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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
373/874

改人


42


「てめぇらは使えない」

「どんだけ役立たずなんだ」

「期待はずれ。もうついてくるな」

 かつてハート兄弟は組んだ冒険者たちに口々にそう言われていた。

 二重詠唱を売りに自分たちを売り込んだが、成功率は三割未満。

 しかも同時詠唱どころから、魔物に驚き片方が詠唱をしくじるというのもざらにあった。

 冒険者たちの多くが魔法士系冒険者に望むのは固定砲台としての役割だ。依頼内容によっては大量の魔物を倒す必要があるため魔法士系冒険者の役割は重要。

 即席で集まったパーティーだとしてもその重要性を理解しているため他の冒険者は必死で魔法士系冒険者がやられないように守ろうとする。

 確かに不意の一撃に反応が遅れて守るのが遅くなることだってある。

 それでも魔法士系冒険者は動じず仲間を信頼して致命傷にならないのであれば詠唱を止めないのが守ってくれている仲間に対する応えだ。

 だがハート兄弟はそれができないでいた。

 絶対に届かない攻撃でも正面から何かが飛んできただけで驚き詠唱が止まり、それどころか戦っていた茂みを犬が通り過ぎただけで驚き、詠唱が止まった。

 何事にも警戒することは重要だが、警戒しすぎたあまり詠唱が中断され、結果的にやり直した分だけ前衛の負担が増える。

 負担とともに前衛には不信が募る。信用してないから詠唱に集中できないんだと前衛の冒険者たちは判断し、結果的に依頼は失敗。

 防衛対象になっていた馬車を破壊され冒険者たちはハート兄弟を糾弾し、ふたりともどうにでもなれと叩きのめしていた。

 傷だらけのふたりはそのまま放置された。屈強な戦士たちに叩きのめされたふたりは体が痛みとてもじゃないが動けそうもなかった。

 やがて夜がやってくる。夜は昼に比べて魔物の動きが活発になる。

 冒険者たちがいなくなると魔物たちも分かっているのだろう。

 ともすれば動けないハート兄弟たちは魔物に連れ去られるかそのまま食われるか、助かることはないだろう。

 死を覚悟してふたりは大泣きした。

「あーらあーら、こーんなところで何をしているのでーすか?」

 そんなとき、ハート兄弟を覗き込む顔があった。

 泣いていてハート兄弟にはその顔がよく分からなかった。

 でもハート兄弟はまるで遺言のようにどうして自分たちがこんな目にあったのかをその男に吐露していた。

 動じない心が欲しい。あればきっとこんなことにならなかった。

 もっと強くなりたい。

 それを聞いて男はにんまりと笑った。強く願望にひどく惹かれた。

「強くなりたーいでーすか?」

 泣きながらふたりは頷いていた。


 ***


 そうして強くなったハート兄弟の二重【激化氷塵(ダイアモンドダスト)】がシャアナたちへと向かっていく。

 仲間であるはずのジェックスたちをも対象にして。

「どういうことだ?」

 驚いたのは遊撃していたジェックスだ。どうして自分たちも対象にされているのか。

「どういうことだ!!!」

 必死に逃げながらもジェックスの怒声が響く。シャアナの【鬼炎万丈ボンブ・アンサンディエール】もまたジェックスたちを巻き込み、ハート兄弟の放った二重【激化氷塵(ダイアモンドダスト)】へと向かっていた。

「ちょっと指令があってなーな、極秘依頼は破棄するなーな」

 応えないハート兄弟に代わってディエンナが応えた。

「指令? 何のことだ? あの時飛んできた鳩と関係あるのか?」

「ジェックスには秘密なーな。何にせよ、わーもハート兄弟も、ここからは手伝わないなーな」

 効果範囲から逃れようとするジェックスに宣言するとともに、それまで一緒に戦っていたレジーグやコギッド、ギジリへと爆弾ゴブリンを向かわせる。

 レジーグやアリーたちは魔法の展開とともに後退していたが、レジーグにとっては後退していたことが裏目に出ていた。

 アリーたちは全員が【鬼炎万丈ボンブ・アンサンディエール】よりも後ろに下がることに成功していたが、よもや【激化氷塵(ダイアモンドダスト)】の対象にされるとは思ってもいなかった。

「どういうことだぽん」

 襲いかかってきた爆弾ゴブリンを大棍棒で叩き潰しながら急いで範囲から逸れようとするが途端に【鬼炎万丈ボンブ・アンサンディエール】と二重【激化氷塵(ダイアモンドダスト)】が衝突。

 コギット、ギジリ、オルタネートがなんとか逃れたが、わずかに残った氷霧がレジーグの右半身を凍らせていく。

「危なかったぽん」

 【仮死脱皮】で瀕死を免れ、レジーグが一命を取りとめる。

 がジェックスは逃げることができなかった。すんでで爆弾ゴブリンに袖を引っ張られ、逃げ切れず凍りつく。

 ディエンナがジェックスと一緒に凍りついていた爆弾ゴブリンを起爆。

 呆気なくジェックスは爆散してしまう。

「氷霧の中ぐらいなら大丈夫なーな?」

 誰かにそう問いかけると、後ろからふたつの人影がアリーたちの方へと飛び去っていく。

 とはいえ目的はアリーたちではなかった。

「指令は果したのーな、ジョーカー。じゃあ後は基本命令のまま殲滅はお願いするなーな」

 ディエンナはハート兄弟にそう命令を下す。

 ハート兄弟は悪の改造組織ジョーカーの改人だった。

 組織の命令に従って改造の力を使う冒険者、それが改人。

 基本的に指令には従順で、改造の力を使った後は目撃者をすべて殺すというのが基本命令だった。

 ハート兄弟が叩きのめされた夜、ドゥドドゥドゥ・ザ・ジョーカーはハート兄弟が望んだ改造と絶対服従の改造を施し、改人にした。

 悪の改造組織ジョーカーの裏の顔が改人の製造だ。世界各地にはかなりの数の改人が潜み、指令を受ければ駒として動く。

 しかも普段は変哲もない冒険者にしか見えないのだから判断がつかない。

 ハート兄弟が極秘依頼を受けたのは全くの偶然。毒霧を抜けて指令がきたためディエンナはふたりを活用することにしただけだった。

 ハート兄弟は再び詠唱を始める。

 今度も対象にコギットたちを含めている。改人が改造の力を使った後はそれを隠蔽するように冒険者たちを殲滅するのが組み込まれている基本指令だからだ。


 ***


 僕は死んだ。

 確かにそう思った。

 けれどディエゴの【直襲撃々】が直撃する刹那。

 アリーたちを越えて、ふたりの男女がやってくる。

 女のほうは知らない。

 けれど男のほうは僕がよく知っている顔。

 男がディエゴを吹き飛ばし、僕は死なずに死んだ。

 安堵して腰が砕ける。

「どっかで見たことあるなァ、お前ら」

 立ち上がり唾を吐いたディエゴの疑問に男のほうが応えた。

「改造人間レッドガン・バーニングス」

 瘴気のようなどす黒い闘気に包まれたレッドガンは殺意に目覚め、冷酷に名乗りをあげた。

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