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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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夢為


24


「筋肉は不滅ですぢゃ。このわしが負けるとでも? それにいつか語ってくれた夢。わしはそれに賛同しておるのぢゃ。だとすればここでその夢を失うわけにはいかないのですぢゃ!!!」

 普段のモッコスと比べれば珍しいほどの長台詞。まるで死ぬ前に想いを告げたようなそんな印象すら受ける。

「だから、逃げるのですぢゃ!」

 モッコスの痛烈な叫びにモココルは頷いて走り出す。

「よくモーまあ、敵の前でそんな話ができるね」

 セキフンジャクの狙いがモココルに切り替わる。

 腕を広げて角を前に突き出す。【屠龍&鷲木菟】の構え。

 間髪入れずモココルへと激突。

 見るも無残に散る――前にモッコスがモココルの間へと入り込む。間に合わせるために【瞬間移動】を三重展開。超高速で移動して肉の障壁と化す。

 激突してモッコスの四肢が四散。がすぐに肉体が再生。

 バラバラにされた肉塊が瞬時に戻る様は本人にしてもいい気はしないが、即死は免れる。前もって【偽造心臓】は三重展開してあったのだ。

「モー! だからしつこいって!」

 肉壁にぶつかり、跳ねて宙に浮かんでいたセキフンジャクはその場で再度、【屠龍&鷲木菟】を使用。無慈悲なまでの暴力が再来。

 モッコスが再生して即座に反転、セキフンジャクと対面し、角を受け止める。

 高速のなかで角をがっちりと受け止めれたのは【望遠透視】を使用しているからだ。そうでもしなければ目にも止まらぬ速さのセキフンジャクは止められない。

 が、ギリギリすぎた。【筋力増強】を使う暇もなく、モッコスの肉体へとぶつかり、衝撃で肉が爆ぜる。

 それでもなんとかモッコスは上へとセキフンジャクを打ち上げた。

「モー、しつこい! しつこい!」

ぜえ、はあ、と息を絶え絶えにモッコスが二度目の再生。【偽造心臓】は残りひとつ。

 あと一回は死ねるが、押しては返す波のような暴力の前では保険にもならない。

 一方で宙に弾き飛ばされたセキフンジャクは膝を腕で抱え込み、丸まる。

 体には闘気。これもまた暴力技能のひとつ。

 セキフンジャクは自然落下ではなく急降下していた。

 地面に近づくにつれ、丸まった体、闘気の色が赤く染まっていき、速度がぐんぐんと増していた。

 ずどん、とモッコスへと直撃。

 さすがにモッコスでも受け止めきれない。

 まるで隕石が落ちたかように地面にクレーターが生まれた。

 【月光(ムーンライト・)&箒星(コメート)】と呼ばれる暴力技能は、あたかも隕石のように空中から強襲する技能だった。

 セキフンジャクに潰されたモッコスが再生して立ち上がる。がふらりと体がもたつき、耐えれず膝をついた。

 再生の反動で肉体疲労は半端なものではなく、強化技能の酷使によって精神摩耗も限界が近づいていた。

「モッコス~!」

 間延びしていても心配げにモココルが叫ぶ。

「いいから……逃げるのですぢゃ!」

「モー分かってる? さっきの繰り返しじゃん」

 セキフンジャクが【屠龍&鷲木菟】の構えから発射。

 再びモココルへと向かっていた。

 モココルはもうモッコスを見ない、ただひたすら全力で走り出す。

 あっという間に追いつかれるのだとしても。

 モココルの走る先には冒険者か魔物の影が見えた。

 どちらかは分からない。それでも助けを求めるように走った。

「モー観念してよ」

「ふうううううううううううん」

 体をねじ込ませて限界のモッコスが壁になる。

 強化した筋肉で角を抑え込み、減速させる。

 それでも止めきれず、モッコスの腕を貫き、そのまま肉体をも突き破った。

 【偽造心臓】のストックはもうない。

 モッコスの呆気ないまでの死だった。

 それでもモココルは走った。立ち止まらない。

 うっすらとモッコスの死に感づいて涙を流すが、立ち止まらない。振り向かない。

 夢を実現させることこそモッコスの遺志なのだ。

 モココルの夢は冒険者学校を作ることだ。それも島にではなく大陸に。

 初心者協会のもとでランク0はランク1になるべく修行を行うが、ランク1になり、大陸に出てから修行は師匠による独自のものになる。

 それが間違っているとは思わない。

 けれど師匠との死別や、ランク3+以降の離別によって修行を積むのは独自のものとなり、試練を突破できず道を外れたり諦めたりする冒険者も多い。

 そんな冒険者の受け皿となる冒険者学校。

 十分な経験を積めない冒険者は意外なほど多くいる。十分に経験を積んだつもりでもレシュリーたちの弟子のように死んでしまうこともある。

 その可能性をモココルは減らしたいと、ルルルカの死後思うようになった。

 それは見守ると決めたルルルカが死んでしまったからかもしれない。

 モココルはそれをそれとなくモッコスには伝えていた。

 だからモッコスはモココルを庇って死んだ。

 死んでしまった、モココルは責任を重く感じていた。

 それでも夢実現のために、ここは逃げ切らなければならない。

 ようやくこちらに向かってきている影が人影だと認識できた。

 六人の人影。

 逃げて、と伝えるべきか、協力して逃げるべきか。

 戦う選択肢はモココルにはなかった。

「モー、いい加減に死になさいよぉぉぉおお!」

 【屠龍&鷲木菟】の構えで突撃姿勢。

 避ける術はモココルにはなかった。

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