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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
43/873

三匹


 6


「もう、始まってますね☆」

 ☆をつけずにはいられないテテポーラ・キラリがジシリ・ジェミクに話しかける。

「仕方ニャいニャ。アト山脈の見晴らしのいい高台を拠点にするためには遠回りする必要があったのニャ。そのまま、ザンデ平原からユグドラド大森林を突っ切れば半日もあればつくけどそれニャあ、ここに拠点を作ることはできニャいのさ。竜討伐にはきちっとした拠点が必要だからニャ」

「早速アンドレとカンドレが今拠点を作ってますよ☆」

「拠点ができても様子見ニャ」

「なら悪いお報せがあるよ☆」

「ニャによ」

「ムサハとトヨナカは拠点を立てることなく出発したみたい☆ もちろん、ふたりの仲間も一緒に☆」

「あいつらは欲張りだからニャ。放っておくしかないニャ。現状で待機しているのは?」

「ハイムとノノノ、グランヂとテッソのチームはジシリさんと一緒に行くみたいで待機してる☆ もちろん僕のチームもね☆」

「だったらその四チームに待機と伝えてきて欲しいニャ。あくまで狙いはアジ・ダハーカ。見えると思うけど三匹のリンドブルムは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)に任せるのニャ」

「了解☆」

 それでも他の冒険者にアジ・ダハーカを横取りされそうになったらリンドブルムが生きていようといまいと、突撃せざるをえないとジシリは判断していた。

「姐さん、拠点できたよな」

「次は何をすればいいのよな?」

 アンドレ・アードレーが事後報告を終え、カンドレ・カードレーが指示を待つ。

「情報がまだ少ないのニャ。偵察用円形飛翔機(ドローン)を打ち上げて様子を見るのニャ」

「「了解よな」」

 アンドレとカンドレが早急に準備に取りかかる。撮影機を搭載した天道虫のような機械が空を飛んでユグドラ・シィルへと向かっていく。試作機ということで集配員(レポーター)Bから譲り受けたものだ。

 遠くから対象を見れるということもあり、重宝していた。

 ジシリは映像越しに三匹のリンドブルムと戦う竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の姿を確認。他にも幾許か冒険者の姿が見える。街中に出現したのだから当たり前だが、被害にあった負傷者だっている。

 それでもジシリは助けようとはしない。

 ジシリたちの目的はあくまで、ドラゴン討伐。そのために誰が犠牲になろうとも何人が犠牲になろうとも、街が壊滅しようとも、関係なかった。なぜ助けてくれなかったと糾弾されたこともあったが、それも知ったことではない。

 あくまでドラゴン討伐が目的なのだ。

 今戦っている冒険者が、死のうが関係ない。それでも余計な戦いはしたくないので死ぬのであってもリンドブルムの一匹ぐらいを屠ってくれと願っていた。

 アジ・ダハーカはセフィロトの樹に悠然と佇む。そのセフィロトの樹も憎たらしいまでに死者の名を刻み、癒術に連動してその身を光らせていた。


 ***


 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ソレイルが斥候リンドブルムを屠ったあと、さらに疾走。

「ヒーロー、お前は下がれ」

 バルバトスが言い、アクジロウが前にしゃしゃり出る。

「援護します」

「まずはその折れた腕を治しやがれ!」

 アクジロウが察しろと言わんばかりに罵声をあげた。

 それでも行こうとする僕をリアンが引き止める。潤んだ瞳にみつめられて僕は何も言えなくなった。

 廃屋の後ろに身を隠し、リアンの癒術を待つ。その間も状況把握は怠らない。

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ソレイルは左方のリンドブルムへと向かっていた。中央のリンドブルムはバルバトスとアクジロウのほうへと向かい、右方のリンドブルムは、周りを散策しつつ破壊を繰り返す。

 アジ・ダハーカは幸運にもセフィロトの樹に鎮座したままだ。僕たちの力量を見極めているのかもしれない。

  ソレイルがひとりで果敢にも攻めているのに対して、バルバトスはアクジロウとともに、リンドブルムの出方を伺っていた。無理もない。四人でも精一杯だったのに、ふたりではさらに無理がある。

 あれ? そういえばリンゼットはどこにいる?

