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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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背負


45


 ジージロンダは機会を、好機を窺っていた。

 レシュリーの指示に従って魔法を唱えていてもなお、義務感、使命感のような種火が燻っていた。

 たぶんどんな言葉を水のようにかけられても、その種火は消えることはないだろう。

 倒さなければならないという義務感。

 ずっと、ずっとジージロンダは胸に秘めて、好機を待ち続けた。

 レシュリーの策を聞いたとき撃退はできても討伐はできないとうすうす感じていた。

 そのせいかより強くその種火は燃え上がった。

 死んでいったヂーヂロンダ、そして雷牙団の仲間――いや、仲間というよりも家族のために敵を倒さなければならない。

 ヂーヂロンダは魔剣化してもなお自分を心配している。

 だとすればその心配を解消するためにも、ディエゴを倒さなければならない。

 そうしてレッドガンがやってきたことでジージロンダは好機がやってきた、と思った。

 そういうことはままある。

 どうしても自分だけでは打開できない状況ができたとき、思わぬ出来事が自分に好機を作り出してくれる。

 それがまさに今だった。

 その好機を逃さずにジージロンダはレッドガンに近づいた。

 間合いを測り、距離を保ち、自分の兄を、魔充魔剣を取り出して構える。

 好機を逃してはならないと焦りすぎたのか、近づく前に用意するのを忘れていた。

 【慧狼雷奔】を宿した頃にようやくラインバルトが後ろから追い抜いていくのが見えた。

 ラインバルトも何かを背負っている。復讐とは違う何かを、誰かのために何かをしようという気概が見えた。

「気をつけやがれよ」

 誰かのためにラインバルトが何かをしようと思っているのなら、

 そしてその誰かが生者ならばラインバルトは死んではならない、ジージロンダは人知れずそう感じて、その言葉を投げかけていた。

 ジージロンダはラインバルトとは対極。

 ジージロンダは死者のために、死んでいったもののために何かをしようとしていた。

 ラインバルトの背中を見つめながら、ジージロンダも近づいていく。

 隙はなかなか見つからない。一手一手をお互いが潰している状況だが、それは悪く言えば隙がない。

 それでもジージロンダとラインバルトが近づいていることでディエゴの集中力は分散されているはずだった。

 三人に気を張らなければない状態はいずれ隙ができるとジージロンダは踏んでいたが、その予想は思わぬ形で外れた。

 隙とは呼べないであろう瞬間にラインバルトがディエゴに攻撃をしかけ、ラインバルトの胸を【光線】が貫いていた。

 それは予想外の隙だった。

 ジージロンダは迷わない。迷わず飛び込んでいく。

「お前の死は無駄にはしやがらないっ!」

 涙目で死んでいくラインバルトにジージロンダは声をかけていた。

 ラインバルトとは認識もない。けれど、絶好の機会を与えてくれた。

 本当は死んでほしくはなかった。生者のためにディエゴを倒そうとしていたのなら、きっとその誰かは悲しむだろう。

 だからというわけでもないが、ジージロンダはラインバルトの想いも背負って魔充魔剣ヂーヂロンダを振り上げる。

 振り上げられた雷牙は様々な想いを背負っていた。

 想いが重なるように、連なるように、雷牙も肥大しているように見えた。

 錯覚かもしれない。

 それでも振り上げたジージロンダはその重みを感じていて、ディエゴもその大きさに驚いていた。

 想いによって作られた魔剣がその想いを汲み取ったのかもしれない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 叫びとともに振り下ろす。

 一方で一手浮いたレッドガンも自身を超加速させて突撃していた。

 二方向からの同時攻撃。

「ちぃ!」

 ディエゴは舌打ち。レッドガンの人間槍とジージロンダの魔剣、過程は違えど奇しくもどちらも人から造られた武器がディエゴを襲う。

 一方は殺意を、一方は死者の想いを背負って衝突する。

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