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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
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援軍


 4


「大丈夫か、小僧」

「ええ、なんとか……。少し無理をしました」

「そうじゃろうな。一般人と賢士にお主という編成ならばお主が無理する他、策はないじゃろう。もっともそれは愚策じゃが……」

「確かに逃げれば事済む問題でした」

「しかし戦えるものが戦わぬなら存在すら無意味だ」

「それには同意しますね」

 僕は鷹嘴鎚(ベク・ド・ファコン)を拾い、同意を促す。

「お前も孫と同意見のようじゃな。わしは逃げるつもりじゃったよ。わしは孫たちを食わすために長らく戦うのを止めていた。……だからこそ、今後も食わしていくためにわしは逃げるつもりだったが、孫に戦えるのに戦わないのは卑怯だと罵られたのじゃ」

「ブランクは大丈夫なんですか?」

 長い間戦ってなかったとしたら、体が言うことを聞かないだろう。

「リアンの知り合いということはアルを知っておるな?」

「ええ」

「わしはアルの師匠だ」

「なるほど……だとしたら、心配は不要ですね」

 なにせリンドブルムを吹き飛ばしたのだ。

 その腕前を見れば実力は老いてもなお僕以上だと理解できる。

「自分を下賤するな。投球士系複合職(スタンダード)は前衛に向いているわけではないのだ」

「確かにそうですけど……」

「それに先ほどの一撃はお主を攻撃しようと集中するリンドブルムの隙を突いた、不意打ちに過ぎぬ。真っ向から戦えばどうなるか分からんじゃろう」

 起き上がったリンドブルムを見て、その老人は呟いた。

「行くぞ、小僧!」

 その老人は狩猟用刀剣(ハンティングブレイド)を握り締め、独特の構えを取った。

「名も知らぬ相手とは戦いにくからろう。わしの名はバルバトス・ヘパイトスじゃ」

 アルと同じ構えのまま、老人――バルバトスさんはそう名乗る。

「ちなみにあれが孫のアクジロウ。リレリネの弟だ」

 蛇足としてそんなことを言ってきたけれど、アクジロウはむしろどうでもいい。

「僕は事情があって、情報隠蔽しています」

「マスク・ザ・ヒーローじゃろ?」

「分かるんですか?」

「それはわしが作った仮面じゃ。名づけたのはディオレスじゃが……」

「センス的にそう思いました」

「話はこれくらいにして、目の前に集中するのじゃ」

 リンドブルムは既に近づいてきていた。その歩きは鈍い。前後が違う足が走りにくいのだろうか。

「油断するな」

 リンドブルムは少しだけはばたき宙に浮くと、その飛行速度を活かして突撃してきた。

「力で無理矢理はあまり好きではないのじゃ」

 狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕を用いて繰り出したのは、かつてアルも使った【新月流(しんげつりゅう)居待(いまち)(さばき)】。衝撃を全て緩和し、リンドブルムごと軌道を上へと逸らす。逸らされたリンドブルムは身体を転じて口をバルバトスへと向ける。

 口腔に炎溜まり。【業炎吐息(ヴォルカンブレス)】だ。

「リアン!」

 僕よりも早くバルバトスが指示を飛ばす。

 頷くと同時にリアンが援護魔法階級5【減熱壁(フレイムダウン)】を発動。【耐熱壁(フレイムレジスト)】よりも強固に炎から身を守る魔法。

 どうやら僕とバルバトスが話している最中に詠唱していたらしい。用意周到だ。

 同時に僕も【断熱球(ウォーマー)】を連投。

 【断熱球(ウォーマー)】は中の熱を閉じ込める効果があるが、それは逆に外の空気を遮断する効果もある。つまり中の空気を外に逃がさず外の空気を入れないのだ。もっとも、本来は寒さを防止するための援護球のため、リンドブルムや魔法士系複合職(スタンダード)が操る炎を耐える力は持っていない。

