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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(後) 渇き餓える世界
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上限

2


 サイコ狩場。

 正式名称、ガーデッド旧火山:サイコ狩場はエクス狩場などと同様、魔物が大量に発生する狩場だ。

 もちろん、狩場といっても一方的なモンスター狩りができるわけもなく、見合った実力がなければ難しいのは言うまでもない。

 難易度的にはエクス狩場と比べるまでもなく高い。というよりも発見されている狩場の中では二番目の難しさを誇る。

 ガーデッド旧火山の山頂には世界の耳:カルデラ湖が存在し、そこにはα時代になって以降、いまだ誰も立ち入ったことのないランク8になるための試練、悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリが存在していた。

 そう考えればこの地域の魔物の強さが窺える。

 それでもディエゴは難なくマグママン(溶岩泥魔人)を一瞬で凍りつかせた。

 活火山だった頃の名残に大いに影響を持っているため、この地域の魔物は氷や水に弱い。

 そういった属性の魔法が得意な冒険者には格好の狩場ともいえる。

 もちろん、満遍なく全てが超人の域のディエゴにはそれは当てはまる。

「おらぁ!」

 攻撃魔法階級1【氷結】が超高速で連続発射され、魔物が生まれ出た瞬間から倒されるという、見るものが不可思議としか思えない現象が起きていた。

「さすがに早いですよ、ディエゴ(?)さん」

 疑問ながらに告げたディレイソルは自分より先に狩場にたどり着いたディエゴに呆れ、さらに大量発生した魔物の四分の一を瞬時に殺した圧倒的強さに

感嘆した。

「とっとと手伝いやがれ、このランク1」

 ディエゴは呆れながら言った。

 狩場としては二番目の難しさを誇るこのサイコ狩場で何度も狩りを成功させているディレイソルはランク1だった。

 ディエゴが感じた不思議な強さ、そして告げた異質な才覚がディレイソルをランク1でありながら、この高難易度とも呼べる狩場で生還に導いていた。

「分かりました。けど(?)無理はしませんからね」

「どの口が言ってやがる」

 その強さの秘密を知ったディエゴは自分の才覚を棚に上げてずるいと思ってしまったほどだ。

 だから無理はしないというのはただディレイソル自身の自身の無さから言っているだけであって、才覚のおかげで得た強さに関しては申し分ないのだ。

「【鎧通】!」

 ディレイソルは長剣〔揺蕩うエーゲ〕で出現したロックゴーレム(鉱石傀儡)を短く突いた。

 剣技技能の発動によって闘気が長剣に纏われ、宣言した通り【鎧通】を発動させる。

 ロックゴーレムがそれを見越して腕で防御するが、腕に当たった途端、まるでそこに何もなかったかのように腕が消滅した。

「ひゅう♪」

 ディエゴがそれを見て口笛を吹いた。

「からかわないでください(?)」

 少しばかり照れて、ディレイソルが追撃の一撃、胸に【鎧通】を的中させると今度はロックゴーレムの胴体が弾け飛んだ。

【鎧通】は敵のついた部位を脆くする、つまり防御力低下の追加効果があるが、ディレイソルの【鎧通】は異なっているようにも思える。

 しかしそれは同質のものだった。けれど熟練度が極限に高い。

「さすがだなぁ」

「僕にはこれ(?)しかありませんからね」

 何気なく言ったディレイソルだが、その言葉は真実以外の何物でもなく、そしてそれは通常ならば考えられない。

 ディレイソルというランク1の冒険者は冒険を始めてからこれまで【鎧通】しか使ったことがないのだ。

 それを聞いたときディエゴに怖気が走った。ディエゴも階級1の魔法の熟練度は相当なものだが、その中でも【弱火】が一番高く【氷結】が一番低いなど差があり、何種類も使い分けているため技能ひとつひとつの熟練度は上がりにくい。

 けれどそれが普通のことだ。多種多様の敵に多種多様な戦術で戦うには多種多様な技が必須なのだから。

 しかしそれは裏を返せばディレイソルはそんな多種多様な技が必要なかったということでもある。

 当然、熟練度だけではロックゴーレムの強靭な胴体を一撃で破壊することなどできず、ディレイソルにはまだ秘密があった。

「あ、またレベルアップ(?)したみたいです」

 個人がレベルアップしたかしてないかは感覚でわかる。【分析】を使えば数値化できるので不安に思うのならば誰かに使ってもらえばレベルアップしたかどうかは確認できる。それでもレベルが上がればあがるほどレベルアップに必要な量は変わってくる。何より経験値にはランクが影響している。

