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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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制限


49


「じゃあさっさと倒してしまうわよ」

 アリーの言葉通り難所を超えた僕たちの攻略速度は格段に上がった。

 思った以上に速く、順調にググルマワリの顔の種が残り三分の一ほどになった瞬間だった。

 異変が起きていた。

「茎の色が変わってる!」

 茎の根本、地面に近い部分の色が赤く変色していた。

「茎の変化? どういうことだ? 見せてくれ」

 言われて僕はダイエタリーを【転移】させる。足を怪我しているのだからそのほうが早かった。

 転移したダイエタリーは足を引きずりながら駆け寄り、見た。

「こんなの知らないな。どういうこった?」

 戸惑っているうちにも茎の色はググルマワリに向かうようにどんどん赤く変色していた。

「顔まで到達したら何か起こるのかな?」

 ふと嫌な予感を覚えてつぶやく。

「そうかもしれない。いや、待て。聞いたことがある。その通りだとしたらやばいぞ」

「どういうことよ。説明しなさい」

 異変を確認しにコジロウとアリーも近寄ってきていた。

「俺が攻略していたときじゃないけれど、ググルマワリ戦で時間がかかりすぎていた集団があった。癒術士系を多めにして、回復主体で粘りながら徐々にナッツマンを倒していく戦法をとっていたんだ。そいつらは丸一日経って攻略したんだが、その時生き残ったはわずかにふたり。ふたりとも怯えていたんだ。その怯え具合が尋常じゃなくて、俺たちは聞いたんだ。何があったのか、ってそしたらふたりは口をそろえていった。『時間をかけすぎるべきじゃない』ってよ」

「つまり、時間制限があるってこと?」

「ああ、詳細は聞けなかったが俺たちはそう判断した。時間をかけすぎたせいで奴らは全滅の寸前まで行ったんだ」

「じゃあこの茎が赤いのは?」

「制限時間でござるか」

 話し合っている間にも茎の色は僕の太ももあたりまで変色してた。

「だがあの時より時間はかかってない。丸一日かけてようやくの、って感じだった」

「これも世界改変の影響でござるか」

「たぶんそうね」

 アリーが嘆息する。

 丸一日かかるはずがない、という経験からダイエタリーたちは攻略方法を話す際に、このことを省いていた。

 もちろん悪気があってのことじゃない。

 どんな些細なことでも教えて、と言っていたつもりだけれど、このことはどうにも些事にも当たらなかったらしい。

 よほど神経質じゃなければきっと話し合いの際には出てこなかったのだろう。

「じゃあ話し合ってる暇はないね」

 僕の言葉にみんなが頷いた。茎が赤く染まっていく速度を見る感じ、微妙だ。

 この部屋は突破できても最後の罠が僕たちを全滅寸前まで追い込んでいくだろう。

「あんたは全力で種を落として。ナッツマンはこっちでなんとかするから」

 今まではナッツマンを倒すのも手伝っていたけれどアリーがそう告げてきた。

 なんとかする、とアリーが言えばきっとなんとかしてくれるのだろう。

 僕は嬉しそうに頷いて、ググルマワリの顔へと転移していく。

「いい。ふたりともこっからは出し惜しみはなし。あんたも自爆されて死んで終わりなんてまっぴらでしょ」

 ダイエタリーとコジロウに力強く言い放ち、アリーはナッツマンの群れへと突っ込んでいく。

 時間制限なんて知らなかったから来る敵だけを迎撃していたけれど、これからは自らが強襲して、今まで以上に速く手早く迅速に数を減らしていく。

 さらりとアリーは言ったけれど、ググルマワリの顔の種がすべて落ちた時、残っていたナッツマンとダンデライオンは自爆する。

 つまりナッツマンたちを放置してググルマワリの撃破だけを目論めば最後の最後にしっぺ返しを食らう。

 だからナッツマンたちは放置できない。それでも時間をかけてでも的確にナッツマンの数を減らせばよかった。今までは。

 少なくとも世界改変前は制限時間は丸一日という時間的猶予があった。

 今はそれがない。半日もない。ありとあらゆる面で、二の部屋が強化、いや凶悪化していた。

 いつでも外に出れるという緩さが試練の全体的な強化に繋がっていて笑えない。

 焦るな、自分に言い聞かせる。

 時間制限のせいで妙にざわつく。

 ヤマタノオロチよりも恐怖はない。DLCを使ったブラギオたちのほうがよっぽど厄介だった。

 だから大丈夫。

 のはずなのに妙にざわつく。心が落ち着かない。

 まだ何かある、そんな予感がした。嫌な予感。

 そういう時に限ってそういう予感は的中する。

 茎の赤みが半分を超えたあたりで茎が突然撓った。

 今までになかった挙動。

 ぐぐぐん、ぐんぐんと茎が腰を反るように曲がっていく。

 そして思いっきり、勢いをつけて飛びかかるように前へとググルマワリの顔が動いた。振り子のように後ろに反れば反るほど、前への勢いはついていく。

 同時に【太陽光線】が射出され、顔の種がトボトボではなくボトボトと落ちる。落ちていく。

 数を増やしすぎると対処できないため調節していたのに、その調節が無駄になるほどに無意味になるほどに、ナッツマンの数が急激に増えた。

「やばい」

 その言葉は状況により色んな意味を持たせることができるけれど、ダイエタリーが発したその言葉は如実にこの状況を表していた。 

 ナッツマンの数が急激に増えただけじゃない。

 【太陽光線】もいつもより長く照射されていた。勝者を決定づけるように、僕たちに敗北を押しつけるように、永く長く照射された【太陽光線】はそれだけで動き回っていたナッツマンだけではなく、落ちたばかりのナッツマンでさえも成長を促す。

 その長い【太陽光線】が撃たれている間もググルマワリの種は落ち、もう遠目には見えない数ほどしかない。

 種があるのかないのか微妙なところだけど、ググルマワリがまだ動いているということが種がまだ残っている証明でもあった。

「今のうちになんとかしねえと……」

 焦りからかダイエタリーの機関短銃の精度が落ちる。

 アリーもコジロウも内心焦っているのかどこか攻撃が粗く、空を切ることはなくても傷が浅いものがいくつもあった。

 当然、僕も【剛速球】が掠るだけのときもあった。

 数が思うように減らない。焦るな、と胸中で何度も自分に呼びかけるけれど、それがむしろ自分の焦りを助長させているような気がした。

 ググルマワリの動きが止まり、【太陽光線】が放たれる。直線的な光線。誰もがそれが最後の攻撃だと理解した。

 ググルマワリの茎が腰のように葉の先端、顔の先端から徐々に枯れていくのが見えた。

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