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tenth  作者: 大友 鎬
第9章(前) さりとて世界は変わりゆく
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死歿


41


光災陸離リュミエール・デュ・ソレイユ】と【慧狼雷奔エレクトリスク・ストート】。

 非て似なる属性が混じり合うようにディエゴへと向かう。

 狼を模した雷が大きく口を開き、雷牙をむき出しにして疾走。

 その周囲を覆うように無数の大小ばらばらの光球が展開。帯となって回転。

 光の帯に包まれた雷狼が大地を蹴り、走る。いや走ると言っていいものか、大地を蹴り上げるその時だけ姿が確認でき、瞬きをした頃にはディエゴの眼前にいた。

 それでも慌てないのがディエゴだ。

 接近していたアルをいなして、魔法の範囲外へと逃げるのを遅らせる。

「しまっ……」

 ギリギリで避けようとしていたのか、アルに焦り、

「そいつは任せたァ!!」

 ディエゴがアルを放置したまま、ディエゴが詠唱をわざとゆっくりと開始。

「数多の精霊よォ、俺の声を聞きやがれ」

 アルに選択肢を与え、迷わせるためだ。

 アルがこのまま魔法を止めず、ディエゴの身動きを止めればディエゴ諸共倒せる可能性すらある。その場合確実にアルは死ぬ。

 自分の死を許容できる人間はそうそういない。

 どうすべきか迷った時点で、雷狼はすでにアルの傍に近づいていた。

 【新月流・満月の守】でその身を守り、ディエゴの盾となるしかアルが助かる手段はなかった。

 誰も責められないだろう。アルが身体を張っていたから詠唱時間も稼げた。

 仮にディエゴがその場に留まらなければ、要するに魔法の射程外――広大ではないが3mはある射程から逃げていれば対象を移す【新月流・十三夜の構え】も使えた。

 ディエゴはその対策も兼ねて範囲内から逃げずにいた。

 刀剣〔優雅なるレベリアス〕に纏った闘気が広がり、盾のように甲羅のように、【光災陸離リュミエール・デュ・ソレイユ】を纏った【慧狼雷奔エレクトリスク・ストート】からアルの身を守る。

