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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
40/873

竜族


 3


 ドラゴンと僕たちは単に呼ぶが、それはドラゴン()という名称の場合と、種族を表す場合がある。ドラゴン族、竜族、龍族、呼び方はなんだっていい。呼び方が複数あるのは方言のようなものだ。ただ地方によって呼び方が違うだけ。誰かがドラゴンが襲ってきたと言ったときはどんなドラゴンか分からないが、ともかくドラゴン族が襲ってきたという意味になる。

 前者の名称を指す場合は“原点回帰の島のドラゴン”だったり、“ガーデット旧火山のドラゴン”だったり、大抵はその地域に一匹しかいないので地名を語頭につけたりする。

 僕と対峙しているドラゴンは後者。種族で呼んだだけにすぎなかった。

 誰かがドラゴンから逃げ出したのを確認。それを最後に人気はなくなっている。僕とリアン、冒険者でもないのになぜか逃げないリンゼットだけがドラゴンと向き合っていた。

 翼のあるドラゴン。

 そのドラゴンにはそういう意味があるといわれていた。しかもそれすらドラゴン族のなかに複数ある種族の総称でしかない。

 紋章にも刻まれるその名前は“敵に対する容赦のなさ”を表し、それを体現するような屈強な体躯を見て僕は思わず震え上がる。

 ワームとは格が違う。鋭く尖った鰐のような口は鳥の嘴のように長く、そこから鋭い牙が垣間見える。鷲のような前足と肉食獣のような後ろ足を持っていて、背中には蝙蝠の羽によく似た大きな翼。全身は蜥蜴のように鱗に覆われているが背中にだけはまるで草原のように毛が生えていた。

 お尻には蜥蜴のような尻尾が生え、その先端は矢じりのように三角に尖っている。刃が尻尾についている感じだろうか。誰にも目撃されることなく、ユグドラ・シィルへと侵入し、劫火で街を燃やし尽くしたことからも分かるように飛行速度は凄まじい。稲光や流星はこのドラゴンの飛行時の残滓だという考えもあるそうだ。

 リンドブルム(有翼竜)。それがそのドラゴンの名だった。

 リンドブルムが僕と同じ黒い瞳で睨みつけ、直後、嘴のような鰐口から炎が見えた。

 恐怖に思わず震え上がる。それでも僕は震える拳を握り締め、走り出す。リアンの祝詞が耳に届いた。

 鷹嘴鎚(ベク・ド・ファコン)を握り締め、跳躍。

 リンドブルムの口を完全に開き、【業炎吐息(ヴォルカンブレス)】が僕たちへと襲いかかる。

 寸でで僕が鷹嘴鎚(ベク・ド・ファコン)で口を上から叩くが……突き刺さらない。なんて硬さだ。

 力任せに口が開き、灼熱の炎が吐き出される。

 僕へと届く前にリアンが援護魔法階級2【耐熱壁(フレイムレジスト)】を展開。【業炎吐息(ヴォルカンブレス)】と【耐熱壁(フレイムレジスト)】が衝突。攻撃階級4相当の【業炎吐息(ヴォルカンブレス)】を完全には無効化できるわけがない。服に残ったわずかな炎を手で払う。リンドブルムは炎を吐き終えてなお悠然とした姿で立ち尽くす。

 アリーやコジロウがいない不安から、勝てないという言葉が脳裏を過ぎり、判断を誤る。

 リンドブルムの前足が、僕へと迫るのに僕は気づいていなかった。

「ヒーローさん」

 少し後ろで構えるリアンの声でそれに気づいたころにはもう遅い。払われた前足が僕の左から強襲。急いで鷹嘴鎚(ベク・ド・ファコン)で防ごうとしたが、それすら間に合わない。僕は吹き飛び、廃屋へと直撃。

 左腕が折れたのを痛みで理解する。同時に宙ぶらりんな左腕を見てリアンも折れたのだと理解しているはずだ。癒術によってくっついた腕はことあるごとの戦闘で折れている気がする。それは僕が未熟すぎるゆえか。

 それでもその程度で済んだのはリアンが展開した癒術【緩和膜(クッション)】のおかげだ。

 ゆっくりと立ち上がり、状況を確認。

 僕を心配するあまりリアンは今の状況に気づけていない。リンゼットは論外だ。構えも取らず、唖然とリンドブルムを見つめている。

 僕は走り出しリンゼットを押し出すと、さらにはリアンへと体当たりした。リンゼットへ向かっていた前足は空を切り、リアンへと向かっていた刃の尻尾は、折れた左腕へと突き刺さる。

 唖然とするふたりはその状況を見てようやく助けられたと理解。

 リアンが僕にお礼を言うよりも早く、リンドブルムは突き刺した尻尾を抜き、高く振り上げると僕の肩へと振り降ろす。

 避ける動作も取れぬまま、左肩が抉られる。痛みで倒れる僕をリンドブルムは掴み、飛翔。

 冗談じゃない!

 凄まじい飛行速度で、リンドブルムは上昇。僕を掴んでいた前足を離す。僕は落下。

 くそっ! このままじゃ確実に死ぬ。全身に受ける風が僕の思考能力を奪い、恐怖を増幅させる。冷静になれ! 冷静になれよ! 地面が見えてくる。

 同時にリンドブルムが僕めがけて突撃してくるのが見えた。自分の飛行速度と、僕の落下速度を計算して、そのぐらいで殺せると判断したのだろうか、だとしたらなんて思考能力だ。地面に激突する直前、僕はリアンの口が動いているのが見えた。

 リアンが僕を助けようと動いてくれているのを見て、僕も【蜘蛛巣球(コクーナー)】を右手で【造型(メイキング)】。近くの木々めがけて展開。それを何度も繰り返し、巨大な蜘蛛の巣を作り上げていく。

 試しに左手でも作ってみるが折れた左腕では握ることは叶わず、作ったとしてもすぐに落下してしまう。

 同時にリアンの【緩和膜(クッション)】が展開していた。蜘蛛の巣の弾力と【緩和膜(クッション)】の弾力が合わさり、速度を緩和。地面への衝突を防ぐ。【緩和膜(クッション)】が蜘蛛の巣の上に展開したおかげで、絡まずに済む。

 それも束の間、リンドブルムが突撃してくる。

 鷹嘴鎚(ベク・ド・ファコン)で防ごうとも考えたが、掴まれた際に落としていることに気がついた。

 僕は身をよじり、なんとかして回避しようと企む。回避できる可能性が低いことは理解している。

 まるでそれを愚かと罵るようにリンドブルムは僕へと衝突――

 間際、それを救ったのは見知らぬ老人だった。

 老人の放った一閃がリンドブルムの巨体を容易く吹き飛ばす。

「助けに来たぞ! リアン」

 リアンに声をかける男はどこかで見たような気がするが、覚えてない。

「アクジロウくん、なんでここに?」

「この俺が何もしないで、リアンを殺しちまったらアルに殴られる。怖ぇけどさ、やるっきゃないだろ」

 波状剣〔擬音の使い手リレリネ〕を握り締め、アクジロウはリアンの前に出る。

 リーゼントなどという目立つ髪型をしているのに僕は未だに誰だっけと思い出せずにいる。印象の薄い男だった。

 そんななかリンドブルムを吹き飛ばした老人が、僕の近くへと歩み寄ってくる。

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