見栄
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三の部屋へと進む通路は白く光り輝いていた。一の部屋の壁質と比べてがらりと違う。ここだけ別の洞窟に迷い込んでしまった。
そんな感じだ。
上を見ればそこには発光する水晶がまるで氷柱のように生えていて、なんとも幻想的に見えた。
恋人と訪れればなんとも映える光景だけれど、周囲は羽音がうるさく聞こえていた。
「あいつら倒していったほうがいいのかな?」
僕はこの幻想的な景色を台無しにする魔物たちを倒すべきかどうか迷っていた。
「倒さなくていいわよ。無害なんでしょ?」
「でござるな。余計な暇を今はかけてはいられないでござるよ」
「まあ、倒したくなる気持ちも分かるけどな」
アリーやコジロウの言葉に次いでダイエタリーが言う。
「インスタフライは見栄えがいいもの、美しいものにただひたすら集りそれを記録する魔物だが、何せ数が多いから鬱陶しい」
ダイエタリーの言う通り、インスタフライの数は万を超えていた。
1mmぐらいの体長だけれど、その数のせいで羽音がうるさく聞こえるほどになっていた。それぞれが共鳴して音を大きくしているのだ。
元々、インスタフライは場所は忘れたけれどごく一部にしか出現しなかった珍魔物だった。
それが世界改変によって神出鬼没となり、いつの間にか膨大な数になっていた。人を襲わず、食べ物すら食べないらしいが、例えば美しく美味しい木の実があった場合、インスタフライはその木の実に集り、誰からも奪わせない。
自らが食べることをせず、誰かが食べることもできないので、その木の実は腐り落ちていく。
食べられることが木の実にとっての本能ではないにしろ、記録するだけに集る魔物が原因で腐るのは何か違う気がした。
しかもそれに需要があればあるほど採取できないだけ市場に回る数が減り値段が高騰していく。
そう考えると少し理不尽に思わなくもなかった。
「とりあえず進むわよ」
集る蠅の羽音が響く中、美しくも穢された通路を進み、僕たちは三の部屋へと到達した。
入る前に一時停止。入口の手前から陣取る魔物の姿を見る。
中央に大きな向日葵が咲いていた。それがどうやら魔物らしい。
天井には先程の通路のように発光する水晶が埋まっていて、まるで昼のような明るさを演出していた。そしてその水晶には例外なくインスタフライが集っている。
視線を向日葵に戻す。動かないと魔物には見えない巨大な向日葵――ググルマワリ。
その茎には大きな葉がふたつ生えていた。
「案の定、入らないと動かないね」
「入ればすぐに動き出す。攻略法は伝えた通りだが……」
ダイエタリーが上を見上げる。
「インスタフライは前はいなかったんだよね?」
「ああ、それがどう攻略に響くか」
「猪突猛進じゃないけど、今は考えている場合じゃないわ。今は攻略法通り。あの蠅が邪魔なら叩き潰して進むだけよ」
ダイエタリーの懸念も分かるけれど、アリーの言い分ももっともだ。
「行くよ」
僕が促すとダイエタリーは唾を大きく呑み込んだ。緊張が伝わる。
僕だって緊張していた。
当然だ、いつも命のやりとりをしている。それでも先に進む、高みに昇ると決意して一歩を踏み出している。
アリーが先頭を務めて四人で三の部屋に入る。
それを合図にググルマワリの茎が回りだす。
庭名で表現するとその魔物の特徴は分かりやすい。転回向日葵。
茎から生えている葉っぱがまるで回転鋸のように僕たちへと迫ってきた。
「散開! レシュ、コジロウ、任せたわよ」
アリーが合図して僕たちはそれぞれの役割を果たすべく飛び出していく。




