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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
386/874

気体

55


 ユグドラ・シィルに向かった僕たちは酒場の一角に腰を据える。

 大金を叩いて貸し切り状態にしたのは、というかしなければならかったのは人数が多すぎるからだ。

 僕にアリー、コジロウ。

 僕たちの弟子であるデデビビ、アテシア、クレイン。ジョレスにアンダーソン、ミセス。ユテロとマムシにインデジル。それにJEN1-4Aと蝙蝠のムィと魔物使士グレイ。

 シッタとフィスレ、アルルカ、モッコス、モココル。

 五人にはそれぞれの弟子三人とルルルカの弟子も含めて十八人の弟子がいる。

 ナージナルとヌスル、スラヴェンカがシッタの弟子で、フィスレの弟子がバーゼン、セッツァル、ガーボジ。ソニア、ボーガライズ、ニッカポッカが元ルルルカの弟子で今はアルルカの弟子。元からアルルカの弟子だったのがギーダン、タルシネア、ネイトローズ。

 モココルの弟子たちがチーズにゾロト、ズルポンでモッコスの弟子がポリゾナ、ツァポリネとノギラドというらしい。

 シッタとフィスレの弟子は僕たちと同様ランク3。アルルカたちの弟子がランク2だ。

 資質者のアズミさんにシャアナ、ゲスじゃなくてゲシュタルト。

 アズミさんと行動をともにしてたイチジツとヴィヴィに道化師のタブフプ。ゲシュタルトの護衛を依頼したルクスとマイカとその主であるグラウスとマリアン。

 いつも助けてくれるアルやリアン、ランク3になったネイレスさんにムジカ、メレイナ。それと無事ランク5になったセリージュも戻ってきた。

 連絡役のヴァンに情報を手に入れてきたイロスエーサもやってきて、さらに僕たちが来たというのを聞いてアクジロウもやってきた。正直アクジロウはいらない。ジョバンニさんがいるのが救いだろう。ジョバンニさんがいるとアクジロウはおとなしい。

 これだけ見るといつもの仲間たちに弟子を加えた感じだ。

 それでも多いのだけれど、敵対していた冒険者も数人が加わっていた。ダイエタリー、グランデニュー、ヴィーガン、ヒヒマント、ラクト、キナギ、クライスコス、オルタネート、レジーグ、リツイートがこの場にいる。

 ちなみに他の冒険者は依頼を辞退したはしたけれど僕たちを手伝うことも辞退していた。

 それと残念なことにクルセドラに飲み込まれたコギッドとギジリは間に合わず助からなかった。

 レッドガンも槍にされたユシヤという女冒険者も救うことができず、僕は人知れず落ち込んだ。それをいつも慰めてくれるのはアリーで、やっぱり僕はそんなアリーが大好きで、言葉で伝えたら叩かれて、でも赤面するアリーは愛らしかった。

 それはともかく、敵対していた冒険者も加わってさらに大所帯になったので酒場を貸し切りにするしかなかった。でも多めにお金を渡したので酒場のおやじさんも二つ返事で貸し切りにしてくれていた。アルやリアンが顔見知りだったのも大きかったかもしれない。

「で、まずは情報を整理しよう」

 イロスエーサも到着したので全員が情報を共有するためにも僕は提言する。

「イロスエーサ」

 僕が呼びかけるとうむ、と頷いてからイロスエーサは話しかける。

「うむ。何度も確認するようで悪いであるが、レジーグたちが受けた依頼とやらはなんであるか?」

「オデたちが受けた依頼はそこにいる三人、アリテイシアとネイレス、ヴィヴィネットに触れることだぽん」

 改めてレジーグが言う。「もっとも簡単に触らせてくれないってことは分かっていたぽん。だから倒すことも視野に入れていたぽん」

「他の皆も同意であるか」

「言葉を返すようだけどキミもその場にいたよね?」

 リツイートが疑問を返す。当然のことながらその依頼の場にイロスエーサもいたから、それが間違いないと分かっていた。

 とはいえイロスエーサが集配員だと見抜きその場で嘘を取り繕った可能性もないとはいえない。それを鑑みての問いかけだった。

 リツイートが何を知っていることを今更何度も確認するんだ、とげんなりした表情で見ているあたり、きっと本当に依頼はそれだけなのだろう。

「然様であるが、確認である」

 イロスエーサが憮然と言い放つ。

「それからこんな情報もあるのである。ラクト殿」

「はい。ええ。ライバルに情報提供なんて胸糞ですが……」

 イロスエーサとは違う集配社に所属する集配員であるラクトはそう前置きしたあと、

「死んだハート兄弟やディエンナを取り仕切っていたやつが随分と周囲を気にしてたっていうか、そんな感じはありました」

 ラクトが言い放つとイロスエーサが言葉を引き継ぐ。

「その様子からとりあえずディエンナたちが極秘依頼を受けていた可能性はあるのである。それを踏まえたうえで、その極秘依頼と、レジーグ殿たちの依頼は密かにつながっていると推測できるのである」

