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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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腐朽


41


 ジャックは考察する。

 仮にその改造をタンアツが知ってしまえば、自殺することに必死にならないのではなかっただろうか。他人に殺されたくなかったら自殺するしかない、その必死さがなければタンアツの異常性は際立つこともない。

 それにもしかしたら――幾通りの考察からジャックはおそらく可能性の高いであろうと考えを察する。

「いいネ」

 一部の誰かが妄信的に欲しがる言葉をジャックを呟いて、殺意を向けたタンアツと向き合う。ジャックに殺意はない。

 けれど考察したい欲求をそのままぶつける。考察の果てに絞殺するのだから、すなわちそれが殺意だった。

 魔紐を使わずにそのまま手掴みで苦絞める。

 ぎぢりぎぢりとしっかりと絞まっていく感覚はあるのに、タンアツに苦絞んでいる様子はない。いや確かに死んでいるときはそうだった。そうして生き返って苦絞むはずだ。けれどいつまで経っても、もちろん長い長い悠久の時間が経ったわけではないけれど、それでもタンアツが死んで生き返ったぐらいの時間は経過していた。

 それでもタンアツは生き返らない。歌に合わせて縄跳びをしているはずなのに、いよいよというところで縄を跳ばないぐらいの衝撃があった。

「ほう」

 ジャックは考察する。

 首絞めて苦絞めているときに感じた熱さが今はタンアツにはない。冷えていた。

 死体のように冷えていた。このまま温まる様子もない。

 生き返るときはなんというか死んでいるときに体温が冷えていても、生き返る予兆というべきか徐々に熱を帯びていた。

 けれど今のタンアツにはそれがない。温まる気配がない。

 言葉の意味合いは違うが言わば冷血人間、いやそもそも血が通っていないのではないかと感じさせるほどだ。

 事実そうだった。

 苦絞める勢い余って、びぎりぃと首が千切れた。顔と胴体が分離してしまった。それでも血は流れなかった。それどころか地面に落ちた顔は団栗さながらにころころ転がって、ジャックが瞬きした頃には胴体と繋がっていた。

 まさに一瞬。道化師の手品のようだった。

「クククククッ……」

 らしくない笑い声がジャックから零れ落ちる。

 くっついた首を苦絞める腕に力を込める。さっきよりも殺気立って、先ほどよりも早く首を千切った。が、また瞬きの刹那に顔と胴体は繋がっていた。

「ハハハハハッ、これはいい、これはいいヨ」

 ジャックは何度も何度も苦絞めながら笑う。笑いながら苦絞める。

 タンアツの首は絞まっても苦しんでいる様子はないのだけれど、それでもジャックは首を絞めて苦絞め続けた。

 この状態は不死身とは違う。ジャックはそう考察した。

 なにせタンアツは既に死んでいる。死んでいてもなお、朽ちない。

 不朽身、いや腐朽身とでもいうべきか、ゾンビのように腐っていても朽ちることのない体。

 死んでいるのに倒せない。殺したのに倒せない。

 朽ちることのない体でタンアツは殺意を飛ばし、自らを殺した相手へと拳を振るう。しかし強靭的な狂人のジャックにはタンアツの攻撃はビクともしない。

 腐朽身のタンアツは朽ちないが腐っていてゆえに脆く弱弱しい。

 けれども今のジャックには、そして周囲で見ることしかできないミリアリアやヴィヴィにすら、いや腐朽身のタンアツにですらその身を滅ぼす方法は分からなかった。

 当然、ゾンビのように頭を射抜くことで朽ちる可能性はあった。がジャックは考察魔だ。考察して絞殺することを第一に考える男だ。

 朽ちる可能性を鑑みても、その可能性を考えてみても試そうとは思わない。

 それは考察であっても絞殺ではないからだ。

 あくまで考察して絞殺する方法を考える。それが考察魔だった。

 なおかつ当然だが腐朽身のタンアツは語らない。

 死人に口なし。いや朽ちないタンアツは口無い。腐っているからだろう口と鼻がドロドロに溶けてくっついて判別はつかない。

 時折聞こえてくるうぅーあ、あーぅうという音は果たして唸り声なのか、何かを訴えているのか。それとも身体が腐って空いている穴と穴が繋がっていてそこを通る風が奏でている調べなのか。肺は動いているわけもなく呼吸というわけではないだろう。

 何にせよ、ジャックには倒せる手立てはない。

 それでもジャックは絶望せず愉悦に笑う。笑顔で笑う。

 苦しまない、苦死んでくれないタンアツを苦絞めて笑う。

 タンアツの首が取れて、顔が地面に落ちて、でも再生する。

 それでも笑う。

 絞殺できないと絶望するでもなし、笑う。

 何せジャックは嬉しいのだ。

 どうすればこの腐朽身のタンアツを苦絞めることができるのか。

 それを考えるのがたまらなく嬉しい。

「その子をどうするさ?」

 邪魔をするようにミリアリアが問う。

 倒せないタンアツがいたからこそ標的にならず命を救われたが、倒せないのであれば現状は変わらない。むしろタンアツに飽きたジャックがいつこちらに興味を示すか。ミリアリアは不安でたまらなかった。

「どうって考察するに決まっていル。ミリアリア、邪魔をするナ」

 殺意の瞳がミリアリアを見据える。邪魔をすれば絞殺すると目が訴えていた。

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