 が【減熱壁(フレイムダウン)】の手助けぐらいにはなる。それが微々たるものでも積もば意味を持つ。

 僕の【断熱球(ウォーマー)】が援護した【減熱壁(フレイムダウン)】がリンドブルムの炎を完全に遮断。いける! 勢いのまま、僕は【戻自在球(フォーザー)】を【造型(メイキング)】。

「それが【戻自在球(フォーザー)】ですか。ほほぅ!」

 リンゼットが感嘆の声をあげる。

「状況を考えて! さっさと逃げろ!」

 その怒りもぶつけるように僕は【戻自在球(フォーザー)】を空中に佇むリンドブルムに【戻自在球(フォーザー)】を放つ。

 【戻自在球(フォーザー)】には【回転戻球(ヨーヨー)】と同様、僕の手元に戻るように糸がついているけれど、ギリギリで届いていた。

 当たる瞬間に【破裂球(ショッカー)】へと変化させる。

「なるほど、うまい使い方です」

 リンゼットの感嘆のさなか、リンドブルムの皮膚へと破砕した破片がわずかに突き刺さる。大した痛手には思えない。それでも腹を立てたのかリンドブルムが咆哮してこちらへと向かってくる。

 リンゼットに下がれと促したいけどリンドブルムの標的が僕へと変わり余所見すらできなくなる。

 しかもあろうことか咆哮によって体が震え上がり初動が遅れた。

 対してリンドブルムは僕へと近づいた途端、超高速で前回転。刃の尻尾がぐるりと回り、僕を両断しようとしていた。

「ふんぬぅおおおおおお!」

 その刃の尻尾を受け止めたのはオーグルと変貌を遂げた獣化士アクジロウが持つ波状剣〔擬音の使い手リレリネ〕。

 助けてくれたのは事実だけれどオーグルにはいい思い出がないのも事実。

 複雑な胸中も知らず、アクジロウは自信満々にこう言い放った。

「油断するなよ。波状剣(フランベルジュ)じゃ今みたくそう何度も助けれない。だいたい、俺はこの剣を折りたくないんだから」

「はは、だったら助けるなよ」

 冗談のように言ってみる。

「ふざけんな。見殺しにできるかよっ!」

「だろうね。僕もキミを見捨てることはできないと思う」

「分かっててそんなこと言うのかよ」

「でも剣を折りたくないなら戦うべきじゃない」

「戦わないと姉さんが許してくれないだろうよ。姉さんはこういう時に戦う人間だからな」

「リレリネさんか。少ししか覚えてないけど、そういう人っぽいね」

「姉さんを知っているのか」

「今はそういう場合じゃないだろ」

「それもそうか……」

 与太話を破棄し、僕たちは緩んだ警戒を再度引き締める。

 リンドブルムが尻尾を戻し、ゆっくりと地面に降り立つ。どうにもリンドブルムの攻撃は分かりにくい。

「初めて見る技能だが、使いやすそうじゃな」

「え、ああ……【戻自在球(フォーザー)】ですか」

「そうだ。攻撃後に援護にも転じれるのじゃろう? 前衛に向いているわけではないと言ったが、あれは訂正じゃ。前衛でも戦えるようじゃな」

「でも、まだ応用が効かない。それに僕の攻撃じゃ大して意味がない」

 悔しいが事実だった。リンドブルムにぶつけた【破裂球(ショッカー)】はかすり傷程度しか与えられず、しかも怒りを買った。

 このままじゃジリ貧だ。リンドブルムなんて倒せるのか? 僕の疑問を打ち払うように、笑い声が聞こえた。

「カッカッカ! オレを尋ねて三千里ってか、リンドブルムちゃん。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のこのオレが対峙&退治してやる。胎児の手を捻るようになぁ! 感謝して死ね!」