「密かっていうか絶対つながっているわよ」

 アリーが呆れて断言する。イロスエーサとしては確かではない情報を断言したくないのだろう。

「だとすれば極秘依頼を出したのはレジーグ殿たちに依頼を出した人間、ニヒードだと推測できる」

「ニヒードって確か。課金籤の元締めかなんかだっけ?」

「痛い目見た籤屋のドーラスの上司みたいなものだね」

 ドーラスの名前が出てムジカが下を向く。巻き上げたのがムジカだから少しばかり恥ずかしいのだろう。

「で極秘依頼の内容は? 大方分かってるんでしょう?」

 焦らしていると分かっているアリーが結論をせかす。

「ニヒードが集めているものを調べているうちに面白いものを発見したのである」

 それでもイロスエーサは犯人の犯行手立てを見破るように語り続けていく。

「〔双魔導パパム〕、〔双魔導ポポム〕、〔狂気のブラギオ〕〔歪愛のキムナル〕〔正義のユーゴック〕〔天才のラッテ〕〔竜殺しソレイル〕。この名前に覚えはないであるか?」

「それって[十本指]の……」

「正確には元[十本指]であるが、今名前の上げた武器が全てニヒードのもとにあるである」

「結局、どういうこと?」

「ムジカさんが目玉商品を洗いざらい手に入れましたから……たぶん次の目玉を作ろうとしているのでは?」

「ムジカちゃん、容赦なかったもんね~」

 アルルカの推測とモココルの何気ない言葉がムジカを赤面させ縮こまらせる。

「たぶんその推測で間違いないと思うわ。あたしにアリテイシア、それにヴィヴィ。全員が残りの三本の武器持ってるから」

「そういうことか……」

 自分も標的になっていたことにようやく納得するヴィヴィ。

「気に食わないわね。自分でかかってきなさいよ」

「相手は商人だから冒険者を雇うのは正当なやり方だよ」

 アリーの言い種にジョバンニが笑ったあと、怒気を含んで言い放った。

「でもやり方はともかく思想は同じ商人として気に食わないね」

[十本指]の武器を集めるためにイベントと称した依頼で報酬は籤石でしか払わず、しかもその籤の目玉商品は彼らが苦労して手に入れた武器なのだ。挙句当たらない可能性のほうが高い。

 それなら依頼として手に入れた武器を手渡すよりも悪名とともに武器を横取りしたほうが報酬的には何倍もいい。

 ジョバンニはそれが気に食わなかった。

「ニヒードに対しては今対抗策を考えている。これで落ち着くとは思うけれどランク2だった冒険者たちは依頼を破棄してないんだろう。そっちも問題じゃあないかい?」

 実はそうでもない。

 ジョバンニだって問題だとは思ってもないくせに尋ねてきた。円滑に話を進めるためだ。

「……僕はちょうどいい修行相手だと思う」

「だな。そこには俺たちの弟子を宛がおう。たぶん、未だ標的のアリーたちが鮮血の三角陣に向かったら、奴らもそこに向かうはずだ。それにちょうどランク3になっているから鮮血の三角陣に向かっていても怪しむ奴らはいない」

「となると」

 テーブルに紙を広げて僕はそれぞれが向かう場所を書き記していく。

 鮮血の三角陣を受けるのが

 僕にアリー、コジロウ、アルルカ、セリージュ。

 デデビビとアテシア、クレインにムィ。ジョレス、アンダーソン、ミセス。ユテロ、マムシ、インデジル。ヴィヴィにグレイ。ネイレスとムジカ、メレイナ。

 それにシッタ、フィスレの弟子6人合わせて27人。

 当然、ムィもひとりにカウントしている。

「私たちの弟子も連れていきます」

 アルルカの言葉に同意。となると12人追加で39人。

「なら私が引き続きお守りをしよう」

「今度は俺も行くぜ。試練は受けんがな」

 フィスレが提言し、シッタが同調。これで41人。

 お守りはそのふたりで十分と思ったのかモココルとモッコスはついていくとは言わない。

「わしらは今回は休養ですぢゃ」

 包帯を巻いたままのモッコスが言う。無言で頷いたモココルもまだ傷が完全に癒えたとはいえない。

「なら遊牧民の村にいてほしいわ。魔物が出てきたら私がいないと不安がるし、ケガしてても冒険者がいれば彼らも安心できる」

「ならヴォンもそこで待機である。何かあっても連絡ができるであるし」

 イロスエーサが言うとヴォンも「分かっタ」と頷く。

「じゃあオレはよ」

「アクジロウは待機。元冒険者がどうこうできるわけない。で僕はレスティアに行こうかな。そろそろニヒードを倒す準備ができたようなんだ。護衛としてJEN1-4Aを貸してほしい。もちろん、鮮血の三角陣に行ってからでいい」