 ランクが高ければ高いほどレベルアップに必要な経験値は高くなる。そしてランクごとにレベル上限があり、ランク1ならレベル105が上限で、それ以上のレベルにはランク2にあがるまであがることはない。

 それを踏まえて、ランク1の冒険者ディレイソルは言った。

「これでレベル1500(?)です。なんて限のいい数字だ」

「うらやましい才覚だなあ、おい」

 ディエゴは言った。ランク7のディエゴのレベルは1225。ランク7の上限レベルでランクを上げなければこれ以上のレベルアップは見込めない。 

 対してディレイソルはランク1にも関わらずレベル1500。

 それこそがディレイソルが今このサイコ狩場で戦えている秘密。

 異質な才覚によるものだった。

「それでもディエゴ(?)さんのほうが強いじゃあないですか」

「今はな。けれどレベルを上がるところまで上げてランクを得ればお前は俺よりずば抜けて強くなる」

 ディエゴはそう断言した。

「僕の〈上限突破(ランクブレイカー)〉はそんな良い(?)ものには見えませんけどね」

 自信たっぷりのディエゴに対してディレイソルは疑問を呈する。

 才覚があることには感謝はしているがそれでも良いものかどうかディレイソルは断言できない。

「まあ、良いものではないな。大陸で効率を求めるならランク1で居続けなければならない」

 ディエゴはあっさりと否定した。

「お前の〈上限突破〉はランクごとに定められている上限を無視してレベルを上げられる。ずっりぃ才覚だ」

 つまりランク1のレベル9とランク2のレベル9とではレベル10になるために必要な経験値が違い、ディレイソルはランクを維持していれば延々にランク1基準の経験値でレベルを上げれることが可能なのだ。

 ランク1でレベル1000になるのとランク7でレベル1000になるには理屈上大きな開きが出る。

 理屈上とあえてつけたのはランクごとに上限があるからで、ランク1でレベル1000になることはまずありえない。

 まず、が付くのはその例外がディエゴの目の前にいるディレイソルだった。

 ディレイソルは〈上限突破〉のおかげで理屈を吹き飛ばして、ランク7でレベル1000になるために必要な経験値を下回る経験値でレベル1000へと到達し、そして今日、レベル1500になったのだった。

 とはいえ、そんな才覚をディエゴは良いものではないと否定した。

 理由は先に告げた通りだ。ランクを上げれば経験値が増える。ランク2になればランク2基準の経験値が必要になり、ランク3になればランク3基準の経験値が必要になる。

 レベルアップで増える能力値はランクの影響を大いに受けるため、ディレイソルはその恩恵を得られずにいるのだ。

 ランクの影響を受けようと思えばレベル上げの効率を犠牲にする必要があった。

 そんなデメリットがあっても、ディレイソルは才覚持ちのレベル1500。

 高ランク冒険者と渡り合うのが難しいかもしれないが、低ランクの冒険者なら圧倒的に凌駕する。

 ディレイソルはそんな異質な冒険者だった。

 レベル1500の冒険者が繰り出す、冒険を始めてから使い続けてきた唯一の技能【鎧通】。

 技能としては平凡そのものだが、レベル上げのために数万回繰り返された戦闘で熟練されたその技能はレベル1500の力を以ってして

 狩場に溢れた決して弱くない魔物たちを屠っていく。

 弱いはずがない。弱いはずがなかった。

 ランク7のディエゴとレベル1500のディレイソルの戦いは暴風そのものだった。

 荒地に変えんばかりの勢いで、狩場に溢れた魔物が死んでいく。

 死屍累々だった。

「これで終わりだぁ」

 最後の一匹を奪い合うディエゴが【弱火】を放つ。自身の身体に炎をたぎらせているフレイムドッグ(炎犬童)に大して挑発にも似た行動を取り、一瞬にして消滅させる。

「リハビリとしてはぬるすぎるだろォ」

 肩をこりこりと動かして、動き足りないとディエゴは主張する。

「ははは」

 ディレイソルは笑うしかない。


 そのさなか、それは現れた。


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