死戦
12
ディエゴはディレイソルとトワイライトと合流していた。
十二支悪星の情報を得るついでにふたりの位置情報や標的たる資質者の位置情報をきっちりと得ていた。
ディレイソルたちはもちろん移動するが、ディエゴはなんとなくこの辺だろという感覚で、ふたりと合流していた。
「で結局、彼らの何が分かったんだい?」
トワイライトが問う。ディレイソルはそわそわしていた。その理由は分かっているがディエゴはあえて後回しにして話を進める。
「そもそもシュウジョを含め十二支悪星は悪の秘密組織ジョーカーによって作られた」
「悪の秘密組織とは随分大仰な名前だな」
「改造組織でも可らしい。まあその組織の長がそう言っているだけで認知はされてないらしいが。ともかくその長ドゥドドゥ・ジョーカーが造り出した最強の十二人が十二支悪星と呼ばれている」
「先ほど倒したなら、もう十一人ではないのか。いや、そうか……最強の十二人か」
トワイライトが疑問を呈するも、すぐに気づく。
ディエゴは察しの良さににやりと笑い、「その通りだ。最強の十二人。だから補充が利く。[十本指]やお前たち[四肢]が死ねば、新たに選出されるような感じだ。十二支悪星はそんな呼称でしかない。俺が調べたときには既に新しい十二人目が存在していた」
「十二支悪星の目的はなんなんだ?」
「十二支悪星というよりジョーカーの目的はレシュリー・ライヴへの復讐らしい」
「まさかそれがショウジュの問いかけに繋がるのかい?」
――うぬはレシュリー・ライヴを知っておるか?
ショウジュの言葉がトワイライトの脳裏に浮かんだ。
「復讐として、ジョーカーはレシュリーを知るもの全員を殺すつもりかもしれないな」
「レシュリーといえば今の[十本指]の一本指なのだろう?」
「俺も途中で知ったが……みたいだなァ、オイ」
「途中とは……?」
「割かし因縁があるってことだよォ!」
説明は省いて簡潔に吐き捨てた。
何にしろディエゴが推測した通りレシュリー・ライヴを知るものを皆殺しにしようとするなら大変なことになる。
「じゃあ(?)、僕(?)の村の人たちが殺されたのはそのせいなんですか?」
「そのせいでもある。けどなァ、ショックかもしれないが村が滅んだ原因はお前にある」
「僕(?)にですか? どうしてですか?」
「お前自体が悪いわけじゃねェ。ただお前がずりぃほど優秀な才覚を持っているのに日の目に当たらなかったから選ばれたんだろう。最強の十二人の候補によォ」
最強の十二人、それはつい先ほど何を表した言葉かディレイソルにはすぐに見当がついた。
そしてその最強の十二人には補充が利く、とディエゴが言ったばかりだ。
「つまり、僕(?)は候補に選ばれていたってことですか?」
ディレイソルが恐る恐る言った。
「そうだ。悪の秘密組織ジョーカーの表の顔は復讐のための改造代行だ。そしてお前が村の人たちがレシュリーを知っていたせいで殺されたと知ったあと、その改造代行の存在を知ったらどうする?」
ディレイソルはそれが本来ならばずるいことだと知っていたからこそ、少し躊躇って、口を開いた。
「たぶん、改造してでもレシュリーさんを殺そうとします」
ショウジュとジョーカーの繋がりを知らなければ尚更、復讐のための改造に抵抗がなかったのかもしれない。
レシュリーを逆恨みして改造を受け、十二支悪星の候補にされていたのかもしれない。
けれどディエゴを偶然にも助け、行動をともにしていたディレイソルだけは、ジョーカーの計画から逃れた。
それでも村の仲間たちが死んでいるのだ。素直に運が良かった、とは喜べない。
複雑な心境で、ディレイソルはディエゴを見た。
「迷子の子猫のような顔すンじゃねぇぞ、オイ」
レベルこそ才覚の影響で高いものの実年齢からすればディエゴたちのほうが断然に上だ。
言葉を投げかけてディエゴはディレイソルの言葉を待った。
自ら問いかけるようなことはしない。
ディレイソルがどうしたいかを決めるのを待つ。
「ディエゴ(?)さん……僕(?)を手伝ってください(?)」
「オイオイ、こういうときですら疑問形かよ」
ディエゴは笑って「まァ、お前が手伝ってほしいなら手伝ってやるよ」
続けて同意する。
「けれどいいのか? 自分の目的は? 私のほうはまだ時間があるから幾分手伝えるが……」
「当然、後回しにはしたくはねェ。が、がだ、こっちを放っておけば大変なことになりそうな気がすンだよ」
それはディエゴの勘でしかなかったが、トワイライトもそんなふうに思っていた。
「ところで、ディレイソルが何も言わなかったらどうするつもりだったんだい?」
トワイライトが意地悪な質問を問いかける。
「はァ? 言うまでもねェ。勝手にするに決まってるだろォが!」
「ふっ。だろうね」
「分かってンなら聞くな、エロ騎士が」
「だ、だからそう呼ぶなっ!」
そのやりとりに今まで復讐のことを考え、緊張気味だったディレイソルは笑みを浮かべた。
***
十二支悪星はレシュリー・ライヴを探すべく行動を開始しなかった。
元からレシュリー・ライヴを探そうとはしていないからだ。
代わりに世界各地に散らばった十二支悪星は同じような質問を繰り出した。
「おみゃーらに質問があるでチュ。レシュリー・ライヴを知ってるでチュか?」
「きさんらはレシュリーを知ってやガルか?」
「ね、てめぇらはレシュリー・ライヴを知ってる? モー早く答えてよ」
「おメェーたちはレシュリーという方を存じていますかメ?」
「あだしが聞くのもなんですがピョン、レシュリーを知ってるかピョン?」
「ニョロロロロ、ヘビーな質問だけどユーはレシュリー知ってる~?」
「ちょっと聞いてくださるウッキー。レシュリー・ライヴって人、チミたち知ってなさる?」
「ちょっとお聞きしたいワン。あなたがたはレシュリーを知っているワン?」
「おでが聞くことに応えろブヒ。レシュリーを知ってるブヒか? 知っているブヒよな?」
「ひとつ質問ですケンど、そなたはレシュリーを知っておりますケン?」
「ソレらに聞くヒンが、レシュリーは知ってるヒンか。ウマい具合に答えろヒン?」
「ニャーんかさ、一応聞けって言われてるニャど、レシュリーって知ってるかニャー?」
その質問を投げかけられたのはレシュリーの知り合いだったり、一度共闘したことがある冒険者だったり、あるいは[一本指]であるということを知っているだけの冒険者でもない、ただの一般人だったりしたが、ほとんどの人が、知っている、とあるいは似たようなことを言って頷き、質問者の次の言葉を待った。
もちろん、少数だがその風貌を怪しんであえて知らないと答えた冒険者もいた。
けれど問いかけられた人間が知っていようが知らまいが、答えは一緒だった。
「じゃあ殺す」
十二支悪星それぞれ少し言葉尻は違うもの全員が同じ意味で答え、逃げ出す、或いは臨戦態勢を取った人々へと襲いかかった。
これがのちに歴史に刻まれる十二死戦の始まりだった。
一方――
ランク6になったものの弟子たちを失ったことでレシュリーたちは失意の底にいた。
十二死戦の始まる一日前。シュウジョも死んでいない時期のことだった。