 廃屋の屋根に佇むそいつは、龍鱗鎧ドラゴンスケイルメイルに身を固め、高らかに宣言した。

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)、その言葉には当然ながら聞き覚えがあった。

 冒険者のなかにはその姿は知らなくても名前を知っているっていう冒険者は多い。

 [十本指ザ・ゴールデンフィンガー]の六本指(シックスサム)

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ソレイル・ソレイル。その人だった。

 肩まで伸びた青藍の長髪が火事の熱風によってたなびいていた。

「カッカッカ! 見た感じ、小型だな。だったら楽勝だ。準備運動にもなりゃしないぞ!」

 擬似刃屠竜剣〔竜を穿つギドンガッハ〕を抜刀する。擬似刃(フォールスエッジ)は刺突を容易にし、戦略の幅を広げるために作られたもので剣身の切先三分の一が両刃、残りである三分のニが片刃という特長がある。

 しかもその擬似刃(フォールスエッジ)屠竜剣(ドラゴンバスター)には【氷結(フリージング)】が宿っていた。

 ソレイルは双重剣士と呼ばれる魔充剣でなくとも魔法を武器に宿すことが可能な複合職(スタンダード)だった。宿せる魔法が攻撃魔法階級2までに限られるが、擬似刃剣(フォールスエッジ)突剣(レイピア)S字型刀(カッツバルケル)波状剣(フランベルジュ)など様々な種類の刀剣を選択できる利点がある。

 擬似刃(フォールスエッジ)屠竜剣(ドラゴンバスター)に魔法を宿したソレイルは廃屋から飛び降りる。リンドブルムは雄叫び代わりに、空へと炎を吐き出した。

「カッカッカ! 最後の挨拶は終わったか。なら感謝して死ね!」

 一瞬だった。僕がまばたきをした瞬間ソレイルはリンドブルムの口に擬似刃屠竜剣〔竜を穿つギドンガッハ〕を突き刺していた。

「冷たいのは苦手だろう」

 リンドブルムの顎を貫通した氷の刃が顎から口へと徐々に冷気をもたらし凍らせていく。

 地面へと着地したソレイルを顔が凍ったリンドブルムの瞳が睨みつける。苛立たしさをぶつけるように刃の尻尾が強襲。

「効かないぞ」

 ソレイルが剣を一振り。一瞬にして尻尾が切れる。ソレイルは瞬時に攻撃魔法階級2【追風(フォロー)】を刀身に宿らせ、刀の本来の鋭さと風の鋭さで、その尻尾を切断したのだ。

「感謝しろ! これで報酬も倍増だ」

 ソレイルなりの冗談が聞こえた。

 龍鱗鎧ドラゴンスケイルメイルの後ろが翼のように開き、炎が噴射。その推進力でソレイルが飛翔。ソレイルの龍鱗鎧ドラゴンスケイルメイルは特注品のようだった。

 「これで死ねよ!」

 凍った頭を、切り裂いた。何の魔法も宿さず。落下の勢いと己の力だけで。

 ただそれだけで頭は破壊され、リンドブルムは生命活動を停止した。

「準備運動にもなりゃしないぞ」

 こんなのは敵じゃない、まさにそういう表情をしていた。

 竜に対してのソレイルは、ディオレスよりも強く感じられた。

 これで終わったと安堵したのも束の間、僕たちは空飛ぶドラゴンを見て、絶望する。まだ終わってなかった。

 ソレイルも見上げて気づき、舌打ち。

「カッカッカ! なるほどリンドブルムが空へ炎を吐いたのは、オレがここにいるという合図。つまりアイツはテメーらの斥候だったわけか……」

 三匹の、しかも先程よりも大きなリンドブルムがユグドラ・シィルへと降り立つ。さらに、遅れて一匹、見たこともないドラゴンがその中央に降り立った。

「しかもアジ・ダハーカ(擬態龍)がおまけでついてくるとかな、そんなサービスいらないぞ! 情報ジャンキー!」

 ソレイルは誰かに伝わるように叫んだ。

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