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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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面疽


 43


 レッドガンの姿は瘴気を纏っている以外は何も変哲もないように、見えた。

 けれど

「変、身ッッ!!」

 レッドガンが叫んだ途端、【獣化】した途端、あり得ない姿になっていた。レッドガンの着ていた防具が弾け飛び、体が肥大化。

 狼男のように犬のような体毛が生えた。

 腰砕けで尻もちをついていた僕も思わず後ずさる。

 癒術の詠唱を終え、モココル、モッコスを救ったリアンが僕に近づき、手を握る。

 リアンも僕も恐れてしまっていた。

 かつて戦ったティレーの【怪獣化】もDLCの影響で恐ろしいことになっていたけれどそんなことはなかった。

 あの時よりも強くなっているはずなのに、どうしてか震えが止まらない。

 一見、ワーウルフに獣化したようにも見える。遠目から見ればそうとしか見えない。

 けれど、

「がおうえうぅおぉおおお……」

「えごいさおおおぅううおお……」

 まるで洞窟に突風が吹いたときのような音が聞こえてくる。レッドガンの肌のところどころから。

 皮膚が体毛に覆われているはずなのに、その体毛がまるで人面疽のように見えていた。

 人面疽というのは、空中庭園では魔物の一種という云われもあるらしいけれど人の顔に見える悪性の腫物、奇病のことで、何にせよレッドガンの体中にその疽があった。

 けれどそれは腫物でもそう見えるのではなかった。

 改造人間、そう聞いてしまったから、腫物ではないと断言できた。改造人間が果たして改造者とどう違うのか僕には理解できないけれどそれでも改造されているのなら、レッドガンの人面疽のようなものは人間の顔を本当に張りつけてあるのだろう。いやもしかしたら人の顔を人にくっつけるような改造があると仮定して、それを応用してレッドガンの体と人そのものを融合させたのかもしれない。

 聞こえてくる音はその人面疽となった人々の口から聞こえてくるうめき声だった。

「気持ち悪いにもほどがあるだろォ!」

 ディエゴの言葉に思わず同意してしまう。

 そんな改造をしたことでレッドガンがどう変化したのかは分からない。

 それでも【獣化】したレッドガンは

「うがあああああああああああああああああ!!」

 殺意を向けてディエゴを威嚇する。

 そしてもうひとり。レッドガンとともに現れた女冒険者も槍をディエゴに殺意を飛ばす。

 女冒険者のことを僕は知らないのだけれどどことなくかつて戦ったユーゴックの面影が見えた。

 その女冒険者はレッドガンとともに現れたときからぶつぶつと、ぶつぶつとまるで呪詛のようにこう呟いていた。

「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」

 悍ましい呪怨にこっちの気分が悪くなってくる。

 レッドガンと一緒に来た以上、こちらも改造されているはずなのだけれど一見して改造したようには見えない。

 そう思うやいなや、変化が起きた。

 両腕をあげ、肘をつけるように腕を組む。その時点で結構無理な姿勢だ。両足も踝同士をきっちりとつけ、直立。

 そこからその女冒険者は小さく跳躍。少しだけ宙に浮かぶと、全身が鋼鉄化。

 肩幅が肥大化し、胸よりも下半身が鋭く細くなっていく。さながら大きな針。

 組んだ腕は何度も捻じり捻じられ、肌色の包帯を巻いたような棒へと変化。

 そこが柄だとすれば大きな針のようになった部分は刀身。女冒険者は自らの体を使って巨大な刀身を持つ槍へと変化していた。

 刀身のなかで顔と分かる部分がうっすらと跡として

 さながら彼女は人体武器だ。自分自身を武器に変えて使ってもらうために改造されていた。その様を見て少し気持ち悪くなる。

 彼女が望む望まないにしろ、あまりにも酷すぎる。

 その槍をレッドガンが握り、構えた。

 ぐぉおおえお、ごおぉりえ、がええいぎりぉ。

 声は人面疽から。

 直後。

 静かに、けれどもまるで景色が線として流れていくような速度で二人は肉薄。

 レッドガンの超速度とディエゴの超速度は互角に見えた。

 突き出された人体槍をディエゴはすれすれで避ける。ギリギリまで避けなかったのは出来うる限り接近するためだろう。

 がそこで思いもよらない変化が槍に起きた。

 槍がぐにゃりとまるで腰を曲げたかのようにディエゴのほうへと曲がる。

「面倒臭ェ! 下品すぎるだろォ!」

 黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕による【直襲撃々】で、槍の刀身を弾き飛ばす。 

 弾き飛ばした矢先、槍は痛みも何もないのか弾き飛ばされたことすら利用してぐにゃりと向きを変え、ディエゴへと肉薄。

 穂先がディエゴに触れそのまま腕の表皮をリンゴの皮むきのように持っていこうとしたところで僅かに爆発。

 自分が巻き込まれるのも構わずに超至近距離で御身を削り取らんとする槍へと【弱火】を放っていた。

「ぐぅうう」とレッドガンではなく槍からくぐもった悲鳴。

 槍へと変貌した女性は、槍になってもなお胎動していた。

 ディエゴからの攻撃を腹に受け、その熱さが衝撃が体内を駆け巡ったに違いなかった。

 一方のディエゴも至近距離で【弱火】の爆風を受け、多少の火傷を負う。

 そして再び激突。一手、一手を力ずくで潰せるか試行するようにレッドガンとディエゴは小細工なしに技をぶつけ合っていく。

「一度、退こう」

 こちらへ向かってきていたアルと、傍にいるリアンにそう告げて僕は退却する。

 レッドガンも武器となった女冒険者も救わないといけない。

 そう思いながらも、状況的には不利すぎた。

 歯噛みして資質者たちのいる場所へと撤退を決めた。

「退いてきたのね」

「うん。のんびりとはいかないけど、そっちはどういう状況?」

「襲ってきたはずの冒険者同士でつぶし合ってるけど、改造されたゴブリンがこっちにも向かってるから無視はできないわね」

「どういうわけか改造されたレッドガンがディエゴに向かってるのはチャンスだけど……あんな状況のレッドガンも放っておけないよ」

 はあ、とアリーはため息。「言うとは思った。でもそれは二の次ね。ディエゴもだけどこっちもどうにかできなきゃどうにもできない」

「あの、それなんだけどさ……」

 レッドガンが到着した頃からアズミも手伝っているため余裕のあるシャアナが詠唱途中に問いかける。

「ラインバルトがどこに行ったか分かる? ジージロンダさんもいないんだけど」

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