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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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首無

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 鮮血の三角陣までの道のりは険しくなかった。

 まるでこれからが困難だと言っているような気がして、なんかちょっとイヤだったけれど、何にせよ僕たちは鮮血の三角陣へと辿り着いていた。

 中に入る前にシッタたちと別れる。「頑張れよ」なんて舌なめずりして気楽に言われた。

 アルルカの弟子の説得は拍子抜けするほどすんなりいって修行のために、と僕たちの護衛を引き受けてくれた。

 イロスエーサが事前に教えてくれた情報によればランク5とランク3の冒険者がこちらに向かっているらしい。

 鮮血の三角陣の内部にはランク5がいないと入れないらしく、それだと修行としてもちょっときついんじゃないかと懸念したけれどシッタにフィスレ、ルルルカもいる。そこらへんはきっと何とかするのだろう。「杞憂です」とフィスレにも叱られたことを思い出す。

 そうして中に入るとアエイウがいた。対面する冒険者たちへと叫んでいた。

「ガハハハ、いいかオレ様はお前らが死のうが関係ない。早急に力が欲しいオレ様と早急に力が欲しいお前ら、その利害が一致したから手を組む。それだけだ、本当なら野郎と組みたくはない」

 男だけといるアエイウなんて珍しいと思ったけれど、男だけなのはそういう理由らしい。

 試練を受ける理由は自分の弟子はまだ鮮血の三角陣に耐えうる力はないが、それでもランク6にはなりたい。そんな感じだろうか。

 エリマさんを失ったことと何か関係があるのかもしれない。

 直接聞けば早いけれど、あまり関わり合いになりたくはないので、話しかけないでおく。

 と思ったらアエイウと手を組んだランク3の冒険者と視線が合う。

「あ、レシュリーさんだ」

 そうしてふと呟く。警戒心が足りなかった。いや鮮血の三角陣内にいれば否応なく気づかれるか。

「ぬぁーにー!!」

 アエイウが振り返る。

「貴様! 何しに来た!」

「何しにって、ここに来た理由はひとつしかないだろ」

「オレ様の女は渡さんぞ。というかまたハーレムを増やしおって!」

 アテシアにクレイン、ミセス、ユテロへと視線をやってアエイウは怒鳴る。

 そういえば初対面か。アテシアはデデビビにユテロはコジロウに隠れ、クレインとミセスはにらみつける。

「美しくない」

 嘗め回すように女性陣を見たアエイウにジョレスがもっともな感想を漏らす。

「弟子だから。変な目で見るなよ」

 一応、強気に出て師匠の威厳だけは保っておく。

「あの……僕はコドレスってゆいます」

 アエイウと共闘するランク3の冒険者が自己紹介すると

「お前だけずるいぞ、デレドーです」

「サドレンっす」

 続けて残りのふたりも名乗る。僕が[十本指]だから知っておいてもらおうという算段だろう。

 アエイウも[十本指]なのでこの三人も共闘を決めたのかもしれない。

「うん、頑張って」

 かける言葉が見つからずありきたりな応答。

 でもそれだけで「よしゃー、やってやるぞー」とやる気になっていた。

 そうしてアエイウと別れて、見覚えのある場所へと進んでいく。

 アリーたちとも途中で分かれた。

 アリーとセリージュが左。コジロウとアルルカが右。左右はふたりに分かれて、そのあとさらに分かれ道を曲がる。

 人工的に掘られたかのようにそれぞれにそれぞれの部屋があてがわれていた。特に部屋の指定はないけれど先客が居れば奥へ奥へと進んでいく。

 時間以内に入ったランク5冒険者の数だけ部屋の数はあった。原理は分からないけれどそういう仕組みだった。

 この辺は新人の宴の結界【単独戦闘】に似ていた。

 部屋の中央には四つの三角形を重ね合わせて作られた三角形が描かれていた。ディオレスが死んだときと同じように。

 鮮血の三角陣の内容は変わることはないのに、僕たちの状況はめまぐるしく変わった。

 今度は僕が中央の三角形

の上に乗る。ここだけが唯一の逆三角形。上の三角にはデビ。右下の三角形にはクレイン。左下の三角形にはアテシアとムィ。

 僕を含めた四人に一匹が乗ると四つの三角形の辺に結界が貼られる。半透明の壁。

 一度経験しているのでここらへんは慣れっこ。触れても罰則もないことはデビたちに説明しているから結界に覆われたことで動じている様子はない。

「ムィィイイイ!」

 けれどムィの大きな叫び声が聞こえた。まるで悲鳴のような鳴き声。

「ムィ、(大丈夫)(ですの)?」

 アテシアの心配げな声に僕は振り向く。

「ムィイイ!」

 半透明の結界の外側にいたムィが半透明の壁へと体当たりを繰り出していた。

 どうして外側にいるのかすぐに理解した。弾き飛ばされたのだ。

 魔物使士の魔物は結界から弾き飛ばされることはない。【召喚球】で呼び出す魔物も、天魔士や悪魔士が呼び出す悪魔や天使もだ。

 だから大丈夫だと思っていたが、そもそも魔物使士でもなんでもないアテシアとムィが行動をともにしていることが特別だ。

 その特別は今回ばかりは許されないと言わんばかりにアテシアとムィは隔絶されたのだ。

「ムィ、(大丈夫)(ですわ)(わたくしは)YDK(やらなくてもできる子)ですもの」

 不遜にもアテシアは言い放つ。

 やる気を出して努力をする、そういうきちんとやればできる冒険者とは一線を画すと言いたいのだ。

(ですから)Mしな(見ていな)さい」

 レッドキャップの出現とともに弓を構えアテシアは言い切った。

「ムィ!!」

 ムィも聞き分けのいい子どものようにそれだけで体当たりを止め、天井に足を引っかけ宙づりになってアテシアを見守るように決めたようだ。

 レッドキャップの出現よりもやや早く僕のいる三角陣にデュラハンが出現していた。同時に制限時間の六十分が表示された。

 デュラハンは小脇に顔を抱えている。アリーの顔。デュラハンの顔は対峙者の大切な人の顔へと変貌を遂げる。それでディオレスは自殺してしまったけれど、僕はそうはならない。

 アリーはまだ生きている。特徴を分かってはいたけれど、実際に対峙すると冷静ではいられなくなる。

 僕は相手の術中に嵌まってしまったかのように悪趣味なデュラハンへと怒りを覚えてしまってた。

 冷静であれと念じるけれど抱えられたアリーの顔が偽者だと分かっていも、抱えられているだけで冷静ではいられない。

 安らかに眠ったような表情で少しだけ青ざめたまさに死人の顔。

 そう見えてしまうのは僕の愛情ゆえだろう。

 とっくに構えていた鷹嘴鎚を強く握り締め、走り出す。

 このときばかりは師匠失格かもしれないけれどデビたちのことをすっかりと忘れていた。

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