在していた。
冒険者はそこに行ったことはない、すべては悪魔や天使の伝聞のみ。
そうして嘘か真か分からない妄想で描かれた絵画で地獄や天国は形作られていく。
そうして形作られた地獄が、救済スカボンズの本社に広がっていた。
全ての原因はひとりの冒険者にあった。
その冒険者が最上階にたどり着くまで、それまでの階層は災禍に巻き込まれ、地獄と化した。
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
所属している集配員の絶叫がいやでも聞こえてくる。
目を塞ぎ、耳を塞ぐ。
目を開ければ、集配員が作り上げた吃驚映像か、それか夢であってほしかった。
どちらでもなかった、現実だった。
救済スカボンズの本社は六層からなる建物でウィッカの本社を模倣した四角いビルだ。
ウィッカの本社と比べればまだ小さいが、高く塔のようにそびえる、周囲の景色と不一致なそれはある種の権威を象徴していた。
その一階にいた集配員と興味本位で見学していた一般人は【大炎器楽曲】によって火傷まみれで倒れていた。
その二階にいた集配員と護衛依頼を受けて訪問していた冒険者は【塩前奏曲】により体が腐食し、凍結して倒れていた。
その三階にいた集配員は【穿孔狂詩曲】で毒に侵され、さらに呪いによって絶命していた。
その四階にいた集配員は【血井戸奇想曲】で蛙の一部に体を変えられ、動くことができずに、何者かに殺されていた。
その五階にいた集配員は【惑乱協奏曲】の力によって全員が混乱し、誰が味方か判断がつかずに殺し合って死んでいた。
どの階層も総じて地獄だった。
「ウマくいったと思ったのに、まだ五人も残っていたヒンね」
救済スカボンズの惨事を引き起こした地獄の使者が、六階に到達し、ヒヒンと鼻息を鳴らしながら告げた。
会議をしていたヴォンにイロスエーサ、コーエンハイム、ウイエア、それにコーエンハイムの秘書アギレラ・ヒルトップの五人だけがまだ地獄には巻き込まれていなかった。
むしろ会議をしていた五人が気づけないほどに速やかにそして静かに、地獄は広がっていた。
「何者だっぺ?」
縁日の屋台で売っていそうな馬の仮面とでもいえばいいだろうか、あたかもそれを被ったかのような、馬面の男にウイエアは尋ねる。
「ウマくは言えないが自分はトンショウというヒンね」
馬の口が開いて発音している時点で、もはや馬の仮面をかぶったふざけた男ではなく、馬の面をした男に認識が変わる。
獣化士でもなければ、もはや改造者以外でも何もでもない。
集配員の認識は早い。
「ところでソレらはレシュリー・ライヴを知っているヒンか?」
イロスエーサは少しばかり答えるのを躊躇った。
そう問いかけられて殺されそうになった冒険者がいるという情報を持っていた。
それをこの会議後共有しようとも考えていた。
が、
「ああ、知ってるっぺ」
ウイエアが軽率に答えた。「なにせ……」ついでにその理由も述べようとして
「じゃあソレらも殺していいヒンね」
殺意のこもった言葉にさえぎられた。




