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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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消失

39


「やっぱりネ」

 ジャックは自分の考察通りだったことに頷き、誰に頼まれたわけでもないのに名探偵さながらに考察を話し出す。

「キミは自分で死なないと生き返らないんだネ。だからボクに殺されることを拒んだ。絞殺されることを拒んだ」

 単に死んでも生き返るのなら、苦絞められるのを拒む必要もない。

 確かに生きている状況で苦しいのが耐え難いというのはもちろんあるかもしれないが、輪廻転生のように生死を繰り返しているタンアツにとって、そんなものは覚悟のうえだろう。

 ともすればジャックの攻撃を拒むのはタンアツにとってジャックは自分を殺しうる敵だと認識したからだ。

 敵ばっかりだから寂しくて死ぬ、なんてものは言わば戯言。道化師の演技。

 ようするに異質を見せつけ本質を隠すための技巧。

 そのせいで誰もが、タンアツを殺せないと思ってしまった。恐怖してしまった。

 ジャックの考察通りであればタンアツは他人の手ならばいともたやすく死んでしまうというのに。

 恐怖が隠れ蓑となってタンアツを覆い隠していた。

 けれどより恐怖の存在。タンアツを苦しめる。いや苦絞める存在が、その隠れ蓑を取り除いた。

 ジャックの考察にタンアツは震えた。

 タンアツはその通り、他人の手によっては殺される。

 だから自分の手で死ぬ。そうすれば改造された肉体が己を殺し、そして生き返らせる。

 改造屋ではないのでタンアツにその仕組みは分からない。

 けれど自殺すれば生き返ること、他殺されればどうにもならないことはジョーカーから教えられていた。

 誰かに殺されるよりも早く自分で死ぬ。そうすれば生き返る。

 タンアツの元人格はすぐに自殺する癖があったが、それはどれも一命を取りとめている。

 死にそうで死なない刺激。死なないけれど死にそうなほどの衝撃。

 タンアツの元人格が求めていたものはそれだ。構ってちゃんとでも言えばいいのだろうか。

 死のうとすることで誰かが心配してくれる、それが心底心地良い。

 本当に死にたいわけじゃない、ただ死ぬふりをすることで寂しさを紛らわしていたのだ。

 それをジョーカーが見抜いていたかどうかは分からない。

 それでもその元人格の癖はタンアツにも引き継がれている。

 タンアツも死にたいわけじゃない。殺されたいわけじゃない。

 だからジャックの考察によって、真実を暴かれたことに恐怖する。臆する。

「その様子じゃあ、考察通りみたいだネ。多少は楽しめたけれど……不死身ではないんだネ……」

 実に残念だと言わんばかりに落胆するジャック。

「考察も終わりにしよウ」

 本来ならこの後絞殺して考察することで、不死身を首絞めて苦絞めて殺せないにしろどう苦しむのか経過を観察しようとしていたが、その興味は既に失せていた。

 自分の導き出した考察がタンアツは他殺に限り不死身ではないと結論付けていたからだ。

 それが酷くつまらない。

 つまらなそうな表情ながらに殺気立つジャックにタンアツは脱兎のごとく逃げ出した。

 快足を誇る疾走師が足の速さで負けるはずがない。

 けれど逃げ出せなかった。回り込まれたわけではない、追いつかれたわけではない。

 距離はある。あるけれど、タンアツの首にまるで飼育動物についているそれのように紐が絡みついていた。

 タンアツが離れようとすればするほど紐は首を絞め、苦絞め、死を呼び寄せていた。

 その紐は魔紐〔葡萄のニール〕と呼ばれる魔剣の一種で絶対に切れないという特性を持つ。

 ジャックは考察のほとんどを素手で行っているが、逃げる相手にはこの魔紐を使っていた。

 本来、ジャックのような囚人の拘束具には【収納】を封印する仕組みが施されているが、脱走を促された際にその拘束具も解かれているため、ジャックは【収納】が自由自在で、使えなかった武器も使用可能になっていた。

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