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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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生長

45


 ググルマワリの回転が始まり、僕は再び顔めがけて登っていく。

「同時に行こう」

 より多くの種を破壊すべく僕はコジロウに提案。

「御意でござる」

 頷いたコジロウと掛け声もなしに同時に攻撃を放つ。

 僕が【着火補助球】を二連投するとコジロウが【韋駄転】の回転力で茎を蹴り、【伝火】の宿った忍者刀〔仇討ちムサシ〕をググルマワリの顔に突き刺す。

 【着火補助球】がそれよりも早くググルマワリの顔に直撃。種をつぶし、そこから【着火補助球】が粉々になって飛散。

 そこに火の宿った忍者刀が襲来。僕が放った【着火補助球】が着火をちゃっかりと補助し、炎が広がる。

 燃え広がっていく火の海は顔についている種を焼いていく。欠けた種は地面に落ちるとナッツマンになるけれど、燃やした種はナッツマンにならないらしい。

 と思えば【着火補助球】がぶつかり、欠けた種の一部が地面に落ちるがそれはナッツマンにはならない。

 基準は曖昧のようにも思えるけれどナッツマンの核が中心にあり、炎の熱がそこに届いた場合そのまま熱さでやっつけることができるのだろう。

 ナッツマンにならなかった欠けた種は中央にある核も欠けていた。

 つまり、核さえ何らかのダメージを与えればナッツマンは生まれない。

 そう推測しながら次の攻撃に移ろうとした矢先だった。

「なっ!?」

 ググルマワリが急速回転。顔を火を消すためにググルマワリは風を起こしたのだ。火の海が拡大していたググルマワリの顔が風によって鎮火。

 さらに不運なことにその回転で欠けのない種が地面へと落ちていく。

「前はそんなことはなかったぞ!」

 ダイエタリーが叫ぶ。ダイエタリーは火をつけて一気に倒したらしい。アリーやアルルカならもっと楽に攻略もできただろう。でもナッツマンの数の多さには一気に倒せるアリーが必要だし、アルルカをこちらに呼べば、二の部屋に負担を強いることになる。

 地面に落ちたナッツマンが走り回る。

 しかも不運は続く。

「止まったでござる」

 常に視ていてくれるコジロウの警告。ググルマワリが止まり、【太陽光線】の準備に入る。

「早いだろ、それも。充填時間も早まったのかよ」

 ダイエタリーが嘆く。

「違う。あの蠅のせいだ」

 光を放つ水晶とは違う、性質の悪い光がもうひとつあった。

 インスタフライが他人の迷惑も顧みず、ただいいものを記録しようという欲望のまま放つ光だ。

 インスタフライがどうやって記録を取っているのか僕にはわからないけれど、その行動を取るたびに光を放つのは理解できた。小さくても数は膨大。

 その光をググルマワリが吸収し、充填時間が早まっていたのだ。

 まるでそれはインスタフライの警告だった。

 自分たちの邪魔をするな、という警告。むしろそっちが邪魔なんだけれど。

 【太陽光線】の射程範囲を確認して【転移球】で空高く登る。【火炎球】を【剛速球】で繰り出し、怒りの炎がインフタフライを燃やし尽くしていく。

 数は有限でも無数。膨大な数がまだ生存していた。

 インスタフライたちは一度こちらを向いたけれど、僕が美しくないのかそれとも興味がないのか、すぐに向きを正してまた記録を取り出した。

 インスタフライは死んでいった同士たちに目もくれず、ただただ美しいものを記録していた。

 そのたびに光が放たれ、ググルマワリが欲望を吸収する。

 汚いものに目を向けない、それは辛い経験をしないように見て見ぬ振りをする現実逃避にも見えた。

 インスタフライの姿は正直言って醜悪だ。それでも自分が美しい世界に生きている、そう思いたいがために、インフタフライたちは美しいものへの記録を続けているようにも見える。

 若干の苛立ちともに僕は【火炎球】を投げ続ける。【太陽光線】の威力が厄介なのもそうだが、充填時間が早まるということはナッツマンの落下も早まってしまう。

 ダイエタリーとアリーの負担を増やすわけにはいかない。

 ググルマワリの顔についている種をすべて壊すことが勝利条件ではあるけれど、地面にいるナッツマンを増やしてはいけない。

 ダイエタリーたち曰くそれがこの部屋の難しいところだ。

【太陽光線】が放たれ種が落下。ナッツマンが誕生。そしてすでに地面を跳ね回っていたナッツマンが生長。さらに生長し生き残っていたナッツマンがさらに生長。

 ややこしいのでナッツマン、第一次生長ナッツマン、第二次生長ナッツマンとでも名付けようか。

 一葉のナッツマンが跳ね回り、双葉の両手が生えた第一次生長ナッツマンがアリーとダイエタリーめがけて跳ね跳び、葉っぱによる強烈なビンタをお見舞しようと迫りくる。

 その一方で第二次生長ナッツマンは種の箇所が口のように開き、そこから自分の体となっている種よりも小さい種を吐き出してきた。

豆機銃(ビーンズマシンガン)】とでもいうべきその技能で第二次生長ナッツマンは遠距離からアリーたちを狙う。

 今までは襲い掛かってくるナッツマンだけで良かったけれど、次は狙い撃ってくるナッツマンも相手にしなければならない。

「コジロウ、行って!」

 インスタフライを【火炎球】で一方的に蹂躙しながら僕は言う。

 ググルマワリよりも優先すべきはナッツマンだ。

 コジロウが頷くと急速落下。

 第二次生長ナッツマンたちに持ち前の速さで接近し、一体一体、まるで毒を持った魚を慎重に捌くような丁寧さで、けれど手早くナッツマンを解体していく。

「あと何匹だ」

 うんざりしながらダイエタリーが叫ぶ。一度以上は経験済みのダイエタリーだけれど、ナッツマンの数が多すぎた。

 一回の【太陽光線】で百以上の種が落ち、それだけナッツマンが生まれている。

 ググルマワリの顔に攻撃しても数十個以上の種が落ち、それが【太陽光線】ごとに成長して強くなっていく。

 三の部屋はこのナッツマンをいかに早く処理できるかがカギだった。

「前にナッツマンがどれだけいるか数えたやつがいるんだ」

 打ち合わせのときダイエタリーは言った。

「なんとその数は一万を超える。残念ながらそこまででそいつは死んで、数は結局わからないままだったが、ググルマワリの顔が半分削れてそれだ。倍はいると考えていい」

 自分で言っておいてダイエタリーはその数を思い出しているのだろう。

「来るでござるよ」

「さっきよりも早いだろ。どういうことだ」

 愚痴りながらダイエタリーが射程圏内から大急ぎで離れていく。

「どうりゃあああああああ」

 と気合を入れて滑り込んで避けた。

 がダイエタリーの足から出血。ぎりぎりでかすってしまい火傷と裂傷によって傷を負っていた。

「治療は後回しだ。次のは厄介だぞ」

 ダイエタリーが痛みをこらえたしかめっ面で叫ぶ。

 ただのナッツマンが第一次生長し、第一次生長したナッツマンが第二次生長する。第二次生長していたナッツマンは最終形態ナッツマンへと進化する。

 いや最終形態はもはや種ではなかった。花だった。完全に咲き誇っていた。

 長い茎の胴体、そこから生えた前後の手足。ググルマワリと同じ向日葵によく似た顔。

 向日葵の四足獣。ダンデライオン(向日葵獅子)

 その姿はやがて生長し続ければ直立してググルマワリにでもなりそうな予感をさせた。


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