様変
7
「どういうこと(?)ですか、これ?」
村は様変わりしていた。
壁に叩きつけられたかのようにべったりと残る血痕。
その近くには村人が横たわっていた。
急いで駆け寄って揺する、が返事はない。
「ニコルソン……」
息絶えた彼の名を呼んで嘆く。
狩場の魔物大量発生を教えてくれた男こそニコルソンだった。
少し離れた広場には噴水に浮かぶ水死体があった。
「……ニッチョビチャビコ」
ディレイソルがその水死体の生前の名前を呼んだ。
かつて足を怪我をして冒険者を辞めた彼女はこの村一番の料理人だった。
傍には得意料理のマグマ鍋が落ちていた。まだ冷めてはおらず、この惨劇がつい先ほど行われたことを物語っていた。
ディレイソルは村を駆け回る。
ディエゴたちはそんなディレイソルを制止することなく、外で殺された者たちの死体を集めていた。
どちらにせよ、埋葬する必要があった。
村は静かに死んでいた。
村長のピギロベ・ゴーレジーは老人ながらもランク5の元冒険者で知識も豊富だった。
そんなピギロベが胴体を叩き割るように切断され、絶命していた。
ディレイソルにとってはピギロベはまるで自分の祖父のような存在だった。
ディレイソルを時には諭し時には導き、良き青年に、強き冒険者になるように道を示してくれていた。
「うわああああああああああああああああああ!!」
その凄惨な死にざまにディレイソルは啼いた。
「大丈夫か?」
悲鳴を聞きつけ、トワイライトが顔を見せる。
「これはひどいな……」
ピギロベの死に体を見て、トワイライトは思わず顔を伏せた。
「尊敬できる村長でした」
ディレイソルはそれだけ呟いた。はっきりと。いつもは疑問形になるのに、今回ばかりは断言していた。
「嘆くのは終わったかぁ?」
粗方、村中の死体を集め終えたディエゴもピギロベの家へと姿を現した。
「ディエゴ(?)さん、これは……どういうことなんでしょうか?」
「あのショウジュとかいう改造野郎、まるで空から落ちてきたように見えたがよぉ……真下に落ちてきたようには思えねぇ」
ディエゴはディレイソルの疑問を氷解させるかのようにゆっくりと推測を話していく。
「真下に落ちたのだとしたら飛空艇から飛び降りたって説が濃厚だがよぉ、そんなものは空にはなかった。そうだよな?」
ディレイソルはうんうんと首を大きく縦に振った。
空は快晴。雲ひとつなかったわけではないがどれも小さく、飛空艇を隠せるような大きさはない。
「ということは改造か何かで空を飛べて、俺たちを見つけたから空で急激に弧を描いて真下に降りた、と考えンのが筋だ。となると奴が向いていた方向が大きなヒントになる」
「向きというと降りてきてすぐ振り返りもせず、僕たちと対面しましたよね?」
「となると俺たちが向いていた先からやってきたということだ。そこには何がある?」
「何って……?」
ディレイソルは考え込む。自分が正面を向いていた位置。そこをずっと歩いていくと何があるのか。
そうして思い当たると青ざめた。
「ここだ……。この村があります」
「そうだぁ。十中八九、あの改造野郎がこの村をこんな目に遭わせたんだろうな」
「でも何のために?」
「知るか。俺が知るわけがねぇ。だがよぉ、ちょうどいい」
「ちょうど(?)いい?」
「俺はこれからしばらくこの世界から消える」
その意味が理解できるのはこの場ではトワイライトだけだ。つまるところエンドコンテンツに行くと言っていた。
「そのついでに調べてきてやる。一宿一飯の恩義ってやつだ」
当然ながら一宿一飯どころか幾宿幾飯を頂いているのだがこんな状況では誰も突っ込んだりはしなかった。
トワイライトも反対はしない。もとよりエンドコンテンツに戻れと言ったのはトワイライト自身だ。
それにエンドコンテンツに向かえばある程度あらゆる情報が手に入る。
十二支悪星というキーワードはショウジュから聞いていた。
それを使えばその組織の情報は手に入る。そうすればディレイソルの村を襲った理由も推測できるとディエゴは睨んでいた。
「じゃあ、俺は行くが……ディレイソル、情報を自分で仕入れることを俺は止めない。てめぇの権利だ。だがよぉ、俺が戻るまで無理はすンな」
「分かって(?)います」
疑問混じりの言葉にディエゴは肩をすくめた。
無理をすることを分かっていて気休め程度に告げたのだ。それに無理をしようがしまいがディエゴはディレイソルを止めない。
「私が見張っておこう。まだ鬼の復活まで時間はありそうだ」
トワイライトがディエゴへと耳打ちする。




