悪星
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「どーうやらレシュリー・ライヴがこーこを嗅ぎつーけ、こーこを破壊しようとしてーいるらしーいですね」
ドゥドドゥドゥは嗤う。改造組織ジョーカーと繋がりのある集配員からの情報だった。
逃げることもできたが、必要な機材を全てまとめるには大掛かりすぎるし失うには惜しすぎる。
結局、逃げることはせず最大戦力をぶつけて撃退することに決めた。
「まったく、ディエンナも迷惑なこーとをしてくれまーした」
そのディエンナは意識を失い台座に横たわっていた。
失敗し逃亡したことでドゥドドゥドゥは制裁のように改造を行うことに決めた。
ディエンナに拒否権はない。こうなるだろうと分かっていたのに逃げ帰ってきて、しかも本拠地を集配員にばらしたのだからその罪は重い。
「でもまあ、好都合でーすよ。レシュリー・ライヴには少なからず恨みはあーりましたしね」
人は知らぬ間に恨みを買う。ドゥドドゥドゥはレシュリーと面識はないが、ドゥドドゥドゥの親戚はレシュリーに殺されている。
対峙した親戚の名前はヴェリナ。かつてマンティコアを大草原に送り込んだ原因を作った改造屋だった。
なのでその復讐も兼ねていた。復讐を表では扱っている組織が身内の復讐をしないというのもおかしな話だ。
今まではそのための戦力を蓄えていたが、それももう終わり。戦力は十分に揃っているうえに狙っていた獲物が向こうからやってきてくれるのだ。
絶好の機会、好機を逃すわけにはいかない。
「そーれでーはきゅーきょくの改造人間十二支悪星の起動でーす!」
ドゥドドゥドゥは壁に隠されていたスイッチを押す。スイッチを隠していたのは他の構成員にいたずらに押されないためだった。下手に押せば世界のバランスが簡単に狂う。
そんなスイッチをドゥドドゥドゥは何の躊躇いも抵抗もなくいとも容易く押した。
スイッチが入ったことを受けて本拠地から一定の数を持つ周波が全世界に発生した。
この周波は普通の冒険者には何ら害がないものだが十二支悪星と呼ばれる改造人間の手術を受けた冒険者が受信すると今までの人格を捨て、ドゥドドゥドゥが刷り込んだ別人――改造人間に変化するものだった。
「さあさ、集まーるのです!」
世界各地に散らばった十二人の究極の改造人間がやってくるのを、ドゥドドゥドゥは密かに待ち望んだ。
***
「大丈夫でごわすか? モモッカ」
冒険中、突然胸を切り裂かれて倒れたモモッカが目を覚ましたとき、眉毛が太くおかっぱ頭の男の両腕に抱かれている状態だった。
「キンさん……」
「ようやく目を覚ましたでありまする? お供の三人はどうしたでありまするか?」
キンさんと呼ばれた男の隣、後ろでざっくりと髪を纏めたひょろい男が問いかける。
「ウラさんも……どうして?」
「どうもこうもないでごわす。緊急事態であればおいどんとウラはどこにいても駆けつける」
「そうでありまするよ。でどうしてこうなったか、事情は分かるでありまするか?」
「……そうだ、お供の三人の様子が突然おかしくなって、収まったと思ってなんだろうって話しかけたらドッカーに斬られたんだよ」
「モモッカをドッカーが切り裂いたでありまするか? それが誠なら非常に、いや異常で奇怪」
「けれどそれではおいどんたちが思っていた状況と違うでごわす。ドッカーたちはてっきり殺されたものとばかり?」
「どういうこと?」
意味が分からずモモッカが今度は尋ねる。
「鬼門が開きかけているでごわす。つまりそれはつまり生きているだけで封印の役割をはたしている犬、猿、鳥の守護者が何らかの危機に瀕している。最悪殺されてしまったのではないかとおいどんたちは考えたのでごわす」
「開き方が徐々にではなくだいぶ一気に開いたでありまするからな。まだ鬼は解き放たれていないでありまするが時間の問題と言ったところでありまするな」
「でも鬼門って三人が生きてたら絶対に開かないんじゃ……死ぬ前に子孫に継承すれば封印も解かれないんだよね?」
「だからこそ謎でごわす。ドッカーはモモッカを切り裂いてどこかに消えたのであろう?」
「たぶん……。セフィロトに名前は?」
「まだ確認しておらぬでありまする。けれど話を聞く限り、三人は生きていて何らかの異変が起こっているということでありまするな」
「キンさん、ウラさん、手伝ってくれる?」
「合点承知でごわす。もちろん、クマモも一緒でごわす」
キンさんこと――坂田金時と一緒に後ろに控えていた熊型の魔物オニグマが意外にも可愛らしく手をあげる。
「言わずもがなでありまするな」
亀を象った釣具を釣らした釣竿を背負い、ウラさんことジョン・ウラシーマも頷く。
「傷は案外浅いでごわす。モモッカが反対しないのなら今からでも痕跡を追うでごわす」