 「いい判断だァ」

 嘲笑うかのように言った頃にはアルの横を【弱火】が横切っていた。

 アルが自分の身を判断したときにはすでに目にも止まらぬ、というよりも耳にも聞こえぬ速さで属性の定義を終え発動に至っていた。

 しかも対象はアルではない。

 アルのペンダント〔命辛々ナイアガラ〕だけがその行き先を教えてくれる。

 強く強く点滅して。

 アルに焦り。【弱火】の行く先はリアンだった。

 リアンもまたその【弱火】が自分のところへと向かってきていると気づいていた。

 気づいていてなお、動かない。詠唱しているのは癒術。それも自分を守るためではない、モッコスやモココルを救うためのもの。

 アルとは対照的にリアンに焦りはない。

 リアンには見えていたのだ。リアンにとってのもうひとりのヒーローの姿が。


 ***


 ガィンと【弱火】に真横から球がぶつかる。ぶつかった瞬間、半透明の球体が広がり、【弱火】がその場で爆発。

 リアンに当たるはずだった【弱火】をかき消して僕は安堵。

「ンだとォ? 何が起こりやがったッ!」

 アルを無視して走るディエゴが状況を確認して僕を発見。視線があった途端、いやな顔をされる。

「黒煙が上がってて助かったよ」

 独り言のように呟く。実はアリーたちの元へと戻る途中、焦りからか僕は道が分からなくなっていた。

 そのとき黒煙が上がり、僕はおそらく仲間の誰かが黒煙を上げて位置を報せてくれたのだと判断。いちかばちかそちらの方向に走ってここにたどり着いた。

 それが奇しくも僕たちの標となって、リアンの命を救うとは思わなかった。

 黒煙をあげていたのはゲシュタルトの右腕。何がどうなったのかは分からないけれど、何にせよ役に立ったことには変わりない。

 リアンをかばうように僕ははディエゴの間へと入る。とはいえディエゴとはまだ距離がある。

 ディエゴも接近しながら、まるで無詠唱のように【弱火】を連発してきた。

 僕はさっきも【弱火】を防いだ球をぶつける。

 杖の位置さえ見極めればどの方向から【弱火】が放たれたか分かる。

 それが分かりさえすれば僕は同じぐらいの速度で球をぶつけられた。

 ディエゴの階級1魔法に対する攻略法として僕はまた新しい球を造り出していた。

【防壁球】。効果は【防壁】なんかと一緒。ただし固さは速度に影響する。早く投げれば投げるほどその球状の防壁は固くなる。

「ちッ! 理解したぜ。新技能かよ、面倒臭ぇ!」

 速度を上げて【弱火】が放たれる。詠唱に時間を割くためか走るのはやめ、歩きながらこちらへと向かってくる。 

 歩行速度を犠牲にして詠唱速度を倍以上に加速させたような感じだ。

「防げるもんなら防いでみろォ!」

 面倒臭いと言いながらディエゴは笑っていた。

 未知の技能との戦いを楽しんでいるようにも見える。

 ディエゴは目的遂行のために動いているはずなのに、そういう癖でもあるのか、僕を相手にすることに決めたようだった。

 当然、僕が隙を見せれば資質者に攻撃するかもしれず、けれど今は資質者ではなく僕に狙いをつけたようだ。

「どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら、どォら!」

 どォら一回につき【弱火】、【吹水】、【雷鳴】、【宵闇】、【光線】、【落石】、【微風】と属性を変えながらディエゴは魔法を放ってくる。

 そんなに早く詠唱できるのか。……いや、

「レシュリーさん、あれは……」

 仕掛けに気づいたリアンが声をあげる。僕も気づいた。どォらはただの掛け声。詠唱ではない。

 そもそもディエゴはきちんと祝詞を唱えて詠唱の手順を踏んでいた。それが超速だとしても。 

 魔法詠唱の知識が乏しかったりディエゴの超速詠唱を見た後だとその速さに戸惑うかもしれない。

 でも僕はディエゴの手にあるものが何なのか気づいた。仕掛けは丸わかり。

 魔巻物だ。開けば発動するそれを大量に展開していた。

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 連投に次ぐ連投で、展開された魔法すべてに【防壁球】を当てる。

「やっぱり錯覚じゃなかったか。てめぇ〈双腕〉かァ。なるほど、なるほど、だから俺の速さにも対応できるってわけかっ! もちろん、それなりの強さがないとダメだがなァ」

 にやりとディエゴは笑う。

「どうやらてめぇは余所見して勝てるような相手じゃねぇようだァ!」

 言ってディエゴが僕に向かってきた。

 超高速。そして予兆が見た。知識としてしか持っていなかった死の予兆。

 それはすぐに消えた。攻撃の予兆は一瞬に終わっていた。身体の震えに応えるように本能で身体をそらす。

 左腕が吹き飛び、ディエゴが通り過ぎていた。その場にいたら即死だった。

 たぶん【加速】を用いた体当たりだろう。凶悪すぎる! 

 急いで通り過ぎたディエゴのほうを向くとディエゴの黒金石の樹杖〔低く唸るジーガゼーゼ〕から魔力が放出。

 ジージロンダたち頭上で【落石】が展開。一番速度が遅い階級1の魔法だ。

 間に合うッ! 咄嗟に判断。失ってない右腕ですぐに【防壁球】を【造型】。

 瞬く間に投げて落下する【落石】に激突。すぐに防壁が展開されて、粉々に砕けていく。速度も自然落下程度に減速し、この程度ならジージロンダたちにも支障がないはず。

「余所見じゃ勝てないが、チラ見程度でも勝てるみてェだなァ!!」

 安堵する暇もなく声。

 振り向くとディエゴが僕を見て笑っていた。殺意が飛んでくる。振り上がった黒金石の樹杖には闘気。打術だ。

 そこでようやく【落石】は囮だと気づかされる。僕を無視して資質者を倒すつもりなら速度の早い【光線】のほうがおそらく確実だからだ。

 むき出しの殺意、振り上げられた杖。まるで周囲のものが遅くなったようにゆっくりと、また予兆が見えた。

 でもどうやっても逃げられない。【直襲撃々】が振り下ろされ――

 ごめん――アリー。


 僕は死んだ。

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