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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
427/874

突破

28


 それでも、

「倒し方は同じなんだよね?」

「たぶん、そうぽん」

「ならやるっきゃない。回転は僕が止める」

 既にクライスコスは腕を、ヴィーガンは足を骨折し、ダイエタリーは避けきれずに棘の壁に激突していた。これ以上の負傷はこれからに響く。

 僕もぎりぎりのタイミングで【転移球】を使って避けてはいるけれど、集中が切れたり、何かの拍子で、決して軽傷では済まされない傷を負いそうだった。

「強度次第だけど……」

 自信はあんまりなかった。

「自信持っていきなさいよ」

 アリーが鼓舞してくれる。そういう意味でも僕とアリーは息ぴったりなのだった。

 何を言わなくてもアリーは励まし、僕の背を押してくれる。

 物理的な意味でもアリーが僕の背中をパンと押し、回転鞭を避けるように前かがみに少し進む。

 【戻自在球】を真上に投げる。先端についた素材球に【蜘蛛巣球】の頑強な糸がついたそれ。

 先端の素材球が天井にぶつかったとともに球の部分も【蜘蛛巣球】へと変化。天井へと張りつく。

 そして【戻自在球】の糸が自動的にカグヤヒメの鞭へと絡みついた。

 僕は【戻自在球】の糸、正確には僕の指にくっついていた部分を手放す。

 【戻自在球】の糸は粘着性を持たせるかどうか僕の意志で選択できる。

 そういう意味でも自在な球だ。今回は粘着性を持たせておいた。

 つまり僕の手から放れた【戻自在球】の糸はカグヤヒメの鞭へと接着。

 素早く【転移球】でその【戻自在球】と直線状になる位置の天井に【戻自在球】を放って同じように【蜘蛛巣球】へと変化させる。

 これで球・カグヤヒメ・球という配置になる。・は鞭で、カグヤヒメと球が繋がっていた。球は糸で天井に繋がっている。

 それらがぐるぐると回り、球の糸が、反対側の糸へと絡まっていく。

 鞭が上下に動くことで取れることを懸念していたけれど、取れることもなく、順調に二本の糸がカグヤヒメの頭上で絡まっていく。

 中央で糸が絡まることで鞭の動きが絞めつけられるように止まっていき、速度が落ちる。

 全員が十全のまま避けれる速度。

 このまま順調に動きを止めてくれれば願ったりかなったりだけれど、中央の絡まっていく力のほうが天井に粘着している球や、鞭に付着している糸よりも力が強い。既に鞭からは剥がれそうなのが目に見えていた。

 未だに回転を止めないカグヤヒメも理解しているのだ。これが一時しのぎに過ぎない、と。

「今やるしかないぽん」

 レジーグの言った通りだった。

 好機は鞭の勢いが弱まっている今しかない。

 レジーグとコジロウが左の鞭を掴む。

 右はアルルカしか万全に動けないためアリーが援護。

「しっかりやんなさいよ」

 僕に向けられた言葉にアルルカも頷く。途中で自分に投げられた言葉じゃないと気づいて赤面。

「あんたもよ」

 アルルカにそう告げて言葉足らずだったことを恥じるようにアリーはアルルカを励ます。

 左右の四人が暴れる鞭を引っ張って左右の石像の槍へと突き刺した。

「ぎゃあいいいいいいいいいいい!」

 カグヤヒメが人間じみた断末魔を上げる。痛みを感じるということは鞭というか武器ではなくこれが腕そのものなのだろう。

 鞭の腕が槍に深々と刺さると槍の穂先から円形の結界が発動。外れないように固定された。

 石像の槍に鞭腕を刺すというのがこの一の部屋の第一段階。

「レシュ!」

「今でござるよ」

「分かってるよ!」

 コジロウとアリーのかけ声に呼応して僕は【剛速球】の乱打をカグヤヒメへとぶつけていく。

 こりゃあタマらんと言わんばかりに球乱打を腹部に受けたカグヤヒメは後ろへと下がっていく。

 動かないだけで地中と固定されているわけではなかった。それも事前の情報通りだ。

 体が竹であるから根深く地面に生えていると思ってしまいがちだがそうではなかった。

 石像に鞭腕が固定されているため、一気に吹き飛ばされることはなく、両方の鞭腕が胴体を中心としてくの字のようになっていた。

「うらあああああああ」

 勢いよく最後に一撃を食らわす。トドメの一撃じゃない。

 トドメのための一撃。僕が投げるのをやめると、投擲器(スリングショット)の弾のようになっていたカグヤヒメの胴体がくの字に曲がった鞭腕が元に戻ろうとする反動で、こちらへと向かってくる。

