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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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変呪

6


「知らねぇンなら別にいい」

 ディエゴは教える気なんてなかった。

 一度は寸止めした杖を今度は寸でで止めない。

 シュウジョも髭で防御するが、それすらも突き破る。

 【直襲撃々】ではない。さらに高威力の技能。

 【撃襲墜撃(シュート・ダウン)】。

 【直襲撃々】が丸みを帯びた闘気を纏っているとするのならば【撃襲墜撃】は尖った闘気を纏っている。

 突破力が【直襲撃々】よりも増したと言うべきだろうか。

 バン、と鈍い音ともに【撃襲墜撃】がまるで鎖帷子のような髭の防御を突き破って、シュウジョの顔へ直撃。

 【防壁】も何もないシュウジョの顔が弾け飛んだ。

 それほどまでの高威力。

「キミは手加減というものを知らないのかい」

 ディエゴの行動を咎めるようにトワイライトが呟いて。

「手加減したら、こいつは怒りやがったぞ」

 シュウジョの首なし死体を指してディエゴは告げる。

 そんなやりとりのさなか、

「ご迷惑(?)をおかけしました」

 拘束が解かれたディレイソルはトワイライトに謝るがなぜか鼻血が出た。途端に目をそらす。

 理由は明白。今のトワイライトの姿はディレイソルには少しばかり刺激が強すぎた。

過激な垂幕羅紗服フォーリングバンドカートル、つまり露出過多なメイド服から一転、今度は肌の露出の激しいV字型水着(スリングショット)へと姿を変えていた。

 鼻血と突然の目逸らしで、服に変化があったことを悟ったトワイライトも自らの姿を確認して

「~~~~っ」

 声にもならない悲鳴をあげて、しゃがみ込む。

「くっ……今まで一番ひどい格好だ」

 赤面して自分の呪いを恨んだ。

「面倒臭ぇ呪いだな。なのにさっさと解こうとしないなんて、結局受け入れてるんだろ」

 トワイライトの姿を見ても、身内のようなものなのでなんとも思わないディエゴはトワイライトの矛盾を指摘するように皮肉る。

「違っ……何とでも言え。確かに呪いはとっとと解きたいが、さっきも言ったように……」

「はいはい、分かってンだよ。非道なことはできねぇンだろ」

 呆れたようにディエゴは言って【収納】から隼の外套をトワイライトに渡す。

「いいのか?」

 そう問いかけてトワイライトは隼の外套に手を伸ばそうとしない。

 呪いの効果で変化した服の上から外套などを羽織った場合、次の変化でその防具は消失する。

 家のタンスから拝借した布の服だろうが、鍛冶屋が考えたさいきょうのよろいだろうが例外はなかった。

 そういう意味も含んでいるトワイライトの疑問だったが、ディエゴは今更だろと再度呆れた。

「いいも何もそうしないとさすがにディレイソルが困るだろ。村まで帰れない。そんな姿でいるつもりなンかよ?」

 しゃがみ込んだせいで逆に水着が見えなくなり、あたかも着ていないかのようにも見えてしまうのだ。

 それに気づいたディレイソルは目のやり場がない。

 だから赤面するディレイソルに代わってディエゴが赤面するトワイライトに指摘したのだ。

「貸せ!」

 大急ぎでトワイライトはディエゴから隼の外套を奪い取り、羽織る。

 とりあえず次の変化まではこれでやり過ごすしかない。

「ンじゃあ、帰るか。いいリハビリにはなったが、全快にはまだほど遠い」

 ディレイソルもようやく安心して歩き出す。鼻血は止まっていた。

「エンドコンテンツはどうするつもりだ?」

「そりゃあまあ一度帰る。俺の標的にはまだ動きはなさそうだし。俺のほうがまだまだ強い」

 余裕を見せつけるように宣言したあと、

「でお前はどうするつもりだよ?」

「どうもこうも鬼が復活するまではその近くで野宿かな?」

 服装の呪いの影響があるのでトワイライトは宿屋に泊まりにくい。

 完全に誤解だが健全を売りにしている宿屋には拒否されるのが常だ。

 その度に傷つくなら、人気の少ない場所で野宿するほうがトワイライトにとっては気が休まるのだった。

「変な噂されないようにな」

「過去をほじくり返すな」

 トワイライトが殺気を込めて睨み返す。

 その素振りから実際にあったことらしい、とディレイソルは察したが、聞き返すのはやめておいた。

「護衛なんていらないかもしれないが、村までは見送っていく」

「そりゃあ頼もしい」

 ディエゴが楽しげに喉を鳴らした。

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