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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
446/874

原理


47


「蠅の特性を利用したんだ」

「はっ? 意味が分からないぞ」

「あれよ、青い光を当てると蠅が死ぬってやつ。蠅のような魔物にも効くと思ったのね」

「どういう原理だ、そりゃ」

 訳が分からないと再度ダイエタリーが叫ぶ。

「正確には機能的細胞死(アポトーシス)。僕たちが赤子のときあった水かきが消えたりするやつだよ。寿命が来た細胞が静かに自殺していくんだ」

「ああ? よく分からないんだが、とにかく青い光でそのアポなんたらが起こったってわけか」

「うん。どうやら青い光で蠅の体内の活性酸素が細胞を傷つけるみたいなんだ。それによって酸化ストレスが強まって、機能的細胞死が促された結果、インスタフライは死んだんだ」

「よく分かったわねそんなこと」

「ハエが青い光で死ぬ原理に関しては前に学者のひとりが解明してたんだ。ハエの構造とインスタフライの構造が似ているんなら、機能的細胞死はしてくれるだろうと思ったんだ」

「どうして?」

「だってインスタフライは美しいものを保存しているんでしょ。それがどこにかわからないけれど、もしその記録器官、保存器官が体内にあるのなら自分を傷つけずに死ぬのがいいはず。だとしたらその器官を破壊してしまうよりも早く、ほかの器官の細胞死によってその器官を保全してしまったほうがいい。なら機能的細胞死は適切だ」

 つまり僕はインスタフライの醜悪なほど美しいものに固執する習性に機能的細胞死が搭載されていると推測を立てたのだ。

 それが見事的中し、インフタフライたちは細胞を自殺させて自分たちの中にある美しいものを守って死んだ。

「これで【太陽光線】は平常運転だ」

 もう煩わしい羽音も欲望に満ちた光もない。

 インスタフライという僕たちにとっての邪魔者を排除した三の部屋は本来の姿を取り戻した。

 あとはググルマワリを攻撃しつつナッツマンたちをきっちりと排除するだけだ。

 数が膨大になっているナッツマンたちを処理すべく僕も一度地上へ。【転移球】を繰り返し投げて浮遊を続けていた時間も終わりだ。割と神経を使っていつも以上に精神摩耗がひどいような気がする。

 ナッツマンはひとまず放っておいて第一次生長ナッツマンをアリーとダイエタリーが、第二次生長ナッツマンをコジロウが、ダンデライオンを僕が倒していく。もちろん、主にであって余裕があればアリーとダイエタリーも第二次生長以降のナッツマンを狙ったし、僕もコジロウも第一次生長ナッツマンが襲ってこないわけではない。

 適宜、適した行動を取りながら僕たちはナッツマンの数を減らしていく。

 数分間戦い続けているとググルマワリが止まる。わかりやすい【太陽光線】を合図。

 ググルマワリの顔を確認して、背後に回るように移動する。

 けれど今度のググルマワリの【太陽光線】はただの【太陽光線】ではなかった。

 ぐるりと弧を描くようにググルマワリは回った。回ったとはいえ茎が実質首のようなものなので360度回ったわけではない。

 300度ぐらいだろうか。背後に回っていた僕を残して【太陽光線】は直線ではなく弧を描いて、地面を焼き尽くしていた。

 弧を描いた分、直線的で大きかった【太陽光線】とは違い、小さく細い。

 けれど速度が段違いだった。

 一番離れた位置にいたコジロウが忍者刀でかろうじて防御したけれど忍者刀を掠めて腕を焼き焦がした。

 アリーも足の甲を、ダイエタリーも太ももをやられていた。

 誰もが反応はできたけれど、回避はできなかった。

 思わず膝をついたダイエタリーはこれで両足を負傷したことになる。

 そのまま第一次生長ナッツマンがダイエタリーに飛びかかり、アリーが蹴散らすように特攻した。

「すまない」

「こんな攻撃聞いてないけど?」

「これも初めて見た。やっぱり改変以降変化があったってことだ」

 どこか予備知識を過信しすぎていた箇所があるのだろう。

 【太陽光線】が直線的だと分かれば顔の位置を確認してその射線から逃げればいい。

 改変以降変化がある可能性があると分かっていても、それでも知識があればそちらを考えてしまう。

 だから予想外の一手。新手に判断が遅れてしまっていた。

 僕も偶然、背のほうに移動して回避を免れただけであって、正面にいればきっと避けることはできなかっただろう。

「常にレシュのほうというかググルマワリの背中のほうに移動しておく必要があるわね」

 背面攻撃がある、とは今のところ聞かされてはいない。【太陽光線】の前に背面に回れば確かになんとか回避はできそうだった。

 茎の下も安全地帯かもしれないが、茎の下ほどナッツマンが飛び跳ね侵入できそうもない。自然とそこがググルマワリの死角になると本能が察知しているのかもしれない。

 描弧型の【太陽光線】も直線型の【太陽光線】の予備動作には違いがあって茎をひねると弧を描いた【太陽光線】が向かってくるわけだけど、それでもその予備動作自体が短ければ、それだけ回避するための時間が短くなる。

 描弧型の【太陽光線】があると分かっていても次が完全回避できるとは限らなかった

「とりあえず光線が来たら背面へ。ダイエタリーは転移させる」

 常にぐるぐると回っているググルマワリはどこが顔に対しての背面になるかわからない。

 二度の【太陽光線】によって両足を負傷したダイエタリーには走って背面に回り込めというのは酷だ。

 回避を指示して、ひとまわずはナッツマンの処理に奔走する。いやググルマワリからすればそれが狙いなのかもしれない。

 ともすれば僕たちはナッツマンの処理に翻弄されているのかもしれない。

 処理しなければ最後に痛い目を見るのは僕たちだけれど、処理に手間取ればググルマワリの光線が容赦なく襲い掛かってくる。

 速攻でググルマワリの顔の種を全て落とせばいい、といかないのが絶妙に歯痒い。

 ただ負傷をしていても僕たちは努力をしてきたという自負があった。

 ダイエタリーが的確に、コジロウが迅速に、アリーが大量に、ナッツマンの数を減らしていく。

 当然、僕も。 

 ようやく減っているという実感がわいたところで再び茎が止まる。【太陽光線】がやってくる。

「背面にっ!」

 ダイエタリーを【転移球】で転移させ、僕自身も【転移球】でその場から回避。アリーとコジロウが駆け抜けるように背面へ潜り込むとググルマワリの直線的な【太陽光線】が正面を焼き尽くしていた。

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