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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
420/874

適当


21


 屋根から飛び蹴りした男は見れば怪我を負っていない。結界に巻き込まれなかったのか、ムジカと同じ選択をして無傷だったのは定かではないが、腕に自信があるのだろう。

 だがその飛び蹴りはすんなりキョウコウに見破られ、受け止められた挙句、足を持たれたうえに何度か回され、そのまま投げられて家屋に激突した。

「ウヘッヘッヘ、伝説級に投げられちまったっしょ」

 軽い口調で立ち上がるその男だが、額からは血が流れている。

「皆まで言うな」

 誰も何も言っていないが、男は周囲を制止するように掌を前に突き出した。

「この程度の傷、大したことないっしょ」

「邪魔をして絶望させてくれるなら大歓迎だ……」

 どうやら一緒に戦ってくれるらしい男にガリーはそう呟く。

「聞いて驚けっしょ!」

 男はキョウコウに立ちはだかって口上を垂れる。

「前代未聞、前人未踏、風雲急を告げる男アールビー・アンビシャズとはオイラ様のことっしょ!」

「バカだ……」

「バカがいる」

 とりあえず格好良さげな言葉を適当に並べてそう名乗ったアールビーに周囲の冒険者が次々に呆れた。

 それだけでバカっぽさが垣間見え、ガリーも絶望した。

「てメェ~、バカですかメ?」

 キョウコウも思わず問いかける。

「皆まで言うな。オイラ様は天才も天才、超天才に決まっているっしょ」

 どう解釈したのかアールビーは照れ始めた。

「メェン倒な人ですメェ……」

 それにはほとんどの冒険者が同意した。やりとりだけで気疲れしてしまうのは容易に想像ができ、敵ながらキョウコウにほんの少し同情もしてしまう。

「えっとあんた!」

 キョウコウの言葉に耳を貸すことなく、あくまで自分勝手にアールビーはガリーに話しかけていた。

「……そもそも誰だっけ?」

「ガリー・ガリィ」

 呆気に取られて死にたくなりながらもガリーは答える。

「そだそだ、ガリガリガリーくんだ」

 明らかに間違っているが、アールビーは訂正する素振りもなく、ガリーが言い直したところで、この手のタイプは絶対にこれからも間違い続けると想像しやすかったためガリーは言い直すこともしなかった。

「オイラ様があんたを手伝うっしょ。見たところ、その細剣じゃ戦いにくいっしょ? でもそれは盗んだものだから、捨て置くとまた奪われる感じっしょ? それは避けたいでしょしょ?」

 ガリーは少なからず感心してしまった。アールビーはガリーが細剣を捨てれない理由を見事当ててみせた。

 ただのバカではないのだ、ガリーは少しだけ認識を改める。

「……でも、だからと言ってどうする?」

 ガリーは尋ねる。

「皆まで言うな」

 ただのバカだ、ガリーは再度認識を改めた。

「その剣はオイラ様に任せるっしょ。何せ、オイラ様はガリガリガリーくんとは違う“けんとうし”っしょ」

 自分とは違う“けんとうし”とはどういうことだろうか、ガリーはその言い回しに一瞬引っかかるが、すぐに気づいた。

「ああ、剣投士ですか……」

「ウヘッヘッヘ、空前絶後にその通りっしょ!」

 剣投士は本職が投球士、副職が魔法剣士の複合職だった。

「オイラ様の唯一無二、唯我独尊の剣投技能【剣投】なら、その細剣、有効活用どころかサ行変格活用までできるっしょ!」

 アールビーの言葉にガリーはバカ過ぎて絶望していた。

 言葉の意味を分かって使用してないどころか大声で細剣をどう使うかまで喋ってしまっている。

 武器を持っていない時点で本職が投球士系だとは推測できても、副職によって技能が大きく違う投球士系の利点を、自らなくしたようなものだ。

「皆まで言うな。ガリガリガリーくんの驚天動地の期待には応えてやるっしょ」

 思わず嘆息するガリーからアールビーは細剣を奪い取ってキョウコウへと向かっていく。

「油断した……死のう」

 ガリーが呟く頃にはアールビーが疾風の一突き。

「ホイ、ホイ、ホーイっしょ!」

 キョウコウは油断していなかったわけではなかったがその動きに警戒を強めた。

 ガリーの突きよりも鋭く、払いも速い。

 剣投士は【剣投】できることから棒ではなく剣に適性があるのが、それでも妙に慣れた動きだ。

「あんた、本当についてるっしょ!」

 攻撃の手を緩めずアールビーはキョウコウに話しかける。

「随分と余裕ですね」

 ガリーの時より余裕がなくなった表情で攻撃を交わし、時にはいなして問いかけた。

「皆まで言うな」

「言ってませんが……」

「オイラ様の扱う武器は細剣なんっしょ」

 それは幸運としか言いようがなかった。

 ガリーが細剣の処理をどうしようかと思うなか、突如現れたのが細剣を扱う剣投士だったのだから。

 性格はちょっとおかしいかもしれないが、これでガリーも動ける。

 またここでは死ねない。

 場が動き自分が少し有利になったことでガリーは再度、落胆。ここでもまた〈悪運〉はつきない。

 自分の武器、超短槍〔短足オヂサン〕を取り出す。

 しっくりと来た。やっぱりこうでなければ。ガリーが自分とベストマッチした武器を取り出して、アールビーに追い詰められつつあるキョウコウへと向かっていく。

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