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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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竹姫

27


 じっくりと作戦を練った僕たちは封印の肉林へとやってきていた。

 ここは植物型の魔物が部屋ごとに生息していて、その部屋を突破しないとこの封印の肉林のボスであるハエトリグサまでたどり着けないようになっている。

 とりあえず四の部屋までの知識はレジーグたちによって教えてもらっているけれど、何が起こるのが分からないのが試練だ。

レジーグたちが先頭を陣取り、まずは一の部屋の前へで待機。

 部屋に入らなければ戦闘は始まらないが、僕たちの気配を察して一の部屋の主は殺気を放っていた。

 封印の肉林は蔦が無尽に絡まった壁でできていて通路は三人が横並びで歩いても大丈夫な広さ。高さも僕がアリーを肩車してもまだ余裕があるぐらい高い。

 通路でそれなのだから各部屋の広さは通路以上に余裕がある。

 その広大な部屋を観察する。

 一の部屋の主は中央に陣取っている。空中庭園に生える竹が巨大化し、それが途中で斜めに切断された断面に異形の姫が融合していた。下半身が竹で上半身が人間に酷似していた。紫色の肌に黒い目、金色の爪に白い髪で竹をモチーフにしたような着物がはだけて豊満な胸が露出している。腕も肘部分で竹に接合され、腕代わりだろうか、巨大な竹の左右には蔓でできた鞭が一本ずつ。ビシ、バシと上下に撓っていた。 

「あれが最初の部屋の主カグヤヒメ(竹月姫)だね」

「そうだポン。前に対峙したままの姿だぽん」

「前とギミックも同じが濃厚かな。石像もあるかな」

 言ってクライスコスは入口へとぎりぎり近づいた。

「発見かな」指して左右にある石像を発見する。

 その石像は手を突き出し、石突を地面に置くように槍を持っていた。

「過信は駄目だけど、ここは攻略法を信じてやってみよう。ここで躓いているわけにはいかないよ」

「でござるな」

「何かあったら、あんたが対応すればいいだけの話」

 僕任せの発言に苦笑する。けど結局、僕がなんとかしようとするのは僕が一番良く分かっていた。

「行こう」

 僕の呼応に応じて、全員が一の部屋へと飛び込む。

「キィエエエエエエエエエエエエエ!!」

 侵入者を拒むように奇声を上げてカグヤヒメは鞭を的確に放ってきた。

「回避だポン」

 レジーグの言葉通り僕たちは一斉に回避。

 防御してもいいが弾かれて壁に激突するのは避けなければならない。

 壁を一瞥して情報通りだと確認。

 周囲の壁が戦闘開始とともに棘だらけに変貌していた。

 カグヤヒメは鞭の連続攻撃で冒険者を棘の壁に叩きつけてくるのだ。

 情報通りであることにわずかに安堵。

 とはいえ、超高速の鞭を避けられたのは予備知識の賜物だろう。

「手筈通りに!」

 僕の言葉よりも早く、左右、中央へと分かれる。

 左にはダイエタリーとレジーグにコジロウ、右にはヴィーガンとクライコスにアルルカ、

 中央が僕とアリーだ。

「頼んだわよ」

 陽動する形となるアリーが左右の六人に告げる。

 アリーが陽動になったのは僕の援護が最大限活かせるからだ。

 息ぴったりのことを阿吽の呼吸と言ったりするけど、僕とアリーの間には阿吽の呼吸なんてものがなくとも息がぴったりなのだった。

「レシュ、ぐずぐずしない」

 叱咤が飛んできた。遅れたつもりはないけれど、ちょっと出遅れたらしい。

 それでも息はぴったりなのだった、たぶん、きっと。

 中央に向かってくるアリーをカグヤヒメが左右の鞭を交差させて薙ぎ払う。

 転がるように避けて、全身。

 返しの鞭が左右の冒険者へ強襲。左右から近づかせる気もないらしい。

 六人が避けて疾走。まだ目的の場所へと到達はしていなかった。

「切り刻め、レヴェンティ!」

 アリーが叫び、カグヤヒメの集中を自身へと向ける。

 剣先から放たれた渦巻く竜巻、【竜風】がガグヤヒメを強襲。

 途端に、カグヤヒメがぐるりとその場で回転。回転の勢いで鞭が真っ直ぐピンと伸び、自らを中心とした風を作り出す。

 進む風の向きは【竜風】と逆。逆向く竜巻となって【竜風】を相殺。しかもカグヤヒメは【竜風】を逆向きにして取り込んだかのように速度を増す。

 鞭の位置は腰程度だが長さが異常。左右にある石像すれすれ、壁のぎりぎりまで届いている。中央のカグヤヒメと壁との中間あたりにいた僕たちは回避行動を取らざるをえない。

 けれど鞭の位置が腰の位置から動かないならしゃがめば事済む。

 ……わけがなかった。速度を上げたカグヤヒメは鞭を上下に動かし始めた。

 横に超高速回転しながら上下に波打つ。

 カグヤヒメの攻撃は逃げ場があるようでない。自分のところを通過するとき偶然鞭が上にあってもそのとき限りだ。次がそうであるとは限らない。

 現状カグヤヒメを止めなければなんともならない。

「ヤベーかな」

 右側のクライスコスがぼやく。

「これは初見だぽん」

 レジーグにも焦りが見えた。

 経験者たちが言うようにこれは予備知識として僕たちも聞かされていない。

 レジーグたちが挑んでいた頃と僕たちが挑む頃の間に世界改変があって何かが変わってしまったのか、それともアリーが使った【竜風】のような魔法を使うと回転状態になるのか、それは分からなかった。

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