「変な言葉を覚えさせないでよ」

 アリーが口を出すと「具体的にはどんな言葉?」ジョバンニが反撃にでる。アリーはにらみつけるだけに留まった。言われたら照れてしまう言葉を自分で言いたくはないのだ。

「ということで頼むよ、JEN1-4A」

「カシコマリマシタ」

 JEN1-4Aは深くお辞儀して了承。

「そうそうイロスエーサには頼みたいことがある」

「なんであるか?」

「ディエンナが何者なのか、ヴォンが見つけてくれた隠れ家が何なのか調べてほしい」

「分かったらどうするであるか?」

「僕はディエゴとの戦いをそこでしたいと思ってる」

 宣言すると一瞬で悟ったアリーがため息を吐く。

「ディエゴついでにディエンナも倒しておこうって算段ね。面倒を抱え込みすぎよ」

 僕の意図がアリーの口から発せられる。

「でも倒しておかなきゃ……」

 ハート兄弟の改造は酷すぎた。それにディオレスの遺志もある。ディオレスに直接言われたことはないけれど弟子である以上はディオレスがやっていたことは引き継ぎたい。

 僕の意図に誰も反対意見を述べない。

「分かったである」

 理解したイロスエーサも同意する。

「で護衛のほうはどうするんだよ? 依頼は継続中だろ?」

「それは当然。けどディエゴが来るまでは一か所にとどまらないほうがいい。草原の左右の入口にディエゴの姿はなかった。でも大草原に留まっているとも思えない」

「癒術の魔巻物があるにしろ、ないにしろ大草原唯一の街である遊牧民の村には現れてないから、北か南の山を越えたってところが妥当ね」

「僕は空中庭園が安全だと思ってる」

「けどアズミさんやシャアナさんはそこで襲われたのでは?」

「確かにそうだけど。シャアナが一度使った争技場の死なない仕組みはディエゴに追い詰められても殺されない。それに飛空艇を持っていないなら、発着場で定期便に乗るしかない。顔が割れているなら定期便に乗った瞬間、空中庭園から逃げ出すことだってできる」

 一応の理屈に反論の声はない。

「護衛対象のアズミさん、シャアナ、ゲシュタルトは行くとして……他には」

「「当然、「私」「わたくし」たちも」」

 マイカとルクスの声が重なり、ふたり合わせて視線を合わせてイヤな表情をする。

 が言い争っている場合ではないのでそこで終わり。

「となればそこの貴族ふたりもだね」

 ゲシュタルトの本当かどうか分からない英雄譚を聞くグラウスとマリアンを一瞥すると執事とメイドは頷いた。

「我護衛」

 イチジツさんも短く提言。アズミさんが行けば、そうなるだろう。

「私たちも行きます」

 と言ったのはリアンだ。

「兄を説得できるのなら説得したいんです」

 アルも強く頷く。

 それには反対しない。その可能性はディエゴが僕たちを守った時点でゼロとは言えなくなっている。

 甘っちょろいかもしれないけれど未熟な僕はその考えを捨てきれない。

 リアンもそうなのだろう。 

「オデたちも護衛につくぽん」

 敵対していた冒険者を代表してレジーグが言う。

「全員?」

「いや俺はランク3だから鮮血の三角陣について行きすぎる」

「あれ、じゃあ……アルルカに同行するランク3はキミでいいってことか? アルルカがいいならだけど……」

「私は構いませんが……」

「それは僥倖すぎる」

 いいなあという声も上がる。そういえばここにいる連中はルルルカにそっくりなアルルカをある意味で聖女崇拝してるんだっけか。

 アルルカが微妙に困惑する。

「それともうひとつあるんだぽん」

「何?」

「ランク6のオデやヴィーガンたちはお前が鮮血の三角陣を合格したら合流するぽん」

「なるほど……封印の肉林には同行して便乗する感じね?」

 アリーの刺のある言い方に何人かがむっとする。

 でも敵対後に仲間になってさらに封印の肉林にはついていこうとするのだからちょっと虫のいい話だと思ってしまったのだろう。反論はなかった。

「分かった連絡するよ」

 僕自身はランク7が増えることは守れる可能性が増えることなので反対はしない。先ほどのアリーの言葉だって悪気があったわけじゃないことは分かっていた。視線でそれを伝えると、照れてアリーは視線を逸らす。

 それが可愛らしくてたまらない。

「これで全員の方針が決まった感じかな?」

「あ、僕がまだだ」

 というと視線が集まる。声の主はタブフプ。片手には腹話術人形のピーボルくんを持っていた。

「と言っても僕は次の巡業があるし、ここらで退散させてもらうけど」

 引き際を弁えるようにタブフプは言う。「ヴィヴィは気をつけてね」

「ちょ、待てよ。なんで俺は待機なんだよ。“たいき”っつっても大気じゃないだ、空気みたいに扱うなよ。むしろ逆から読んで期待してくれよ」

 そうやって騒いでいるのはアクジロウだった。ジョバンニに待機を命じられても何かしたくてしょうがないんだろう。

 ちなみに“きたい”だって空気だ。気体に、じゃなくて期待に添うようにアクジロウの言葉に誰も耳を貸さなかった。

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