 急速回避。

 避けなければ、僕が轢死する。僕を通り越すと槍から鞭腕が外れて、カグヤヒメが棘のついた壁へと激突。

 すると強固そうに見えた竹が瓦解。

 実際に攻撃すると強固堅牢な竹だが、なぜかこのギミックを成功させると、その竹が外れ、最も脆い場所が露出する。

 竹の下に、まるで老婆のような弱弱しい足が見えた。

 それこそがカグヤヒメの弱点。

「畳かけるわよ」

 カグヤヒメが飛んでいく寸前には走り出していたアリーが、尻もちをついていた僕を叱咤。

 コジロウもレジーグもアルルカもとっくに弱点へ向かって攻撃姿勢を取っていた。

 一番速いコジロウがまずは先制の【伝火】。刃先から作り出された炎が腕を伝っていくがその前にカグヤヒメへと伝播。

 続けざまにアルルカ。魔充剣タンタタンに宿されたふたつの【弱火】による一撃。宿りし炎はまるで競い合うように火力を高め合っているように見え、切り裂かれたカグヤヒメは大きく断末魔を上げる。

「だああああああああああああぽぉおおん!!」

 少し間抜けにも聞こえる気合いと同時に大棍棒〔大根役者コヤブキー〕を振り上げたのはレジーグ。

 アリーのほうが生身では素早いが、レジーグは狂戦士。【瞬間移動】でアリーを追い抜き、カグヤヒメに超速接近。

 同時に【筋力増強】をフルスロットル。筋肉が肥大し常人の筋力を尋常じゃなく上回る。

 その状態でコジロウとアルルカが負わした傷めがけて大棍棒を叩きつける。もちろん、速度も威力も恐ろしかった。

 カグヤヒメから見たら、泣きっ面にペインビーと言ったところだろうか、

「ぎゃあああああああああああああ!」

 追撃の激痛に悲鳴を上げる。

 それでもカグヤヒメにとっての悪夢は終わらない。

 後続にアリー、そして僕がいた。

「焼き尽くせ! レヴェンティ!」

 魔充剣から解き放たれた【炎轟車】がカグヤヒメへと強襲。炭化するほどにカグヤヒメの肉体を焼いていく。竹の鎧が解除されたカグヤヒメの弱弱しさはまるで赤子のようだった。

 それでも情けをかけることなく僕の【剛速球】がカグヤヒメの幾度となく傷を蓄積された足をぶち破った。

 僕の熟練度が高まっていたこともあるけれど、何よりみんなの怒涛の攻撃が足をぶち破るに至っていた。

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 カグヤヒメの悲鳴の大きさが一段階上がる。何段階まであるのか知るかのように僕たちの連撃は止まらない。

 再びコジロウが、アルルカが、レジーグが、アリーが、僕が、攻撃を続ける。

 事前に教えられた情報だったけれど、一度壊れた竹の鎧はもう修復しない。

 手順を踏んでギミックを踏破した僕たちへのご褒美のようにも見える。

 断末魔が収縮していき、カグヤヒメが明滅して消えていく。

 死体は残らなかった。

 死体から表皮や肉を剥ぎ取ったりできないのは今までの試練と同じだ。

 僕たちが封印の肉林の外に出ればカグヤヒメは再び現れ冒険者の試練となって襲いかかる。

 それが死からの復活なのか別個体なのか僕は知らないけれど、傍から見たら不死身のようにも思える。

 もっとも冒険者の命を奪うために戦い、時折死ぬのを延々と繰り返すだなんて苦痛にしか思えないけれど。

 真実はともかく一の部屋は突破したことになる。

 左右の壁がそれぞれ開く。二の部屋と三の部屋へと続く部屋。

 ここからは二手に分かれて進む必要があった。

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