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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
425/874

白壁


26


「意味わかんない。でモー、鬱陶しいことだけは分かった」

 セキフンジャクは苛立ちを隠さない。

 腹立たしさのまま睨みをきかせて、

「なら、これならどう?」

 両手を大きく広げて突撃する【屠龍&鷲木菟】とも、空中から体を丸めて強襲する【月光&箒星】とも違う構え。

 前に腕を突き出し、手を絡ませる。人差し指を前に出した。

 そのまま尻穴の前に行き、肘を引いて素早く前に突き出せばいわゆるかんちょうの構え。

 だが、違う。人差し指を出したあと、親指を上に突き出す。

 手で作る鉄砲のような構え。

 そのままの姿勢で、セキフンジャクは大きく息を吸う。

「ドッ!!!!!」

 そして吐き出した。

「カン!!」

 瞬間、前に出した人差し指から指と同じぐらいの光線が発射され、瞬く間に肥大。

 セキフンジャクの背を超えるほど大きな光線がミネーレへ向かって放たれた。

 光線の正体は魔法ではなく闘気だ。

「くううっう!」

 ミネーレは衝撃に耐えながら巨大盾でその暴力的なまでの闘気光線を必死に抑え込む。衝撃によって弾き飛ばされたら元も子もない。

 暴力技能【閃電&流星ライトニング・ミーティア】は使用者の力を闘気に変えて射出する凶悪な技能で暴力技能唯一の非接触技だ。

 当たれば対象を消し炭にするというよりも消滅させるその光線だったが、巨大盾は消滅しない。その威力よりも堅牢な証拠。

 が押す力はミネーレの抑える力よりも強いため後方まで押し込まれ、足の轍ができた。

 それでも闘気光線を耐え切る。

 どやし、とミネーレは笑う。

 対するセキフンジャクは「このハゲーッ! 違うだろー!」と言わんばかりの怒りの形相。

「モーなんなの」

 セキフンジャクとしてはやり切れない。

 防御一辺倒でミネーレは攻めてこない。

 何かを企んでいそうでその何かが分からない。

 かといってセキフンジャクの攻撃も通らない。

 その均衡を破ったのはミネーレ自身だった。

「こっから反撃だし」

 三重の【加速】がミネーレへと届いたのが攻勢に転じる合図。

 本来の三倍以上の速度上昇を得てミネーレが選んだのは盾を前に構えての体当たり。いや突進、むしろ捨て身タックルか。

 奇しくもかつてディエゴが使った加速体当たりと同じところに行きついていた。

 電光石火、いや神速の勢いで反撃の隙など与えずにセキフンジャクは衝撃を受ける。

 感情的にではなく物理的に、現実的に、受け止めることすらできず、巨大盾にぶつかり跳ね飛ばされていた。

 なんとか受け身。眼前には巨大盾を捉える。

 かと思えばもう眼前。

「モーうっざい」

 瞬間的にその場から右へとごろりと避ける。さっきまで殺すわくわくに満ちていた気持ちが冷めていくのが分かった。

 さっきまでセキフンジャクがいた場所をミネーレが通り過ぎる。

「次は? モーどこ?」

 咄嗟に後方のミネーレを確認。一瞬、視認できたがそれ以上は見つけれない。

 周囲を見渡していると途端に上空に影。

「上っ!?」

 太陽を巨大盾が隠したことで気づく。ミネーレは進行方向にあった木の幹に壁蹴りをして高く跳ぶ要領でついでに方向転換もして跳躍。

 セキフンジャクの頭上へと移動。

 直撃時の威力がどれほど暴力的かセキフンジャクには想像できた。まるで【月光&箒星ムーンライト・コメート】を真似をされているようで「モーいい加減にして」と苛立つ。だからと言って何もしないわけにはいかない。

「ごふっ!?」

 しかし突然、吐血。思わず膝をつく。「モー最悪」セキフンジャクはなんとなく理由を察してぼやいた。

 暴力技能の使用中は能力値で言うところの防御力が0になる。それをセキフンジャクは重々承知していて十分に気をつけていた。

 ただし暴力技能を使用中ならば、の話。

 使用外ならば元に戻るのでどこか注意が疎かになっている。

 改造者として強靭な力、知識を得ても冒険者としての経験は浅い。

 それにセキフンジャクは常時超強化技能を使っているわけではない。

 ところどころ、隙になりがちなところを自身で忖度して使用している。長期戦闘であれば実はそちらのほうが燃費が悪いのだが、暴力技能による超短期決戦が主とした戦い方であるセキフンジャクにはそちらのほうが燃費が良かった。

 もっともいくら改造者と言えど暴力技能と超強化技能の併用には限界があった。わずかに疲労がある。

 とはいえ超強化技能がなくとも改造者であるため常人の攻撃など技能なしでも耐えうる肉体を持っていた。

 それでも膝をついた。ついてしまった。

 常時の防御力だけでは先の加速体当たりが耐えきれなかったということだろう。

 外傷は少なくてもぶつかったときの衝撃が内部をズタボロに傷つけていた。

 膝をついてしまったせいでミネーレに好機が訪れる。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 気合いとともに盾を振り上げて空中から急降下。

 勢いのまま盾を振り降ろす。

 そのまま命中すれば殴られた相手の頭が大きく凹み、目玉が飛び出してしまいそうなぐらいの勢い。

 だったがセキフンジャクの頭にぶつかった瞬間、

「っ!」

 ミネーレが顔を歪めた。頭に超高速の打ち下ろしが決まったと思いきや、セキフンジャクの顔は凹みも傷つきもしてなかった。

「ぶモおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 咆哮とともに体のありとあらゆる穴から白い液体が噴射され、その液体がセキフンジャクを覆い固まっていた。

 ある意味で防御殻。

 それがミネーレの最硬が転じた最高の攻撃を防いでいた。

 防御殻の硬さとミネーレの最高の攻撃。二つがぶつかればより強いほうが勝つ。

 今度はセキフンジャクに軍配。

 がぎん、とミネーレは空中に弾き飛ばされる。

「モーなんなのこれ?」

 窮地を脱したセキフンジャクは白い防御殻のなかで疑問を呈した。

 セキフンジャクも知らない改造だった。自分を包む白い殻の一部を触り、手についたそれをそのままペロリと舐めた。

 甘い味がした。それも知っている味。

 どう考えても牛乳だった。

 それが自分の身を守っていた。

 しばらくして自分を覆っていた乳の殻がどろりと溶け始める。

 柔らかくなった部分を蹴り飛ばして脱出。

 そのままセキフンジャクは駆けだした。

 正直、気持ち悪かった。

 セキフンジャクは自分が望んで改造を受けたという記憶を植えつけられているため改造されていることに対しては何ら不服はない。

 けれど、自分が把握してない改造をされていることが、説明書にない使い方、いうなれば裏技を見つけて喜ぶというよりも、自分が知らない自分の黒子の位置を他人が知っているような、そんな気持ち悪さがあった。

 モー問い詰めるしかない。九死に一生を得たとはいえ、この改造は何なのか、それを知るべくセキフンジャクは撤退することに決めた。

 至極不本意な撤退。

 それでもこの気持ち悪さは放っては置けなかった。

「……逃げられたし」

 ミネーレとしては追跡して倒してしまいたかったが、こちらは【加速】の効果が切れているうえにセキフンジャクも超強化技能【高速瞬動(ライジングラン)】によって超加速で撤退していた。忍士がいれば追えたかもしれないがこの場にはいない。

 追跡を諦めざるを得なかった。

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