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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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犠牲

48



 ジージロンダの一撃がディエゴの左腕を切断する。

 避けきれないと判断したディエゴが左腕を差し出し防御した形だ。

 体の一部を失っても狂戦士なら瞬時に、それ以外の冒険者なら癒術によってすぐに治癒できる。

 切り刻まれて即死してしまえばそれっきりだけれど、生きてさえすれば体はすぐに修復できた。

 もちろん左腕を失えばその断面から出血する。流血を放置しておけば失血死する可能性すらあった。

 そのままディエゴはレッドガンの一撃を回避。癒術【清浄】の魔巻物で血をふき取り、【精血】の魔巻物によって体内の血の量を増やし、貧血を回避。

 失った腕を戻すための魔巻物はストックがなく今は片腕で戦う必要が出てきた。

 必殺の一撃を防ぐためとはいえ

「ちぃ」

 思わず舌打つ。

 ラインバルトの作った隙によってディエゴが追い詰められていた。

 ジージロンダとレッドガンが息を合わせたわけでもないのに、同時攻撃。

 ジージロンダの攻撃をあえて受けたことで一手を引き戻したディエゴがジージロンダの雷纏う光速の一撃をぐるりと避けてから【硬化】させた黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕で人造槍を受ける。

 直前、ユシヤが変貌した槍が二又に分かれてディエゴの腹と胸を突き刺す。

 身を引いて深く刺さるのを避けたディエゴだったが、傷らしい傷をまたも追う。

 一手引き戻したとはいえ、腕を失ったという感覚がディエゴの体幹をわずかに狂わせていた。

「くそがっ!!」

 【加速】して後退するがレッドガンはその速さに追いついてくる。

 レッドガンには癒術も魔法も使えないがディエゴにはその種も仕掛けも分かっていた。

 気持ち悪いことこのうえない。

 ジージロンダは速度に追いつけないため、追いかけることをせず、けれどもゆっくりと間合いを詰める。

 レッドガンが万一にも隙をつければ、再び必殺の一撃を仕掛けるつもりだった。

 それはディエゴにとっても厄介。

 ラインバルトがいないため、レッドガンの一手を一手で潰せばジージロンダには手の打ちようがないが、片腕を失ったディエゴにはおそらく確実にいつか隙ができてしまう。

 ならどうするか、ディエゴは久しぶりにニィと笑う。楽しんでしまう。

 自分の目的を遂行しなければならないとは分かっているがどうしても遊んでしまう。

 遊びで命を落とせば間抜けにすぎるが、ディエゴには刺激が欲しかった。

 レッドガンとの戦いはその刺激としては十分すぎた。

「その人面疽をはがす必要があるなァ!」

 レッドガンに聞こえるように呟く。

 レッドガンが表情すら変えないのは分かっていた。

 でもそれでいい。今から狙うぞ、とレッドガンが理解さえすれば。

 傍から見れば人面疽。そしてそこから聞こえてくる風のような音。

 それが意味を為さないものだと、気持ち悪いだけだと判断すればそれっきり。

 素人とまではいかないまでも二流どころか三流、四流の冒険者でしかない。

 エンドコンテンツを生き延びているディエゴは一流と言ってもいい。

 ある程度改造の知識もある。そんなことをしても面白くないから、自ら施そうとは思わないが。

 何にせよ、その人面疽が改造で作られたものであるならば何らかの効果があるに決まっている。

 そしてディエゴの【加速】に追いつける速度。

 となれば相手も【加速】を使っているに決まっていた。何重にも。

 ディエゴが【光線】で人面疽を貫く。

「グェエエエエエエエエ……」と苦しむような声。

 ディエゴの思った通りの改造だった。

「てめぇ、一体、何人の魔法士系複合職を犠牲にしやがった?」

 ディエゴは問う。もちろん魔法士系複合職だけではなく癒術士系複合職も犠牲になっているだろう。

 レッドガンの表皮についている人面疽は、魔法士系、癒術士系冒険者とその武器を顔の面だけにしてなお生存させ、レッドガンに縫いつけたものだろう。

 当然本人の意志は奪われており、レッドガンの意識のもと適宜癒術および魔法を詠唱する改造だった。

 ディエゴはおそらく改造の成功率上昇のため他者に対する魔法癒術は使えないと睨んでいた。

 他者に使えればレッドガン自身の攻撃に加えて魔法が飛んでくるはずだった。

 ディエゴにとっては幸運だが犠牲になった冒険者のことを思えばそうも言っていられない。

 とはいえレッドガンに不思議と怒りはない。改造を望んだのはレッドガンだとしても施したのは改造屋だ。

 それにレッドガンが復讐を望みこうなったのならば、仲間を殺したディエゴにも責任がある。

「クソ面倒臭いが」

 ディエゴは【光線】で次々と人面疽を焼き殺していく。そのたびに悲鳴があがる。鎮魂歌とまではいかないが不気味な合唱のようにも聞こえた。

 もっともレッドガンの傷はすぐに他の人面疽の詠唱で治療されていくが確実に人面疽の数は減っていた。

「責任ぐらいは取ってやるよォ!」

 レッドガンが人面疽の減少を防げない意図が読めないディエゴだったが、レッドガンの一手を遅らせるためにも今は人面疽を減らす必要性があった。


 ***



 僕がクライスコスを助けた結果、というのはおこがましいけれどアリーたちを狙っていた冒険者たちもクルセドラに爆弾ゴブリンへと向かっていく。

 氷魔法をこちらへと放ってくるハート兄弟はシャアナとアズミが封殺している。シャアナはラインバルトの死に、涙を零していたけれど

すぐに立ち直った。戦闘中だから、押し殺したが正しいのかもしれない。

 爆弾ゴブリン退治はクライスコスとともにやってきたダイエタリーとキナギが率先して倒している。

 そのふたりに促されるようにアルルカがこちらへと向かってきた。

 僕は視線でもう一匹のほうへ行くように促す。

 クライスコスを狙った個体は食べられかけたクライスコス自身とリツイートが対応しているが、苦戦が見てとれた。

 アルルカが頷いてクライスコスのほうへと向かうとそれを阻むように地面からクルセドラが出現。

 尻尾側ではなく三匹目の個体。動き回る隆起はあとひとつ。頭と尾の両方で罠を張っているクルセドラがいなければ、それで全部。

 つまりは四匹の個体が存在していることになる。

 アルルカを【転移球】でクライスコスたちのほうへと転移。

 じゃあアルルカを妨害したクルセドラは放ったらかしかと言えばそうではない。

「俺の出番だよなあ」

 舌なめずりしてシッタが飛びかかる。

「こっちは任せてください」

 同時にアルが言う。

 最初の一匹はアルとレジーグに任せて僕は四匹目ではなく魔物使士ディエンナへと向かっていく。

 アリーとコジロウも追従。

「さっさと終わらせるわよ。ディエゴのほうがあれでも致命傷にならなかったんだから!」」

「分かってる!」

「でも焦りは禁物でござるよ」

「それも分かってる」

 当然、ディエンナも僕たちの襲来に気づいている。四匹目のクルセドラが眼前に出現した。

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