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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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共闘

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「おいおい、なんで標的と一緒に戦っているのかな?」

 朱に交わらないクライスコスが姿を見せるクルセドラに警戒しながらも、まずは疑問。

 依頼としてはアリーとヴィヴィに触ることだったはず。

 この機に乗じて触ってしまえば依頼達成のはずだった。

 こっち側であるはずのレジーグとオルタネートがアリーたち標的に加担している意味が分からない。

 クライスコスは確かにクルセドラに警戒はしていたが大草原に分布していないことぐらいは知っていた。

 なのにクルセドラが存在する理由はひとつ。魔物使士が使役しているに決まっている。

 そしてクライスコスが知る魔物使士はこの場にひとりしかない。ディエンナだ。

 ディエンナも、こっち側――つまりアリーたちに触るという依頼を受けている。

 だとすればレジーグとオルタネートがアリーたちに加担しているのはおかしかった。

 ギジリとコギッドが一呑みされた状況を視認していれば、疑問に思うことなくクライスコスもクルセドラ討伐に加わっただろう。

「とにかく事情は分からないけど手伝ったほうがいいんじゃあ?」

 リツイートがクライスコスの疑問に呟き返し、レジーグたちのほうへと向かっていく。

 キナギやダイエタリー、残ったほかの面々は少しの躊躇いののち、姿を見せているクルセドラのほうへと向かっていく。

 全員がそうしたほうがいいと思ったわけでもない。確かにクライスコスのように今のうちにと思ったものも少なくもない。

 ただ、ここに到着する前。キナギやダイエタリーたちはアルルカとともに敵を倒していた。

 あのときの高揚が忘れられないものもいた。

 倒せないと云われていたヤマタノオロチを倒した聖女と瓜二つの妹。彼女自身もヤマタノオロチと戦っていた。

 そんなアルルカと共闘したというのは誇り以外の何物でもない。孫ができたら自慢するという者まで現れる始末。

 ここで依頼をこなすために動くよりも、再びアルルカと共闘したほうが英雄譚が増えると打算してキナギたちは加勢へと動き出す。

「そんなのはお断りかな?」

 そんな打算で動くよりもクライスコスにとっては報酬のほうが嬉しい。

 今後に活かして強くなれば、アルルカ以上の強さを手に入れることだってできる。

 結局、他の奴らは自分たちがどこかでアルルカ以上の強さを手に入れることができないと感じているのかな。

 勝手に限界を決めて、強いやつの取り巻きになって栄光を手に入れる、それもひとつのやり方だがそんなのは改造(チート)と何が違うのだとクライスコスは感じていた。

 クライスコスはひとり逆らうように道を違える。

 決して間違いとは言えない。そうやって長いものに巻かれず、成り上がっていった冒険者もいる。

 しかして世界はそんなに甘くない。

 クライスコスの決して英断ではない決断を嘲笑うかのようにクライスコスのほうへと隆起が動き出す。

 まだ地中に身を潜めている何匹かいるクルセドラの二匹目が。

 クライスコスもその隆起には気づいていた。けれどそれがなんであるかを知らない。

 なまじクルセドラの生態を知っているからこそ討伐経験があるからこそ、クルセドラは地中には潜らないという固定概念を持っていた。

 隆起がクライスコスの目の前で止まる。深く深くクルセドラが潜った証左だが、クライスコスには判断がつかない。

「急いでその場から逃げるぽん。下からクルセドラが来るぽん」

 レジーグが叫ぶ。レシュリーも言いかけていたが、目的を一緒にしていたレジーグのほうが従いやすいと判断して口を出すのをやめる。

 クルセドラを知っているクライスコスは怪訝に思いながらも隆起から離れるように動き始める。

 だがクルセドラも深く深く潜りながらもクライスコスが響かせる足音を感じ取っていた。

 上にいるのがクライスコスだとはクルセドラは知っているわけではない、獲物の足音は地中から全て感じ取っている。

 そのなかの一番近くがクライスコスだったというだけの話。それだけでクライスコスは標的に選ばれていた。

 そんな理由で標的にされたクライスコスは不運なのかもしれない、はたまた聞く人が聞けばふぅんと適当に相槌を打たれるような当たり前の話なのかもしれない。

 何にせよ、何にせよだ、次の標的。クルセドラによる次の犠牲者にクライスコスは選ばれていた。

 地面が競り上がり地中から口を開けクルセドラが現れる。

「うおおおおおっ!!!」

 クライスコスの逃げ道が分かっているかのように、クルセドラは速度を上げて逃げ出したクライスコスの背後から迫ってきた。

 速度はクルセドラのほうが早い。飲み込まれるのが時間の問題。

 クライスコスが、そして先ほどまでクライスコスと共闘していた仲間たちの誰もが思った最中、クライスコスの体が消える。

 クルセドラの速度など比べものにならないほどの目にも止まらぬ速さでクライスコスに球がぶつかっていた。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 次の瞬間、アルルカたちのほうへと向かっていたダイエタリーたちの近くへとクライスコスが転移されてきた。

 クライスコス自身がまず理解し、刹那遅れてダイエタリーも理解する。

 クライスコスを救ったのは【転移球】だった。

 その球を圧倒的速度で投げれる者のは今ここにはひとりしかいない。

 いや、今どころか、ここどころか、世界中を探してもひとりしかいないかもしれない。

 レシュリー・ライヴだ。

 当然のことながら別個体ながら三回目となるクルセドラの呑み込みを、救うことを信条としているレシュリーが易々と許すわけがなかった。

 やってきた全員に目を配り、気配を読み、クルセドラの道筋を警戒し――これについては地面が隆起してくれるため容易い――それだけでなく戦っているクルセドラの長さから罠を張る尻尾側のクルセドラの位置に目途をつけていた。

 その結果、戦闘中のクルセドラと戦うアリーたちの援護をしながらもクライスコスを救うことに成功していた。

 圧倒的驚きにクライスコスは身震い。自分の考えを改める。依頼を遂行している場合じゃない。

 結果的に一致団結して、クライスコスたちはアルルカたちと共闘の道を選ぶ。

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