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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
45/873

出発


 8

 

「行くのニャ」

 ユグドラ・シィルに接地するアト山脈の中腹に拠点を置き、推移を見守っていたジシリは待機していた全員に呼びかける。偵察用円形飛翔機(ドローン)によって現場の状況は確認できるが、切り開いた場所に拠点を置いているので見下ろせば巨大なドラゴンの位置は把握できた。

「今日もいい日になりますように!」

 全員の無事を祈り、先陣を切るのは全員が獣化士というハイム・グランデ率いるハイム隊。従うはシンシア・マガジン、ロッテム・クリア、ギギユ・ヲンソロ。

「リッソムとアイジムはいつも通り。ゴッデリはボクとともにハイムたちに混ざろう」

 狂戦士ノノノ・ンンガが指示を出し、ハイムに続くのはノノノ隊。構成は弓士リッソム・オアンデ、同じく弓士アイジム・ルカ・ジアゾに狂戦士ゴッデリ・グハイム。

「さて、安全第一で頑張りましょーう」

 ノノノ隊の後方に控えるのが聖法剣士グランヂ・アインマッハ率いるグランヂ隊。従うは逆転士ロイム・ムネガー、癒剣士イッテ・イ・ナーに魔物使士ナグ・タネ。

「テテポーラとテッソ、いつも通りお願いするニャ!」

 獣化士ジシリはテテポーラとテッソに指示を出すと駆け出していく。従うは狂戦士アンドレとカンドレに無言の男、暗殺士ジジマル・カナタ。

「さあさ、アネキを援護するんだじょ~」

 間抜けな声で指示するのは魔砲士テッソ・カルパッチョ。テッソ隊はテッソと同じ魔砲士三人で構成されていた。カルボナーラ・シシクロにミート・スパとオコノミ・ソゥスだ。

「さあて僕たちには僕たちにしかできない仕事をしよう☆」

 最後に声をあげたのは☆をつけずにはいられない弓士テテポーラ。従うのは魔道士アイダホ・ポティト、魔物使士バタ・ジャガーとイモコ・サッマ。

 幾人もの冒険者と幾多もの思惑が入り交じる戦いの始まりだった。


 ***


 廃城クリンタ。そこはβ時代に冒険者に依頼を出す王が住んでいた場所だ。今はその名が示すように廃墟となっている。

 なぜなのか。

 それは今、僕の眼前へと迫るアジ・ダハーカが滅ぼしたからだった。数千の兵士を一瞬に消し去り、英雄王と呼ばれたクリンタ王を一撃で屠ったと云われている。

 そのアジ・ダハーカは三つの頭に三つの口、六つの瞳を持っていた。ひとつの頭に対してひとつの口とふたつの瞳を持っているのか、といえばそうではない。

 右の頭は口がなく瞳が三つ。

 正面の頭は口がひとつで瞳はふたつ。

 左の頭は上下に口がひとつずつで中央に瞳が一つあった。

 その三つの頭は三つの首でひとつの胴体へと繋がっている。ふたつの後ろ足で大地に立ち、四つの前足をまるで手のように動かしていた。

 その胴体から伸びる長い尻尾は蜥蜴に酷似している。胴体のところどころに海草のような黒い毛むくじゃらのものがついており、それが異様さを際立たせる。

 ソレイルがアジ・ダハーカに向かっているさなか、僕はコジロウに背負われ、後退していた。

「まずは傷を治すでござる」

 ソレイルが作った傷から流血は止まらず、その切れ味の良さを示していた。

 僕がコジロウとアリーに引き連れられ、リアンの元へ辿り着いたとき、見知った顔が見え、同時に懐かしい声が聞こえた。

「アリテイシア、キミもやっぱり来たのね」

 ネイレスさんだった。

 傍にはアルと――見知らぬ女の子。

「来ちゃ悪いの?」

「キミの落ち込みようを見たら、来るとは思わないわ」

「ふん。あんな想いをもうしたくないだけよ。見てみなさい。また、このバカは怪我してる。怪我ばっかりしてる。聞いたわよ。左腕を折っていたってことも!」

 アリーが僕をバカ呼ばわりして頭を小突くがその言い様は心配していた。

 僕がリアンを見ると視線が合う。少し申し訳なさそうに頭を下げたのはきっと左腕の骨折を告げたのがリアンだからだろう。でもちっとも僕は怒ってなかった。リアンが善意で告げたのは明白だった。

 リアンは僕の傷に気づき近寄って、癒術を唱え始める。

「アル、アリーを連れてきてくれてありがとう」

「いや、俺は……その件に関しては何もできませんでした」

「じゃあ、ネイレスが?」

「アタシは別件でキミに用事があっただけ」

「僕に?」

「そう。まずはこの状況をなんとかしないといけないけど……先に用件だけ言っておくわ。終わったら手伝ってくれるのよね?」

「そりゃあ、頼まれたら断れないね」

「それは大変ありがとう。用件って言うのはブラジルさんを見つけて欲しいの。草原からいなくなったのよ」

「ブラジルさんがいなくなった……? でもどうして?」

「誰かが会いに来るって言った後、いなくなったの。その人に連れて行かれたのか姿をくらましたのか……アタシは前者だって睨んでる」

「じゃ、早急に探さないと」

「でも焦っては駄目よ。アタシが言った通り、まずはここをなんとかしましょう」

「それは分かってる。ブラジルさんだけが見つかればいい、だなんて思ってないよ。僕はまずはこの街を救う」

「あんたはいっつも気負いすぎだって」

 僕の言葉を受けて答えたのはアリー。

「無理は良くないのよ。自分の実力を考えなさい。怪我してばかりは良くないわ」

「それは分かってる。でも僕は救うんだ。そりゃ全員を救えないかもしれないけど、それでも全員を救う」

「オレはそれに賛同するぜ」

 答えたのはアクジロウ。

「こいつ……誰?」

「知らぬでござる」

「おおい、初対面じゃないはずだろ。おそらくたぶん。記憶の片隅を捜索してみろ」

「思い出せないわね」

「拙者も」

「ふぐぅ。なんて不遇な扱いっ!」

 アクジロウがなんだかかわいそうになってきたけど、まったく同情できない。

「ま、あんたが誰だろうとどうでもいいわ。とにかく私が言いたいのは、あんたひとりで救うなんて考えないってこと」

「って、オレの賛同云々は無視か!」

「うっさい、あんたの意見も名前もどうでもいいの。少し黙れ」

「はい……」

 アリーの形相に縮こまってアクジロウは押し黙った。

「つまりね、私を……その、もっと……頼りなさいよ」

 アリーは少し照れくさそうに答える。

「あー、むず痒い! こんな台詞を私に言わせないでよ!」

「ありがと」

 僕は一言そう伝えた。

「うっさい。とにかくそういうことだから」

「アリー殿、照れるのであれば、『みんなで救うわよ』とかにしておけばよかったのでござるよ」

「黙れ。死ね。言うのが遅いのよ、コジロウ!」

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