悲愴
52
「いろいろやってみなくちゃ」
ひとりごちてアルルカはまずはヴィーガンへと駆ける。
【弱火】と【光線】を宿したタンタタンで寄生の種を斬りつける。
しかし、しかしてどうにもならない。ヴィーガンは元には戻らなかった。
寄生の種は完全に取り除かないとだめなのかもしれない。先ほどの攻撃ではヴィーガンを傷つけるのを恐れて根元まで切れなかった。
けれどそんな精緻な攻撃をアルルカは持っていなかった。
引っ張れば根元ごと種を取り除けるのだろうか。
試してみようと思ったけれど頭深く食い込んだ根を引き抜くことでヴィーガンの頭に何か異常が起こる可能性があった。
結局、色々と試そうと思っていたアルルカの取れる行動は少ない。
寄生されたヴィーガンたちを極力傷つけずに種を攻撃してみるか、あるいはカレキングを倒すか。倒すことで寄生解除され解放される可能性もある。
アルルカは数少ない可能性のうち後者に賭けた。
誰もが羨んでやまない数少ない才覚のうちのひとつ〈天才〉を持つ彼女はその才覚を十全に活かした動きを見せる。
【腐爺召喚】によって召喚されたフランパ三体のうち二体を高速処理。
逃した一体がカレキングに到達し【咲花犬灰】を散布。冬の時にたたずむ枯木だった姿が一気に葉を咲かせ、桃に似た花を咲かせる。カレキングは体をくねらせ震わせて桃の花びらを鋭利な刃とする【桃剣乱舞】を発動。
アルルカは踊り狂うようにそれを避けながら、【弱火】と【光線】、ふたつの似たようで似ている熱さを宿した剣を振り回し、花びらを無尽にそして無残に切り裂いていく。
カレキングが元の枯木に戻るまで続けられた【桃剣乱舞】が終わってもアルルカはほぼ無傷。
しかもヴィーガンら寄生者の攻撃も自在に避け、残っていたフランパを撃破している。
何度かカレキングにも実は攻撃を加えており、枝の何本かは切断に成功していたが、カレキングはなおも健在。
【桃剣乱舞】が終われば次にやってくる攻撃はわかりきっていた。
四回目の【吸引寄生】。吸い込まれるまで続く吸い込み攻撃。
ついにやってきてしまった。吸い込まれてしまえば全員が寄生され、全滅していないがしてしまったようなものだ。
アルルカは吸い込みの風に耐えるがついに体が浮き一気に吸い込まれる。
ごめんなさい、姉さ――、諦めにも似た懺悔を思い浮かべようとしたとき、なぜだかルルルカの怒った顔が脳裏に浮かんだ。
ああ、そっか。
アルルカは納得する。
私はまだ、抗ってない。攻略を頼りきりにしていたアルルカはどこか【吸引寄生】は誰かが寄生されることで回避するというレジーグたちがかつて攻略した通りの方法しかないと思い込んでいた。
それは誰が決めた? 誰が決めたのだ。
上手くいったから次も同じ方法で上手くいく、とは限らない。
アルルカはだから抗った。
飲み込まれる瞬間、炎の宿った魔充剣タンタタンを突き刺した。
醜く喘ぐような断末魔が響き、【吸引寄生】が終わる。
単純だった。こんな簡単な方法で【吸引寄生】は止まった。
むしろ前の攻略法に頼り切って寄生されるしかなかったレジーグたちがかわいそうなほどだ。
いやもしかしたら吸い込まれる直前に口の中を攻撃するというのは実はシビアなことなのかもしれない。
失敗すれば寄生され、戻るかどうかわからない寄生状態にされるのだから。
実際難易度は高い。それをなんなくこなせたのはやはり〈天才〉だからなのだろう。
【吸引寄生】という窮地を脱したアルルカはそのままカレキングに逼迫。
怒り狂ったカレキングが【内殻地震】を発動。カレキングを中心に丸穴菓状に地がせり上がっていく。
一度下がって最初の地震を回避、すぐに内側に入って外へと広がっていく地面のせり上がりを避けていく。
腕のようになっている枝を切り落とすと、【内殻地震】とは違う大きな揺れ。
吸引時に起きる【根駆使刺】が起きる揺れを似ていた。
危うさを感じて跳躍。
同時に部屋全体を串刺しにするように【根駆使刺】が展開されていた。
死に際に見えると言われる予兆が見えなかったのは、危機を直感して跳躍していたからだろう。
あとわずかに遅ければ予兆が見え、下手をすれば手遅れになっていた。
孤独な戦闘が感覚と才覚を覚醒させ、異常とも呼べる強さをアルルカは手に入れていた。
軽々と避けてカレキングへとタンタタンを刺突。刺さった個所から【弱火】の炎が広がる。
老婆以上にカサカサに乾燥したカレキングの体へ燃え広がった炎はよく燃えた。
さらに【光線】へと切り替え、刺突した場所から上へと振り上げ鋭利な光の刃がカレキングを切断。
それがカレキングの最期だった。
終わった、一息つこうとしたときアルルカは気づく。
寄生された三人の冒険者が、まだ寄生状態のままだということに。
次の部屋に続く通路は開いていた。
けれど寄生状態はもとに戻らなかった。
そもそも最初から攻略通りではいけなかった。
世界改変が起こった時点で、【吸引寄生】は攻撃することで回避するという攻略方法にしなければならなかったのだった。
寄生の種は三人の冒険者に根強く植え付けられている。
一目でもう駄目だと分かるほどに。
もしかしたら【吸引寄生】されて数秒間までなら寄生の種を取り除けばなんとかなったのかもしれない。
けれど何もかも後の祭りだ。
「ああ……」
アルルカは嘆いた。ルルルカを、姉を喪ったときの消失感に似ていた。
自分が強くなっても救えないことがある。アルルカはそれが非常に悲しかった。
そしてカレキングが倒されてもなお、何かに強要されアルルカに襲いかかる三人に、アルルカは非情な決断を下すしかなかった。
***
事情を説明したアルルカに僕はかける言葉が見つからなかった。
「私が他の人たちを殺しました」
その言葉から滲み出る悔しさともどかしさだけは十分に分かった。
僕だって全てを救ってきたわけではなかったから。