 辺りを見回すと廃屋のかげで震えるリンゼットを見つけた。生きているだけ僥倖だけどなぜ逃げないのか分からない。

 右方のリンドブルムが咆哮。何か動きがあったらしい。見てみると、名前も知らない冒険者数人がリンドブルムに飛びかかっていた。

「何しにきやがったッ! そいつらは俺の運動相手だっ! 倒すことなく死にやがれ、お前ら!」

 ソレイルが絶叫。

「黙れ、てめぇだけにおいしい思いはさせねぇつの。リンドブルムは儲かる。アジ・ダハーカはもっと儲かる!」

「結局、目的は金か! 最低だな。ついでに死ね!」

「はっ、じゃあは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のお前は何のために戦うのかねぇえ?」

「カッカッカ。そりゃ、ひとつしかないだろ。強さだ、強さの追求のためだ! それ以外に戦う理由がどこがある? それすらも分からないなら死にやがれ!」

 ソレイルは勢いに任せ、リンドブルムの顎を射抜く。痙攣したようにリンドブルムは倒れ、ソレイルは追撃する。

「はっ、強さだって? 呆れるっつの。そんな曖昧なもの手に入れて何になる」

 ソレイルと言い合っている男は、攻撃の手を緩め、さらに叫んだ。

「ジゼロ! 何をやってんだ、竜殺しの相手は無視だろ。集中しないと死ぬだろ、ほんと!」

「はっ、んなこたぁ分かってる。黙れよ。ムサハ」

「だったら、とっととその無駄口を閉じろ。息吹がくるだろ!」

 ちっ、と舌打ちしつつもジゼロは目の前に集中する。

 仲間が唱えた援護魔法階級7【無炎壁(アンチファイア)】がリンドブルムから放たれた【業炎吐息(ヴォルカンブレス)】を完璧に打ち消す。

 ジゼロの屠竜鎌〔断頭台上のビビリ〕がリンドブルムの右目を抉り、ついでムサハの屠竜槍〔気合だ、ジョニー〕が比較的柔らかい腹を貫く。

 それを引き抜くと後続が連続でその部位を狙う。初撃でできた傷が広がり、痛みからかリンドブルムが吼える。彼らの一連の動きは玄人そのものだった。

「はっ、リンドブルムを飛翔させるなよ」

 怒号して駆け出すムサハの動きにジゼロが続く。

 その少し後ろにムサハたちを見つめる姿があった。

「ムサハ隊に配分を奪われちまうんだぞ、トヨナカ」

 その声にトヨナカは応えない。何も答えずにトヨナカは祝詞を紡いでいく。

「安心するんよ、ムガっち。トヨっちはおいしいところを頂く贅沢主義なんよ」

「分かってるんだぞ。それは分かってるんだぞ……でもいつもそうだから相変わらず退屈なんだぞ」

「そりゃムガっちは魔法も癒術も使えんから、ムサハ隊向きだもんね。もうあっちに行っちゃえば?」

「嫌だぞ、それは。だって俺はムサハが嫌いなんだぞ」

「だから後衛が多いトヨっち隊に入ったのよね?」

「まあそうだぞ。でもそれだけじゃないぞ。後衛職のなかに前衛が交じれば、必然的に大活躍できるのだぞ!」

「でもトヨっちって基本前衛が多い隊と組まされることが多いから実はあんまり意味がないんよ」

「それは後から気づいたんだぞ。でも俺はここにいるぞ」

「別にそれについては文句は言ってないんよ。うちもムガっちがいてくれたほうが嬉しいんよ」

「ハイゼ、それは死亡フラグだぞ!」

「なんでそうなるんよ」

 軽く笑いつつも、ハイゼ・リンドとムガツ・チマツリはトヨナカ・オダを守護する。

 その間にもムサハは攻めていた。

「はああああああああっ!」

 気合とともにムサハの姿が一変、ワーウルフ(狼男)と変わる。同時にジゼロも表皮が鱗へと変わり、蜥蜴のような顔つきへと変貌していく。リザードマン(蜥蜴男)だった。

 ムサハがリンドブルムの前足を屠竜槍で傷つけ、さらに強力な犬歯で噛みつく。次いでジゼロがリンドブルムの失明した瞳を屠竜鎌で再度抉り、腕力よりも強力な尻尾の一振りでリンドブルムの顔を強襲する。

 さらにもう一撃、ジゼロが加えようとしたが、

「ジゼロ、時間切れだろ、下がれ」

「はっ、また配分が減るのかよ」

 蜥蜴顔のジゼロが愚痴を零し、

「仕方ないだろ。そういうもんだろ」

 狼顔のムサハが呆れる。

 ふたりが時間通りに後退するとトヨナカの魔法が発動する。

 魔道士トヨナカが掲げる、水晶の聖樹杖〔母なるダイチ〕の聖樹がプリママテリアと成りて、エーテルたる水晶が定義した要素を結合。魔法がこの世に顕現する。

 リンドブルムの足から頭を貫くように鋭い岩の針が地面から幾重にも生まれる。攻撃魔法階級7【山脈遊戯(ベルク・シェプフング)】。

 貫く大地の牙がリンドブルムの動きを鈍重にし、足元からゆっくりとリンドブルムを石化させていく。ゆっくりとじわじわとまるで弄ぶかのように。

 トヨナカは指を鳴らす。

 すると石像へと変わり果てたリンドブルムが徐々に崩壊を始める。別段、指を鳴らす意味はない。トヨナカはあたかも自分が合図したから石像が壊れたように錯覚させたかった。そうすれば自分がやったのだと明確に主張できるから。トヨナカには妙なプライドがあった。

 崩壊後、リンドブルムの石化が解け、残るのはちょうどいい具合に解体された死肉だけだった。

 トヨナカたちが多勢で一匹のリンドブルムを倒したさなか、さらにもうひとつ。違う地響きがユグドラ・シィルに聞こえた。

 それは一匹のリンドブルムが地面へと平伏す音。

 倒れたリンドブルムに余裕の表情で鎮座するは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ソレイル・ソレイル。

 トヨナカたちが多勢でリンドブルムを屠ったのに対して、彼はたったひとりでリンドブルムを絶命までに追い込んだ。

「カッカッカ! 上位魔法を使わないと短時間で倒すことができないのかよ」

 一言、くだらなそうに呟いた。

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