表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
449/874

中央

 50


 爆発が始まろうとしていた。枯れるのはカウントダウン。ナッツマンの数は膨大すぎた。地上に逃げ場なんてなかった。

 いち早く僕は【転移球】で枯れていくググルマワリの頭上に転移して周囲を見渡した。

 コジロウが器用に壁を駆け上がり、壁にしがみつく姿が見えた。

 ダイエタリーはまだ地上だ。助けないと。

 アリーは? アリーは?

 僕の探し方が悪いのか、ちょうど隠れているのか。アリーの姿が見えない。

 そんな。まさか。

 アリーはナッツマンたちに埋もれてしまっているのかもしれなかった。

 どこに? いったい、どこに? どこにいるんだ?

「アリー!!」

 叫び声に対応しない。地上ではナッツマンが所狭しと跳ねていて視界が悪い。

「あそこでござる」

 僕の不安げな叫びが届いたコジロウが指し示す。

 部屋の隅、そこにはアリーとダイエタリーがいた。

 見つけた途端、僕は【剛速球】で【転移球】を投げる。

 加速した【転移球】はアリーめがけて飛んでいく。

 けれどアリーの周囲にはナッツマンがいて、何匹かはアリーに触れている。

 このままだと転移対象に触れている、つまりはアリーに触れているナッツマンも連れてきてしまう。

 そしてそのナッツマンのほとんどがほかのナッツマンと触れている。

 つまり大量のナッツマンがアリーとともにこちらにやってきてしまう。

 アリーもそう思ったに違いなかった。

 壁を蹴り、跳ぶ。

 左手でダイエタリーを掴んでいた。

 アリーとダイエタリーが宙に浮く。

 このまま転移できれば。

 そう思った矢先だった。

 ダイエタリーの足へとナッツマンが絡みつく。頭に生えた一葉で。

 跳ねてばかりのナッツマンがそんな行動を取るとは予想外だった。もしかしたら偶然絡まったのかもしれない。

 けれどそれが必然だったかのように、その絡みついたナッツマンへと次々と集まっていく。

 これも最後の最後、自爆する間際に起こす行動なのかもしれない。

 それが重しとなって宙に浮いたアリーの滞空時間が早まる。

 そのとき、ダイエタリーは何かを伝えて笑ったような気がした。

 アリーが怒鳴るのが見えた。けれど声はここまで届かない。

 直後だった。しっかりとダイエタリーを支えようとするアリーを尻目にダイエタリーは自分の左腕を切断。

 空中にアリーを残して落下していく。

 途端にアリーは【転移球】にぶつかり、ダイエタリーの切断された左腕とともに僕のもとへとたどり着く。

 僕は急いで【転移球】を作り出し投げようとする。けれどその手をアリーが止めた。

 悲しげににらみつける僕にアリーは首を振った。

「もう間に合わない。それとあとはよろしく頼む、って」

 それがアリーが怒鳴る直前、ダイエタリーが笑って告げた言葉だろう。

 だからアリーは怒っていたのだ。そこで諦めて足掻こうとしないダイエタリーに。

 同時に僕は自分を責めた。アリーが無事か確認することに必死で、ダイエタリーのことを一瞬でも忘れた。

 これはきっと罰なのかもしれない。

 アリーに促されて枯れ果てていくググルマワリから壁伝いに移動。コジロウが見つけた窪地へと逃げ込む。

 ダイエタリーたちが教えてくれた最後の自爆を避けるための穴だ。

 そこに移動するまでの間、僕はずっとダイエタリーを見ていた。

「あとはよろしく頼む」

 そう告げたダイエタリーは足掻くように周囲のナッツマンを倒し続けた。

 諦めたはずのダイエタリーはアリーに怒鳴られたことで諦めず生き残ろうと奮起したのかもしれない。

 ダイエタリーはずっと戦っていた。

「助けに行こう」

 その姿を見て僕は言う。 

 アリーもコジロウも反対はしなかった。

 ダイエタリーがナッツマンの数を減らしたことで、空間に空きができていた。

 今なら【転移球】でダイエタリーだけを救出できる。

 けれど

 僕が【転移球】を投げようとした途端、ググルマワリが完全に枯れ果て、地上のナッツマンは爆発していく。

 大きな爆発音が鳴り響き、煙が窪地にまで届く。

 アリーが【強風】を解放して煙を追いやる。しばらくして煙が昇ってこなくなり、地上を眺めた。

 地上はナッツマンの自爆による爆発で黒く焦げ、ダイエタリーの姿は微塵にもなかった。

「くそっ」

 悪態をついて壁を叩く。円弧型の【太陽光線】から【転移球】でダイエタリーを救うのは僕の役目だった。

 自爆の時間が早まり、アリーの姿が見えなくなってもなお、ダイエタリーのことはどこか頭の片隅にも置いておくべきだった。

 敵対から仲間になったダイエタリーだったけれど、それでも和解してこの試練で共闘して、僕たちはその先もずっと一緒に戦っていけるはずだった。その芽を摘んだのはおそらく僕だ。

「行くわよ。前に、先に進むわよ」

 アリーがわずかに声を震わせながら言った。コジロウはそれに気づいただろうか。アリーは自分で気づいているのだろうか。

 僕を落ち込ませないようにアリーはいつも強くあり続ける。

 けれどダイエタリーが自己犠牲に走らなければアリーも死んでいたかもしれない。

 そのうえでダイエタリーを助けに行こうとする僕をアリーは止めた。

 アリーも責任を感じているのかもしれない。

「うん」

 僕はこぼれそうになった涙を拭って、二の部屋を抜ける。

 ダイエタリーたちの話では、この通路を進めば大きな扉があり、五の部屋へと続いているらしい。

 その大きな扉は三の部屋が攻略されていれば開いているはずだ。

 扉は開いていた。

 アルルカたちが攻略した証明だった。

 そのまま進んでいくと、この試練の中央部。大きな水晶壁がある部屋と出る。

 その水晶壁の向こう側にアルルカの姿が、アルルカだけの姿があった。

 どうしたのか、尋ねる前にアルルカは言った。

「ごめんなさい。生き残ったのは私だけです」

 三の部屋で何が起こったのか分からなかった。

 それでも僕たちに衝撃を与えたのは事実だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