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tenth  作者: 大友 鎬
第5章 失意のままに
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迷走


 1


 リアンが仕事だと言って退室する。引き止めるつもりもないし、引き止める理由もない。

「今日は大事をとって休んでいてくださいね」

 笑顔でそんなことを言われたら休まざるをえない。

 おとなしく寝台に横になっていると、アリーのことを思い出した。

 今、どうしているんだろうというよりも今後どうするのだろう、ということが気にかかっていた。

 ディオレスが死んだ直後コジロウよりも取り乱したのはアリーだった。

 なんだかんだ言ってディオレスを尊敬していたのかもしれない。アリーは素直に言葉に出せないことを僕は理解しているつもりだ。随分身勝手かもしれないけど。

 むしろ、コジロウが動じてないように見えたのが意外だった。

 コジロウのほうがむしろ取り乱しそうな感じだったのに。なにせ、ディオレスが親代わりみたいなところもあるから。

 でもまあ僕たち冒険者は親が大抵冒険者で死んでいたりするし、生きていてもわざわざ探すこともしなかったりする。あまり恋しくならないのだ。

 コジロウも今後はどうするのだろう。

 僕は……たぶん、アリーが冒険をやめたら、やめる――のだろうか? そういう気持ちになれるのだろうか?

 冒険者は全てを手に入れることが運命で使命で役割だった。それに束縛されても当たり前だと認識しているのが冒険者だった。ある種洗脳だ。それでも恐怖に負け、やめる人間だっている。

 アリーもコジロウも、ディオレスを失ったことで、支えを失ったことで冒険をやめるのだろうか。僕は支えにならず、コジロウもアリーもお互いを支え合えない。

 ああ、嫌だ、嫌だ。

 寝てばかりいると嫌な方向にばかり思考が傾く。

 アリーが冒険をやめるはずがない。

 気分転換に外にでも出るかと、頭近くにある天使の呼び鈴(ナースコール)を押そうと手を延ばす。

「駄目です。入らないでください」

 リアンの怒鳴り声が聞こえる。誰かが僕の部屋へ入るのを制止しようとしているようだった。

「意識は取り戻したのだろう? ならば健康だ。健康なら、私がお邪魔する理由になる」

「大事を取って今はお休み中ですから面会謝絶です」

「まあまあ気にしない。気にしない」

 なんとなく気配で、その誰かが取っ手に手をかけるのが分かった。

 勢いよく扉が開き、豪快な音が響く。

「これはこれは初めまして」

 知らない顔の男だった。

「私の名前はリンゼット・カールビーズ。初心者協会人事部部長です。よろしく」

 差し延ばされた手は握手したい現れなのだろうがそれでも僕は握手しようとしない。何故だか拒んだ。初心者協会にいい心象を持っていない。

「いやはや嫌われたものですね」

 頭を掻くリンゼット。忙しいのか急いできたのか黒髪は整っておらずボサボサのまま。

「何のためにここへ?」

「私は人事部ですから……もちろん勧誘にですよ」

 リンゼットは笑顔でそう言った。

「率直に言いましょう。原点回帰の島で投球士の教師になるつもりはありませんか?」

「ありませんね」

 即答した。

「これはこれは……即答ですか。ディオレスさんが死んだ今、傷心中のあなたなら冒険をやめてくれるかもしれないと踏んだのですが……」

「それは残念でしたね」

「ええ、残念です。しかし私は諦めません。またいずれ」

 収穫がなかったことを残念がるようにため息をついてリンゼットが部屋から出て行く。

「ヒーローさん、今のって……」

「リアン。このことは内緒にしといて」

 僕はそれだけ告げて寝そべった。

 リンゼットが示した僕への提案。

 とりあえず断りはしたけれど、わだかまりを残したのは事実だった。

「ねぇ、リアン」

 気配を読んで、その場にいるだろうリアンに僕は尋ねた。

「リアンは、アネクが死んで、冒険者をやめたいと思った?」

「……思いました。正直、今も迷ってます。でもやめちゃいけない気もするんです」

「そっか。変なこと聞いてごめん」

「気にしないでください。あの……えっと、私、仕事に戻りますね」

「邪魔してごめん」

「いえ」

 ペコリと頭を下げリアンも僕の部屋を後にする。僕だけになった。

 ひとりになって僕はようやくわだかまりの原因に気づいた。

 ――僕も、迷っていた。


 ***


 ネイレスは草原を駆ける。

 最後に睡眠を取ったのはいつだろうか、ふと疑問がよぎったがそんなことはどうでも良かった。

「どこにいるの?」

 草原には魔物が溢れ、その現状が、やはりブラッジーニがこの草原にはいないのだと証明する。

 ブラッジーニが勝手に草原から出ていくなんて到底信じれない。

 長年、寄り添ったブラッジーニを見ていれば分かる。ブラジルは意地でも草原から出ようとはしない。

 だからこそネイレスはこう推測する。

「ブラジルさんが誘拐された?」

 遊牧民の村には売っていない材料をフレージュまで買い物に行くというお使い系依頼をするべきじゃなかった、ネイレスは自分を悔いた。

 ものの数時間でブラジルは草原から消えていた。

 どうすべきか。ネイレスは迷う。ネイレスの交友関係は広くない。むしろ狭い。

 ブラッジーニに助けられてから、ほとんど草原から出たことなどない。

 頼れるのはディオレスにコジロウ、アリーに、そしてヒーローだった。

 お願い、アタシを助けてよ。

 ふと零れた言葉は、共闘の園(タッグパーティー)で組んだ頼もしきパートナー、ヒーローに対してのものだった。

 ブラジルはもう草原にはいない、そう推測したネイレスは草原を離れる。

 向かう先はうろ覚えのディオレスのアジトだった。

 そこにヒーローはいるはず。あの子ならきっとアタシを助けてくれるはず。

 一縷の望みを抱いてネイレスは夜道を駆けていく。

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