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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
415/874

爆打

16


「おメェーたちはレシュリーという方を存じていますかメ?」

 南の島こと一発逆転の島にて、そう問われた冒険者たちは唖然とした。

 知ってるも何も、知らないほうがおかしい。

 「知ってます」

 その場に居合わせたムジカ・メレルが代表で答える。

 ネイレス、ムジカ、メレイナ、セリージュの四人はレシュリーと別れたあと、一度遊牧民の村に戻り、すぐに南の島にきていた。遊牧民の村にはモッコスとモココル、ヴァンたちが残っている。

 セリージュはランク6だが、レシュリーたちについていくことはせず、あくまでもネイレスたちについてきていた。セリージュ自身もランク6ではあるが戦闘経験においてはまだ未熟でネイレスに劣っていると自覚していた。才覚もないセリージュがそのままランク7になれるとは思えず、仮になれたとしてもどことなく便乗した感じがある。それがイヤだったセリージュも南の島に来ているという経緯がある。

 ちなみにレシュリーの弟子デデビビたちとは離れ離れになったが、島内にはいるらしく、的狩の塔に参加登録をしているようだった。

 閑話休題、そんな感じで南の島を訪れたムジカはメレイナと手分けして晩御飯の食材を探していた。

 先の質問はそんな矢先のこと。

 質問に善意から知っていると答えたムジカに、外套で姿を隠した男はこう言葉を投げ返した。

 「じゃあおメェーをまずは殺すメェ」

 外套を勢い良く脱ぎ去り、男は正体を現す。

 執事の服装でもある燕尾服を着こなした男は礼儀正しく一礼して、【収納】。

 手早く細剣〔命名するメイメイ〕を前に突き出す。

 掲げた左手には「何が出るかな?」と言わんばかりの巨大賽子〔玄葉のゴッキー〕を掲げている。

 羊毛がまるで髪と髭代わりと言わんばかりに顔の周囲を覆い、人間の耳が定位置にあるにも関わらず頭上には羊の耳と渦巻く角が生えていた。

 羊の執事。簡単に言えばそんな感じだろうか。

 ムジカがたじろぎながらも殺人宣言されたがために【収納】で石榴石の蛇黒樹杖〔這い蹲るナガラジャ〕を取り出した。

 ズシャン。

 構えた途端、その男が超高速の突きを繰り出していた。

 食らえば喉元を突き刺していたに違いなかったが、ムジカは幸運にも武器を取り出したことで、杖が盾代わりとなってすんで細剣が止まった。

「これはこれは運がいい方ですメェ」

 〈幸運〉持ちのムジカはそれなりに有名なはずだが、目の前の男――キョウコウ(羊星)にとっては有メェではなく無メェだった。

「けどオレのほうがおメェーよりも運はいいのですメ」

 そう言ってキョウコウは左手で掲げた巨大賽子〔玄葉のゴッキー〕を投げる。

 その巨大賽子は六面ではなく六十面というふざけた面数を持つ。

「さて、どんなメェが出ますかメ? それでオレの運メェーとおメェーのメェー運が決まりますメ」

 転がる賽子を見つめながらキョウコウは告げた。

 賽子を使用した時点で薄々ムジカはキョウコウが逆転士なのだろうと推測した。

 つまり今やっていることはかつてイロスエーサがやっていた【良回廻悪(ダイスロール)】だ。

 ムジカが推測するさなか、巨大賽子が止まる。目は「44」。

 【良回廻悪(ダイスロール)】はゾロ目だと効果が強く、中でも四のゾロ目は一番上昇効果が高い。

 たまたまだ、と思いたかった。

 ムジカの〈幸運〉が作用すれば敵対する逆転士の出目は最低の効果、つまり最大限の能力低下をもたらすはずだった。

 けれど、キョウコウが器用に細剣で巨大賽子を持ち上げ、転がす。

 次の目も「44」。

 その時にはムジカは詠唱を始めていた。

 イロスエーサに【良回廻悪(ダイスロール)】の簡単な阻止の仕方を教えてもらっていた。

良回廻悪(ダイスロール)】は三つの賽子の出目で効果を発揮する。

 イロスエーサは賽子群を使って一気に三つの賽子を振るが、キョウコウは大きいがゆえに、ひとつの賽子を三回振っている。となれば素子は簡単だ。

 三回目の出目を出させなければいい。

 一回目の賽子を投げてから一分以内に三回目の賽子を投げなければ効果は無効。

 もう一度使用し直さなければならないうえに、連続使用は技能特性として禁止されている。

 つまり残り数十秒、妨害すれば効果は発揮しない。

 だが、詠唱し始めて数秒も経たないうちに三回目の投擲は行われ、出目が表示された。

 魔法詠唱などというこれから攻撃すると言っているような、不意打ちでもなんでもない攻撃で阻止しようとしたのがそもそもの間違い。

 出目はムジカにとって最悪の「44」。

 不運にも「444444」とかなり四合せな――幸せな結果がキョウコウにもたらされる。

 大満足な結果に身を振るわせ、キョウコウは叫ぶ。

「これが十二支悪星がひとり大逆転師キョウコウの運の良さなのですメェ!」

 ムジカはその自己陶酔のひどい、自己紹介のような叫びで過ちに気づく。

 ムジカの対峙しているキョウコウは逆転士ではなく、その上級職の大逆転師――すなわちランク7だった。

 そして不運にも自分の〈幸運〉は働かず、不運にもネイレスもセリージュもメレイナもいない。

 そんな状況でムジカは目の前の敵――ランク7の大逆転師キョウコウと対峙しなければならない。

 しかも相手は幸運にも能力上昇効果まで得ている。

 逃げ切れるとは思えない、けれど勝てるとも思えない。

 自分に降りかかった死の雰囲気にムジカは思わず唇を噛み締めた。

 一方でキョウコウは幸せな結果に満足したのか大ぴらに手を上げて大音声を上げた。

「さあさあお立ち合いですメ! 今から始まりますのは、おメェーらの運メェーを決ェます、面白おかしい遊戯ですメ!」

 そうして手を叩くと、まるで割れたら増える固丸甘菓(ビスケット)のように巨大賽子が真っ二つに割れる。

 中からは基本的な一~六までの目が書かれた正方形の賽子が出現する。

 それも高さがキョウコウの膝あたりまであるので随分と大きい。

 賽子の面に目ではなく「お題」が書かれて、それについて語る貴族の遊戯があるらしいが、それに使われる賽子の大きさに近い。

「それでは遊戯を始メェますメ!」

 キョウコウがそう宣言するとキョウコウを中心とした半径10m程度の結界が出現した。

 それに気づいて何人かの冒険者が結界を破壊しようと躍起になる。

 外側と内側を遮る結界は半透明のため内外問わずそういう挙動をとる冒険者がいた。

「駄メェですメ。もうこの遊戯に組み込まれたのです。逃げらないですメ」

 無駄に破壊を目論む冒険者の徒労をからかうようにキョウコウは笑った。

「もうおメェ~らはオレの技能【丁半爆打(ノルカソルカ)】に囚われているんだメ」

 それは誰しもが聞いたことがない技能だった。知識などを持っている冒険者も中にはいるかもしれないが、実際に見たのは初めてだろう。

 それもそのはず逆転士はともかく大逆転師という上級職をここ数十年もの間目撃したことなどないのだから。

 【丁半爆打】は大逆転師のみが使える大逆転技能――俗に言われるギャンブル技能だからだ。

「さてさておメェーらは見事遊戯に打ち勝ち、ここから脱出できるんでしょうかメ?」

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